限定承認の意義
922条は相続人は相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して相続の承認をすることができると定めています。相続人は本来相続債務について無限責任を負いますが債務の過大な承継から相続人の利益を守るために相続財産を限度とする有限責任に転化する手段を相続人に与えたものです。
物的有限責任
限定承認した相続人であっても被相続人に属していた債務の全額を承継するのであってただ債務の引当てとして相続財産を限度とする有限責任を負うにすぎないとされています。
不動産の死因贈与を受けた相続人が限定承認をした場合に死因贈与に基づく限定承認者への所有権移転登記が相続債権者による差押登記より先になされたとしても信義則に照らし限定承認者は相続債権者に対して当該不動産の所有権取得を対抗できないとされています。
共同相続人の限定承認
923条は相続人が数人あるときは限定承認は共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができると定めています。個別の限定承認を許すと清算手続が煩雑になることから共同相続人全員での限定承認を要するとされています。
共同相続人の1人が相続放棄した場合には放棄した相続人は初めから相続人でなかったことになるため他の共同相続人が全員で共同すれば限定承認をすることができると解されています。
限定承認の方式
924条は相続人は限定承認をしようとするときは熟慮期間内に相続財産の目録を作成してこれを家庭裁判所に提出し限定承認をする旨を申述しなければならないと定めています。
限定承認をしたときの権利義務
925条は相続人が限定承認をしたときはその被相続人に対して有した権利義務は消滅しなかったものとみなすと定めています。
限定承認者による管理
926条1項は限定承認者はその固有財産におけるのと同一の注意をもって相続財産の管理を継続しなければならないと定めています。同条2項は受任者による報告、受取物の引渡し等及び費用の償還請求等の規定を準用しています。
相続債権者及び受遺者に対する公告及び催告
927条1項は限定承認者は限定承認をした後5日以内にすべての相続債権者及び受遺者に対し限定承認をしたこと及び一定の期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければならないと定めています。この期間は2か月を下ることができません。
同条2項はこの公告には相続債権者及び受遺者がその期間内に申出をしないときは弁済から除斥されるべき旨を付記しなければならないと定めています。ただし限定承認者は知れている相続債権者及び受遺者を除斥することができません。
同条3項は限定承認者は知れている相続債権者及び受遺者には各別にその申出の催告をしなければならないと定めています。同条4項はこの公告は官報に掲載してすると定めています。
公告期間満了前の弁済の拒絶
928条は限定承認者は公告期間の満了前には相続債権者及び受遺者に対して弁済を拒むことができると定めています。
公告期間満了後の弁済
929条は公告期間が満了した後は限定承認者は相続財産をもってその期間内に申出をした相続債権者その他知れている相続債権者にそれぞれその債権額の割合に応じて弁済をしなければならないと定めています。ただし優先権を有する債権者の権利を害することはできません。
優先権を有する債権者の権利に当たるというためには対抗要件を必要とする権利については被相続人の死亡時までに対抗要件を具備していることを要するとされています。
期限前の債務等の弁済
930条1項は限定承認者は弁済期に至らない債権であっても上記の規定に従って弁済をしなければならないと定めています。同条2項は条件付きの債権又は存続期間の不確定な債権は家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って弁済をしなければならないと定めています。
受遺者に対する弁済
931条は限定承認者は各相続債権者に弁済をした後でなければ受遺者に弁済をすることができないと定めています。
弁済のための相続財産の換価
932条は弁済をするにつき相続財産を売却する必要があるときは限定承認者はこれを競売に付さなければならないと定めています。ただし家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従い相続財産の全部又は一部の価額を弁済してその競売を止めることができます。
相続債権者及び受遺者の換価手続への参加
933条は相続債権者及び受遺者は自己の費用で相続財産の競売又は鑑定に参加することができると定めています。
不当な弁済をした限定承認者の責任
934条1項は限定承認者は公告若しくは催告をすることを怠り又は公告期間内に相続債権者若しくは受遺者に弁済をしたことによって他の相続債権者若しくは受遺者に弁済をすることができなくなったときはこれによって生じた損害を賠償する責任を負うと定めています。弁済の順序に関する規定に違反して弁済をしたときも同様です。
同条2項は情を知って不当に弁済を受けた相続債権者又は受遺者に対する他の相続債権者又は受遺者の求償を妨げないと定めています。
公告期間内に申出をしなかった相続債権者及び受遺者
935条は公告期間内に申出をしなかった相続債権者及び受遺者で限定承認者に知れなかったものは残余財産についてのみその権利を行使することができると定めています。ただし相続財産について特別担保を有する者はこの限りではありません。
相続人が数人ある場合の相続財産の清算人
936条1項は相続人が数人ある場合には家庭裁判所は相続人の中から相続財産の清算人を選任しなければならないと定めています。同条2項は相続財産の清算人は相続人のためにこれに代わって相続財産の管理及び債務の弁済に必要な一切の行為をすると定めています。
令和3年改正により相続財産の清算を目的として選任される者の名称が相続財産の管理人から相続財産の清算人に改められました。
法定単純承認の事由がある場合の相続債権者
937条は限定承認をした共同相続人の1人又は数人について法定単純承認に掲げる事由があるときは相続債権者は相続財産をもって弁済を受けることができなかった債権額について当該共同相続人に対しその相続分に応じて権利を行使することができると定めています。
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