表現の自由に対する規制と給付

表現の自由に対する規制とは、国家が国民の自由な表現活動を禁止、制限したり、事後的にその法的責任を問う場合をいいます。一方、現代では、国が国民の表現活動に資金を助成したり、表現のための場を提供するなど、表現の自由を実質化する一定の給付も行われています。

規制と給付では、その法的性質が異なります。給付について、国が優れた表現活動を客観的に選別して助成等を行うことは許容されるものと解されます。しかし、政府を批判しない作品であることを給付の条件とすることが許容されるのかが問題となります。

政府による偏った給付が大規模に、しかも不透明な形で行われれば、思想の自由市場論という表現の自由の意義が大きく損なわれることになります。また給付は表現の自由に対する通常の意味での制約とはいえないと考えられるため、どのように解すべきかが問題となるのです。

公立図書館蔵書廃棄事件

公立図書館の司書による図書廃棄が問題となった判例があります。事案は、市が設置した図書館の職員が、ある著者とその著作に対する否定的評価と反感から、独断で図書館の蔵書のうちからその著者の執筆ないし編集にかかる書籍を含む107冊を、図書館資料除籍基準に定められた除籍対象資料に該当しないにもかかわらず廃棄したというものです。著者らは、廃棄により著作者としての人格的利益等を侵害されたとして、市と職員に対し損害賠償を求めました。

判旨の要点

判決は、公立図書館は住民に対して思想、意見その他の種々の情報を含む図書館資料を提供してその教養を高めること等を目的とする公的な場であるとしました。

公立図書館の図書館職員は、独断的な評価や個人的な好みにとらわれることなく、公正に図書館資料を取り扱うべき職務上の義務を負うものであり、閲覧に供されている図書について、独断的な評価や個人的な好みによってこれを廃棄することは、図書館職員としての基本的な職務上の義務に反するとしました。

他方、公立図書館は住民に図書館資料を提供するための公的な場であるとともに、そこで閲覧に供された図書の著作者にとって、その思想、意見等を公衆に伝達する公的な場でもあるということができるとしたのです。

したがって、公立図書館の図書館職員が閲覧に供されている図書を著作者の思想や信条を理由とするなど不公正な取扱いによって廃棄することは、当該著作者が著作物によってその思想、意見等を公衆に伝達する利益を不当に損なうものであるとしました。

著作者の思想の自由、表現の自由が憲法により保障された基本的人権であることにもかんがみると、公立図書館において、その著作物が閲覧に供されている著作者が有する上記利益は、法的保護に値する人格的利益であると解するのが相当だとしました。

公立図書館の職員である公務員が、図書の廃棄について、基本的な職務上の義務に反し、著作者又は著作物に対する独断的な評価や個人的な好みによって不公正な取扱いをしたときは、当該図書の著作者の人格的利益を侵害するものとして国家賠償法上違法となるとしたのです。

この判決については、自己の著作物を購入して閲覧に供するよう公立図書館に求める権利までは著作者に保障されていないが、ひとたびパブリック・フォーラムである公立図書館において著作物が閲覧に供され、受け手である市民に自己の思想・意見等を伝達する機会が与えられた場合にはこの機会の付与を給付と見立てることができ、著作者は著作物によってその思想・意見等を公衆に伝達する人格的利益を取得するから、閲覧に供された図書を職員が著作者の思想や信条を理由として廃棄したときは著作者の人格的利益を侵害するものとして許されないとの立場をとったものと解されています。

宮本から君へ事件

より直接的に給付をめぐる表現の自由への萎縮効果が問題となったものが、映画製作への助成金不交付事件です。

独立行政法人日本芸術文化振興会が映画製作会社に対し、映画を対象とする助成金の交付内定を行いました。ところが、出演者の一人が禁止薬物を使用し、その有罪判決が確定したため、理事長が公益性の観点から適当ではないとの理由により、助成金を交付しない処分を行ったのです。映画製作会社は、当該処分の取消しを求めて訴えを提起しました。

宮本から君へ事件の判旨

判決は、本件助成金については、補助金等適正化法などの法令に具体的な交付の要件等を定める規定がないことや、芸術の創造又は普及を図るための活動に対する援助等により芸術その他の文化の向上に寄与するという趣旨の下、限られた財源によって賄われる給付であること、その趣旨ないし目的を達成するためにどのような活動を助成の対象とすべきかを適切に判断するには芸術等の実情に通じている必要があることなどからすると、その交付に係る判断は、理事長の裁量に委ねられており、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した場合に違法となるとしました。

芸術的な観点からは助成の対象とすることが相当といえる活動についても、本件助成金を交付すると一般的な公益が害されると認められるときは、そのことを交付に係る判断において消極的な事情として考慮することができるとしました。

しかし、芸術的な観点からは助成の対象とすることが相当といえる活動につき、本件助成金を交付すると当該活動に係る表現行為の内容に照らして一般的な公益が害されることを理由とする交付の拒否が広く行われるとすれば、公益がそもそも抽象的な概念であって助成対象活動の選別の基準が不明確にならざるを得ないことから、助成を必要とする者による交付の申請や助成を得ようとする者の表現行為の内容に萎縮的な影響が及ぶ可能性があるとしたのです。

このような事態は、芸術家等の自主性や創造性をも損なうものであり、憲法21条1項による表現の自由の保障の趣旨に照らしても、看過し難いとしました。

そうすると、本件助成金の交付に係る判断において、これを交付するとその対象とする活動に係る表現行為の内容に照らして一般的な公益が害されるということを消極的な考慮事情として重視し得るのは、当該公益が重要なものであり、かつ当該公益が害される具体的な危険がある場合に限られるとしました。

本件映画の製作活動につき本件助成金を交付したからといって、直ちに薬物に対する許容的な態度が一般に広まり薬物を使用する者等が増加するという根拠も見当たらないから、薬物乱用の防止という公益が害される具体的な危険があるとはいい難いとしたのです。

したがって、本件処分にあたり、本件助成金を交付すると、薬物乱用の防止という公益が害されるということを消極的な考慮事情として重視することはできないとしました。

本件処分は、重視すべきでない事情を重視した結果、社会通念に照らし著しく妥当性を欠いたものであり、理事長の裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法であるとしたのです。

この判決は、芸術的活動への助成金不交付決定について、表現行為への萎縮可能性を指摘し、密度の高い裁量統制を行ったものと評されています。

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