間接正犯の意義
間接正犯とは他人を道具として利用することによって犯罪を実現する場合をいいます。
間接正犯の正犯性は直接正犯と同じく自ら構成要件実現の現実的危険性を有する行為を行ったと評価できる点にあります。客観的には被利用者の行為をあたかも道具のごとく一方的に利用及び支配し被利用者の行為を通じて一定の構成要件を実現する場合であり主観的には被利用者の行為を道具のごとく一方的に利用及び支配する意思があるときに間接正犯の成立を認めることができます。
一方的な利用及び支配関係を認定する際の重要な観点として規範的障害の有無が挙げられます。規範的障害とは被利用者が犯罪遂行を思いとどまろうという反対動機を形成する場合に利用者に抵抗し道具のごとく一方的に利用及び支配したとはいえなくなるという意味での障害です。規範的障害が認められる場合には通常一方的な利用及び支配関係が認められないので間接正犯は成立しません。
自手犯
自手犯とは行為者自身の直接の実行が必要で間接正犯の形態では犯すことができない犯罪類型をいいます。
間接正犯の成立要件
間接正犯の成立には主観的要件として故意の他に他人を道具として利用しながらも特定の犯罪を自己の犯罪として実現する意思を有していること及び客観的要件として行為者が被利用者の行為をあたかも道具のように一方的に利用及び支配し構成要件を実現する危険性を生じさせることが必要です。
刑法上行為といえないものを利用する類型
事理弁識能力を欠く者を利用する場合として幼児や高度の精神病者の利用があります。もっとも単なる責任無能力者にすぎない場合とりわけ刑事未成年者にすぎない者の利用については一般に一方的な利用関係は認めにくいので教唆犯とすべき場合が多いとされています。
判例は当時12歳10か月の長男に金品を奪うことを指示及び命令した事案について長男に事理弁識能力があり指示命令は長男の意思を抑圧するに足る程度のものではなく長男が自らの意思で臨機応変に犯行を完遂したことなどの事情をもとに間接正犯の成立を否定しています。さらに同判例は自ら犯行を計画し犯行方法を教示し道具を与えるなどしたうえ金品をすべて領得したことなどをもとに教唆犯ではなく共同正犯の成立を認めています。
意思を抑圧された者を利用する場合として物理的強制により手を押さえて文章に記入させた場合や心理的強制により日頃逆らえば暴行を加えて自己の意のままに従わせていた者に犯行を命じて行わせた場合があります。判例は日ごろから暴行を加えて自己の意のままに従わせていた12歳の養女に窃盗を行わせた事案について自己の日ごろの言動に畏怖し意思を抑圧されている同女を利用して窃盗を行ったと認められるからたとえ同女が是非善悪の判断能力を有するものであったとしても窃盗罪の間接正犯が成立するとしています。
被利用者が一定の構成要件を欠く場合
その犯罪の故意を欠く者の利用として被利用者の無過失の行為を利用する場合や被利用者の過失行為を利用する場合があります。
目的犯における目的のない者を利用する場合として行使の目的を隠して偽札を作らせた場合があり通貨偽造罪の間接正犯が成立します。
被害者の行為の利用
判例は被害者をして被告人の命令に応じて車ごと海中に飛び込む以外の選択肢がない精神状態に陥らせて車ごと海中へ飛び込ませるという自ら死亡させる現実的危険性の高い行為に及ばせた行為は殺人罪の実行行為に当たるとして殺人罪の成立を認めています。
また判例は非科学的な力による難病治療を標ぼうしていた者が重度の糖尿病患者である小児にインスリンを定期的に摂取しなければ死亡する現実的な危険性があることを認識しながらその母親に対しインスリンの不投与を執ようかつ強度に働き掛け母親がインスリンの投与という期待された作為に出ることができない精神状態に陥り小児が死亡した事案について未必的な殺意をもって母親を道具として利用し殺人罪が成立するとしています。
軽い犯罪の故意しかない者の利用
利用者が実現しようとした構成要件について被利用者に故意がなくそれ以外の構成要件の故意がある場合に利用者に間接正犯が成立するかが問題となります。
間接正犯説は通説であり教唆犯は正犯の犯罪の故意を生ぜしめなければ成立しないところ被利用者には軽い犯罪の故意しかなく重い犯罪に関しては利用者に一方的に利用及び支配されていることを根拠とします。
教唆犯説は有力説であり被利用者は行為の違法性を意識する契機が現実に与えられているから利用者の犯罪実現のための道具として被利用者を利用したとはいえないことを根拠とします。
身分なき故意ある道具の利用
身分犯において身分のない者の故意行為を身分者が利用した場合に利用者に間接正犯が成立するかが問題となります。
甲説は身分犯における法規範は身分者に対してのみ向けられているのであるから非身分者を利用する行為は規範的障害を欠く者の利用といえるとして利用者に間接正犯の成立を認めます。
乙説は身分者が非身分者を一方的に支配する関係にある場合には間接正犯の成立を認めることが可能であるがそうでない場合には利用者及び被利用者ともに共同正犯で処罰すべきであるとします。
丙説は被利用者は事情を十分に知っている以上道具とはいえないとして利用者に教唆犯の成立を認めます。
故意ある幇助的道具の利用
利用者が実現しようとした構成要件について被利用者に故意がありその被利用者は構成要件を実現する行為をしているが正犯意思はなく他人のためにする意思しかない場合に利用者に間接正犯が成立するかが問題となります。
有力説は被利用者に犯罪の故意があり規範的障害が認められるから間接正犯は成立せず利用者には教唆犯が成立し被利用者には直接正犯が成立するとします。
裁判例の立場は被利用者に共犯者の意思しかなく規範的障害が弱いから利用者には間接正犯が成立し被利用者には幇助犯が成立するとします。
適法行為者の利用
利用者が被利用者の適法行為を利用した場合に利用者に間接正犯が成立するかが問題となります。
甲説は正当防衛行為をする者は規範に直面しえないのであるから利用者の道具といえるとして間接正犯の成立を認めます。
乙説は被利用者の正当防衛行為を利用して侵害する行為はあまりに偶然に左右される側面が強いこと及び利用者と被利用者の間には意思疎通がないので教唆犯の成立は認められないことを理由として間接正犯も教唆犯もいずれも成立しないとします。
丙説は間接正犯不要説の立場から利用者に教唆犯の成立を認めます。もっとも正犯行為に正当防衛が成立するのに教唆犯の成立を認めるので違法の相対性の問題が生じます。
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