財政の意義
財政とは国家がその任務を行ううえで必要な財力を調達し管理し使用する作用をいいます。
日本国憲法では財政の表題の下に9か条の条文を置き財政の基本的かつ一般的な原則規定を設けています。歳入面では租税法律主義が定められ歳出面では国費の支出及び国庫債務負担行為の議決や予算の作成と国会の議決が定められています。また公金その他公の財産の支出や利用の制限、皇室財産と皇室の費用、決算及び財政状況の報告に関する規定が設けられています。
財政立憲主義の意義
83条は国の財政を処理する権限は国会の議決に基いてこれを行使しなければならないと定めています。国の財政は国民生活に重大な影響を及ぼすものであるから国民が不当な負担を被ることのないよう財政処理の一般原則として国の財政作用全般に対する国民による民主的コントロールが要請されます。
財政立憲主義とは国の財政を国民の代表機関である国会の統制下に置くという原則をいいます。ここにいう財政を処理する権限とは国の財政作用を行ううえで必要となる諸権限をいい租税の賦課や徴収、金銭の借入、国費の支出及び国の財産の管理等を含みます。
国会の議決とは必ずしも国の財政作用に属するすべての行為について個別的に国会の議決が必要であるとする趣旨ではなく各種の財政作用がどのような方式で国会の議決に基づくことになるかは次条以下において定められています。
租税法律主義の意義
84条はあらたに租税を課し又は現行の租税を変更するには法律又は法律の定める条件によることを必要とすると定めています。この原則は30条で国民の義務の側面からも規定されており歴史的には近代諸憲法の代表なければ課税なしの思想に基づきます。
租税法律主義の原則とは租税の賦課や徴収は必ず国会の議決する法律によらなければならないとする原則をいいます。84条は永久税主義を容認するものであっていわゆる1年税主義を原則とするものではありません。もっとも1年税主義を否定するものではなく法律で1年税主義を定めることも許されます。
租税法律主義の内容
租税法律主義の主な内容として課税要件法定主義と課税要件明確主義の二つがあります。
課税要件法定主義とは納税義務者、課税物件、課税標準及び税率などの課税要件を法定すること並びに租税の賦課や徴収の手続を法定することをいいます。
課税要件明確主義とは課税要件及び賦課や徴収を定める手続は誰でもその内容を理解できるように明確に定められなければならないことをいいます。
命令への委任と通達課税
租税に関する事項の細目に至るまで法律で定めることは実際的ではなく命令への委任が認められます。しかし命令への委任は課税要件法定主義に照らし個別的かつ具体的でなければなりません。
通達は税務行政上法律改正をまたずに特定の解釈や措置を導入する手段として用いられていますがこれが租税法律主義に反しないかが問題となります。
パチンコ球遊器通達課税事件において判例は従来事実上非課税として取り扱われてきたパチンコ球遊器について通達を機縁として課税が行われた場合であっても通達の内容が法の正しい解釈に合致するものである以上当該課税処分は法の根拠に基づく処分と解するに妨げがないとしました。もっともこのように実質上通達による新たな課税になることは租税法律主義から問題があるとの批判があります。
租税の意義と租税法律主義の適用範囲
固有の意味における租税とは国又は地方公共団体がその課税権に基づきその使用する経費に充当するために強制的に徴収する金銭給付を指します。
財政法3条は租税を除く外国が国権に基いて収納する課徴金及び法律上又は事実上国の独占に属する事業における専売価格若しくは事業料金についてはすべて法律又は国会の議決に基いて定めなければならないと規定しています。この規定が83条ないし84条の当然の結論を明らかにしたものかどうかについては争いがあります。
A説は財政法3条は84条の租税法律主義ではなく83条の財政立憲主義の要求によって規定されたとします。固有の意味の租税と各種負担金や手数料等との性質の差異に応じた国会のコントロールを認めることが財政立憲主義の観点からは必要であるとして84条の適用範囲を固有の意味の租税に限定します。
B説は財政法3条は84条の租税法律主義の要求によって規定されたとします。租税法律主義をおよそ国がその収入のために国民から一方的かつ強制的に賦課や徴収する金銭的負担については国会の議決に基づかなければならないことを要求する原則と捉え84条の適用範囲を固有の意味の租税に限定せず広く捉えます。ただしB説によれば財政法3条が違憲の条項となってしまうとの批判があります。その理由は財政法3条の法律又は国会の議決に基いてという文言は84条の法律又は法律の定める条件とは異なり具体的金額や算定基準までの法定は要求しない内容と解されるからです。
この他に財政法3条は83条ないし84条の要求によってではなく立法政策上の判断によって設けられたにすぎないとする見解もあります。
条例と租税法律主義
84条の租税は国税のみを指し地方税は含みませんが84条の趣旨は地方税にも及ぶと解されています。そこで条例による地方税の賦課や徴収につき法律による授権が必要か否かが問題となります。
A説は条例による地方税の賦課は84条の例外であり法律による条例への授権が必要となるが国税の場合と異なって大幅に条例に委任することが認められるとします。地方公共団体の課税権は地方公共団体に固有のものではなく国の課税権の一部が付与されたものであるから地方税の賦課や徴収にも当然に法律の根拠が必要であるが地方税については法律で詳細に内容を定めがたい場合がありかえって一定の範囲内で地方公共団体の自治権に委ねた方が妥当であることがその理由です。
B説は通説であり84条の法律には条例が含まれるため法律による授権は不要であるとします。地方公共団体は憲法上直接課税権を有するから84条の租税法律主義は地方税では租税条例主義が予定されていること及び租税法律主義の趣旨は行政権による専断的な課税を防止するところにあるところ民主的な手続によって制定された条例は法律に準じるものと解してよいことがその理由です。
旭川市国民健康保険料事件
旭川市国民健康保険料事件において判例は次のように判示しました。
国民健康保険の保険料は租税ではなく租税法律主義を定めた84条は直接適用されません。しかし国や地方公共団体等が賦課徴収する租税以外の公課であってもその性質に応じて法律又は法律の範囲内で制定された条例によって適正な規律がされるべきものと解すべきであり84条に規定する租税ではないという理由だけから同条の趣旨が及ばないと判断することは相当ではないとされました。
市町村が行う国民健康保険は賦課徴収の強制の度合いにおいては租税に類似する性質をもつため84条の趣旨が及ぶと解すべきであるところ国民健康保険法81条の委任に基づき条例において賦課要件がどの程度明確に定められるべきかは賦課徴収の強制の度合いのほか社会保険としての国民健康保険の目的や特質等をも総合考慮して判断する必要があるとされました。そして旭川市国民健康保険条例が保険料率算定の基礎となる賦課総額の算定基準を定めたうえで市長に対し保険料率を同基準に基づいて決定して告示の方式により公示することを委任したことは国民健康保険法81条に違反せず84条の趣旨にも反しないとされました。
また保険料率については恣意的な判断が加わる余地はなく賦課期日後に決定されたとしても法的安定性が害されるものではないので市長が条例の規定に基づき保険料率を各年度の賦課期日後に告示したことは84条の趣旨に反しないとされました。
さらに条例の規定が恒常的に生活が困窮している状態にある者を保険料の減免の対象としていないことは国民健康保険法77条の委任の範囲を超えるものではなく著しく合理性を欠くということはできず経済的弱者について合理的な理由のない差別をしたものということもできないので25条及び14条に違反しないとされました。
租税法における遡及的立法
不動産等の譲渡所得に係る損益通算を一定の場合に認めないこととした改正法が施行日より前に遡って適用される旨規定していたことについて判例は84条は課税関係における法的安定が保たれるべき趣旨を含むとしました。そして納税者の租税法規上の地位が変更され課税関係における法的安定に影響が及びうる場合の憲法適合性は当該財産権の性質、その内容を変更する程度及びこれを変更することによって保護される公益の性質などの諸事情を総合的に勘案しその変更が当該財産権に対する合理的な制約として容認されるべきものであるかどうかによって判断するとしました。
当該改正附則が改正法の遡及的適用を認めたのは具体的な公益上の要請に基づくものであるのに対し当該改正によって事後的に変更されるのは納税者の納税義務それ自体ではなく損益通算をして租税負担の軽減を図ることを納税者が期待しうる地位にとどまることや租税法規は財政や経済及び社会政策等の国政全般からの総合的な政策判断及び極めて専門技術的な判断を踏まえた立法府の裁量的判断に基づき定立されるものであることも勘案すると当該改正附則は納税者の租税法規上の地位に対する合理的な制約として容認され84条の趣旨に反しないとされました。
国費の支出と国の債務負担行為
85条は国費を支出し又は国が債務を負担するには国会の議決に基くことを必要とすると定めています。83条に定められた財政立憲主義の原則を支出面で具体化したものです。
国費の支出とは国の各般の需要を充たすための現金の支払をいいます。国費の支出に対する国会の議決は86条に定める予算の形式によってなされます。
国が債務を負担するとは財政上の需要を充足するのに必要な経費を調達するために債務を負うことをいいます。国の債務負担に対する国会の議決についてはその方式について憲法は特別の定めをしておらず財政法は国会の議決方式として法律と予算の二つの形式を認めています。法律の形式による債務負担行為は国が財政上の目的のために負担する債務であってその償還時期が次年度以降にわたるものです。予算の形式による債務負担行為には歳出予算内の債務負担行為と歳出予算外の債務負担行為があります。
関税と租税法律主義
関税は関税法及び関税定率法によるのが原則です。条約によって特別の定めがあるときはそれによりますがこのことは84条に反しないとされています。関税の賦課徴収については対外関係を考慮せざるをえないこと及び条約の形式的効力は法律に優ることがその理由です。
アプリの紹介
過去問を一文一問形式で解けるアプリを開発しました。
