わいせつ表現と刑法175条
刑法175条は社会の健全な性的風俗を保護するため、わいせつな図書をはじめとするわいせつ物の頒布や公然陳列などを処罰しています。
チャタレイ事件
わいせつの意義やわいせつ性の判断方法について、最高裁大法廷はわいせつとは徒らに性欲を興奮又は刺激せしめかつ普通人の正常な性的羞恥心を害し善良な性的道義観念に反するものをいうとしました。刑法175条のわいせつ文書に当たるかどうかの判断は当該著作についてなされる事実認定の問題でなく法解釈の問題であるとしました。
この判決は芸術性とわいせつ性の関係についても判断し、本書の芸術性はその全部についてばかりでなく性的描写の部分についても認め得られないではないとしつつも、芸術性とわいせつ性とは別異の次元に属する概念であり両立し得ないものではないから、芸術的表現をわいせつ文書と認めその出版を公共の福祉に違反するものとしても憲法21条には反しないとしました。
全体的考察方法の展開
チャタレイ事件判決によれば文書や図画の一部にでもわいせつな表現が認められればたとえ当該文書や図画に芸術的または学問的価値がある場合でもわいせつ性が認定されてしまいますが、それでは表現の自由を過度に制約します。そのため以後の判例ではわいせつ性の有無について全体的考察方法という手法が用いられその精密化が図られるようになりました。
全体的考察方法について、わいせつ性の有無は文書全体との関連において判断されなければならないとされ、性行為についての露骨な表現が一部に存在しても文書がもつ芸術性や思想性が文書の内容である性的描写による性的刺激を減少し緩和させてわいせつ性を解消させる場合があるとされました。
さらにこの方法が精密化され、わいせつ性は、性に関する露骨で詳細な描写叙述の程度とその手法、この描写叙述の文書全体に占める比重、文書に表現された思想等とこの描写叙述との関連性、文書の構成や展開、さらには芸術性や思想性等による性的刺激の緩和の程度の観点から、文書を全体としてみて主として読者の好色的興味にうったえるものと認められるか否かなどの諸点から判断すべきであるとされました。
メイプルソープ写真集事件
日本国内において既に頒布され販売されているわいせつ表現物を国外に持ち出し再び国内に持ち込もうとしたところ税関検査による輸入規制の対象とされた事案です。
最高裁は、写真集のわいせつ性について写真集における芸術性など性的刺激を緩和させる要素の存在、各写真の写真集全体に占める比重、その表現手法等の観点から写真集を全体としてみて判断すべきであるとし、本件写真集が主として見る者の好色的興味に訴えるものと認めることは困難であるとしました。
有害図書
有害図書とは、性的感情を刺激したり残忍性を助長したりする等、青少年の健全な育成を阻害するおそれのある図書等をいいます。青少年の健全な育成を保護するため各地方公共団体は青少年保護育成条例を制定して有害図書の規制を設けていますが、成人との関係では有害図書を販売し又は頒布する自由及び成人の知る権利に対する制約になることから、必要な限度のものといえるかが問題となります。
有害図書の指定方式は、自治体の長による図書の個別指定を受け販売や収納等を禁止する個別指定方式が一般的ですが、個別指定を要さず条例や規則が事前に定めた条件に該当する図書の販売や収納等を禁止する包括指定方式もあります。
岐阜県青少年保護育成条例事件
包括指定方式の合憲性が問題となった事案です。
最高裁は、有害図書が一般に思慮分別の未熟な青少年の性に関する価値観に悪い影響を及ぼし性的な逸脱行為や残虐な行為を容認する風潮の助長につながるものであって青少年の健全な育成に有害であることは既に社会共通の認識になっているとしました。さらに、自動販売機による有害図書の販売は売手と対面しないため心理的に購入が容易であること、昼夜を問わず購入ができること、収納された有害図書が街頭にさらされているため購入意欲を刺激しやすいことなどの点において書店等における販売よりもその弊害が一段と大きいとしました。しかも、自動販売機業者において有害図書としての指定がされるまでの間に当該図書の販売を済ませることが可能であり、このような脱法的行為に有効に対処するためには包括指定方式も必要性がありかつ合理的であるとしました。
そうすると有害図書の自動販売機への収納の禁止は青少年に対する関係において憲法21条1項に違反しないことはもとより、成人に対する関係においても有害図書の流通を幾分制約することにはなるものの青少年の健全な育成を阻害する有害環境を浄化するための規制に伴う必要やむを得ない制約であるから、憲法21条1項に違反するものではないとしました。
伊藤補足意見と青少年の知る権利
補足意見は、知る自由の保障は提供される知識や情報を自ら選別してそのうちから自らの人格形成に資するものを取得していく能力が前提とされているとしました。青少年は一般的にみて精神的に未熟であってこの選別能力を十全には有しておらず、その受ける知識や情報の影響をうけることが大きいとみられるから、成人と同等の知る自由を保障される前提を欠くとしました。
したがって青少年のもつ知る自由は一定の制約をうけ、その制約を通じて青少年の精神的未熟さに由来する害悪から保護される必要があるとしました。そのため、ある表現が受け手として青少年にむけられる場合には成人に対する表現の規制の場合のように、その制約の憲法適合性について厳格な基準が適用されないとしました。そうであるとすれば、より制限的でない他の選びうる手段の存在するときは制約は違憲となるなどの原則はそのまま適用されないし、違憲判断の基準についても成人の場合とは異なり多少とも緩和した形で適用されるとしました。
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