弁済の意義
473条は債務者が債権者に対して債務の弁済をしたときはその債権は消滅すると定めています。弁済とは債務者がその内容である給付を実現して債権者の利益を充足させる行為をいいこれにより債権はその目的を達して消滅します。履行は債権の動的側面から見た場合であり弁済は債権の消滅という側面から見た場合であり両者は同一のものです。
弁済の法的性質
弁済は準法律行為としての性質をもつと解されています。弁済は債権の目的が達せられたという事実によって債権を消滅させるものであり弁済をする者の効果意思に基づいて債権の消滅という効果を発生させるものではないからです。したがって詐欺により弁済した場合でも弁済を取り消すことなく不当利得の返還請求をすることができます。
第三者の弁済
474条1項は債務の弁済は第三者もすることができると定めています。給付実現行為たる弁済は必ずしも債務者の行為をまたないでも第三者の行為によって実現できる場合が多いこと及び債権者にとっては給付者が誰であるかは関心がなく第三者にとっても債務者に代わって弁済する必要がある場合が少なくないことがその趣旨です。
第三者の弁済とは第三者が他人の債務を他人の債務として自己の名において弁済することです。第三者が他人の債務を自己の債務として弁済するときには広義の非債弁済となり債務者本人の名においてなす場合は権限がない限り無権代理となります。弁済とは本来の意味の弁済に限らず代物弁済及び供託も含まれますが相殺はこれに含まれません。対立する両債権の当事者間の公平を図る相殺の趣旨に反するためです。
第三者の弁済が許されない場合
474条2項は弁済をするについて正当な利益を有する者でない第三者は債務者の意思に反して弁済をすることができないと定めています。ただし債務者の意思に反することを債権者が知らなかったときはこの限りではありません。
正当な利益を有するとは債務の弁済につき法的利害関係のあることをいいます。正当な利益を有する者として借地上の建物賃借人が敷地の地代の弁済について、保証人が委託の有無を問わず、物上保証人、後順位担保権者及び担保目的物の第三取得者があります。これらの者は弁済による代位が生じ対抗要件の具備は不要です。正当な利益を有する者は債務者の意思に反しても弁済をなすことが可能です。
債務者の意思に反してとは第三者の弁済当時に債務者の意思に反することを意味しあらかじめその意思を表示したかどうかにかかわらず事実上債務者の意思に反する場合をいいます。ただしこの場合であっても債務者の意思に反することを債権者が知らなかった場合には当該弁済は有効となります。
474条3項は正当な利益を有しない第三者は債権者の意思に反して弁済をすることができないと定めています。正当な利益を有しない第三者からの弁済の提供が債務者の意思に反しない場合であっても債権者がこの受領を拒絶できることが原則です。債権者は正当な利益を有するか否かという客観的に判断可能な要件によってのみ第三者からの給付を受領するか拒絶するかを決定することができます。ただし債務者の委託を受けた弁済であることを債権者が知っていた場合には当該弁済は有効となります。
474条4項は債務の性質が第三者の弁済を許さないとき又は当事者が第三者の弁済を禁止し若しくは制限する旨の意思表示をしたときは第三者弁済に関する規定は適用されないと定めています。一身専属的給付は債務の性質上第三者弁済が許されません。契約により生じた債務については契約をもって単独行為により生じた債務については一方的意思表示をもって第三者の弁済を禁じ若しくは制限することができます。なお当事者が第三者による弁済を禁止した場合でも保証人は自己の保証債務の弁済をなすことができます。
第三者の弁済の効果
第三者の弁済が要件を満たして有効な場合は債務者の債務は消滅し第三者は債務者に対し求償権を取得します。弁済による債務の消滅は絶対的なものです。弁済提供の効果も通常の債務者による弁済の提供と同一の効果を生じます。第三者の弁済が要件を満たさない場合には弁済は無効であり第三者は債権者に対して不当利得返還請求権を取得します。
弁済として引き渡した物の取戻し
475条は弁済をした者が弁済として他人の物を引き渡したときはその弁済をした者は更に有効な弁済をしなければその物を取り戻すことができないと定めています。弁済者には処分権限がないため所有権の移転等の処分の効果が生ずることはなく通常は弁済の効力は生じません。しかし反対給付をしているような場合に債務者から無条件に物の取戻しを請求されると債権者に不都合であるため弁済者の取戻しに制限を加え債権者の利益ひいては取引の安全を保護する趣旨です。
本条は債権の目的が物の給付であり種類物の引渡しを目的とする債権について適用されます。特定物の引渡しを目的とする債権の場合には弁済者は更に有効な弁済をすることができません。債権者が即時取得の要件を具備してその物の所有権を取得したときは債権は消滅します。この場合には債権者は弁済者に対しても真の所有者に対しても返還を要しません。なお弁済者は真の所有者からの返還請求には対抗しえず不当利得返還の問題が生じます。
弁済として引き渡した物の消費又は譲渡がされた場合の弁済の効力
476条は債権者が弁済として受領した物を善意で消費し又は譲渡したときはその弁済は有効とすると定めています。債権者が善意で物を消費又は譲渡した場合にこの原則を貫くと債権者に酷な結果となり弁済者にも再履行の費用と手数をかけるため両者間の公平と便宜を考慮して弁済を有効としたものです。消費又は譲渡時の善意を要しますが無過失までは要求されていません。
債権者が所有者に対して不当利得又は不法行為による賠償責任を果たしたときは債権者は弁済者に求償することができます。なお債権者が即時取得又は取得時効により目的物の所有権を取得すると弁済は完全に効力を生ずるため本条を適用する必要はありません。
預貯金口座への払込みによる弁済
477条は債権者の預金又は貯金の口座に対する払込みによってする弁済は債権者がその預金又は貯金に係る債権の債務者に対してその払込みに係る金額の払戻しを請求する権利を取得した時にその効力を生ずると定めています。預貯金口座への振込みによる弁済は現代における債務の履行方法として一般化しておりその弁済の効力発生時期について規定するものです。
払戻しを請求する権利を取得した時がいつの時点を指すのかは当該預貯金契約の解釈に委ねられています。通常の顧客と銀行との取引における預金契約においては預金者の預金口座に振込額の入金が記録された時に預金債権が発生し預金者が払戻請求権を取得するものとされています。どの預貯金口座への払込みによって弁済をすることができるのかについても当事者間の合意の解釈に委ねられています。
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