結果回避可能性
結果回避義務違反の前提として結果回避可能性が必要になります。結果回避可能性の有無を判断するに当たってはまずは法令、慣習及び条理に基づき結果の発生を回避するために行為者にどのような措置が求められるかという結果回避義務の内容を具体的に特定する必要があります。そのうえで行為者がその結果回避義務を履行することが可能であったかという点及びその結果回避義務を履行すれば結果発生を防ぐことができたかという点を検討する必要があります。
判例は前方注視義務を怠ったため踏切上にいた小児をれき死させた事案において小児の存在を認識した時点で警笛吹鳴及び非常制動措置を採ったとしても小児に対する危害を防止できたとはいえないときは右措置を怠ったとしても因果関係がなく業務上過失致死罪は成立しないとしています。
また判例は左右の見通しが利かない交差点に徐行義務を怠り進入した事案においても被告人が減速して交差点内に進入していたとしても衝突地点の手前で停止することができ衝突を回避することができたものと断定することは困難であるとして結果回避可能性を否定しています。
結果回避義務違反
結果回避可能性が認められた場合には次に結果回避義務違反の有無を検討します。過失犯においてはこの結果回避義務違反が実行行為となります。
判例は自動車のハブの強度不足のおそれの強さや予測される事故の重大性及び多発性に加え事故関係の情報を一手に把握していたことを踏まえると品質保証部門の部長又はグループ長の地位にある被告人両名には強度不足に起因するハブ破損事故の更なる発生を防止すべき業務上の注意義務があったとしその義務違反に基づく危険が現実化したものであるとして因果関係を肯定しています。
因果関係の予見可能性に関する判例
判例はトンネル内の電設工事の際に部品取付けの不備から複雑な因果経過をたどり火災事故が発生して死傷の結果が発生した事案において具体的な因果経過を予見することはできなかったとしても本来流れるべきでない部分に長期間にわたり電流が流れ続けることによって火災の発生に至る可能性があることを予見することはできたものとして火災発生の予見可能性を認めています。
信頼の原則の意義
信頼の原則とは被害者ないし第三者が適切な行動をとることを信頼するのが相当な場合にはたとえそれらの者の不適切な行動により犯罪結果が生じてもそれに対して刑責を負わなくてよいとする理論です。判例によれば行為者自身に法令に違反する行動があった事案においてもなお信頼の原則が適用される場合があります。
判例は右折の合図をしながら右折しようとする原動機付自転車の運転者としては後方から来る他の車両の運転者が安全な速度と方法で進行するであろうことを信頼して運転すれば足りその右折方法が法規に違反している場合であってもこのことは注意義務の存否とは関係がないとしています。
一方判例は医療行為において対象となる患者の同一性を確認することは当該医療行為を正当化する大前提であり医療関係者の初歩的かつ基本的な注意義務であるとし手術に関与する医師及び看護師等の関係者は他の関係者が確認を行っていると信頼し自ら確認をする必要がないと判断することは許されず各人の職責や持ち場に応じ重畳的にそれぞれが責任を持って患者の同一性を確認する義務があるとしています。
もっとも判例はチームワークによる手術の執刀医として危険性の高い重大な手術を誤りなく遂行すべき任務を負わされた医師が執刀直前の時点において極めて単純容易な補助的作業に属する電気手術器のケーブルの接続に関し経験を積んだベテランの看護師の作業を信頼したのは当時の具体的状況に徴し無理からぬものであったとして当該医師に注意義務違反はないとしています。
信頼の原則の過失概念内部における位置付け
信頼の原則を予見可能性認定の基準と捉える立場と結果回避義務が否定されるとする立場があります。前者は旧過失論から後者は新過失論から主張されています。
信頼の原則の要件
信頼の原則の適用には他の者が適切な行動をすることに対する現実の信頼が存在しかつこうした信頼が社会生活上相当なものであること及び他の者が適切な行動をすることを信頼するに足りる具体的状況が存在することが必要です。
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