公務員の労働基本権の制約

公務員も勤労者に当たる以上、労働基本権が保障されます。しかし、公務員の職務の公共性すなわち職務の停滞により国民生活に重大な支障をもたらさないようにすることの観点から一定の制約を受けざるを得ません。ただ、その制約根拠を何に求めるかについては説が分かれています。

A説は15条2項の全体の奉仕者に制約の根拠を求める見解です。B説は公務員の職務の性質に制約の根拠を求める見解です。C説は憲法が公務員関係という特別の法律関係の存在とその自律性を憲法秩序の構成要素として認めていることに制約の根拠を求める見解です。

制約の根拠に関する争いにかかわらず、学説上は個々の公務員の職務上の地位や職務の内容に即した必要最小限度の制約にとどめられるべきであるという点で一致しています。

現行法上の公務員に対する労働基本権の制限

現行法上、公務員に対する労働基本権の制限は三つの類型に分けられます。

第一は、警察職員、消防職員、自衛隊員、海上保安庁又は刑事施設に勤務する職員に対する労働三権のすべての否定です。

第二は、非現業の国家公務員・地方公務員に対する団体交渉権の制限及び争議権の否定です。ただし、現業の国家公務員・地方公務員については争議権を禁止していますが団体交渉権は認めています。

第三は、国営企業の国家公務員・地方公営企業の地方公務員に対する争議権の否定です。

判例の流れ

かつての判例は13条後段の公共の福祉と15条2項の全体の奉仕者を根拠に公務員の労働基本権の一律禁止を合憲としていました。しかし、全逓東京中郵事件判決において公務員の労働基本権が原則的に承認されました。その後、全農林警職法事件判決によって実質的にはかつての判例と異ならなくなるに至っています。

初期の判例

初期の判例は、公共の福祉や全体の奉仕者という抽象的な原則を根拠に公務員の争議権の禁止を合憲としました。

全逓東京中郵事件

全逓東京中郵事件は、春闘に際し被告人が郵便局職員を勤務時間に食い込む職場集会に参加するよう説得し現に従業員を職場から離脱させた行為が郵便物不取扱いの罪の教唆罪に問われた事案です。

最高裁は、労働基本権はすべての勤労者に保障されるが何らの制約も許されない絶対的なものではなく国民生活全体の利益の保障という見地からの制約を当然の内在的制約として内包しているとしました。

そのうえで、労働基本権の制限について4つの要件を示しました。第一に、労働基本権が勤労者の生存権に直結しそれを保障するための重要な手段であることを考慮すれば、その制限は合理性の認められる必要最小限度のものにとどめなければなりません。第二に、職務又は業務の停廃が国民生活全体の利益を害し国民生活に重大な障害をもたらすおそれのあるものについてこれを避けるために必要やむを得ない場合について考慮されるべきです。第三に、違反者に対して課せられる不利益については必要な限度を超えてはならず、とくに勤労者の争議行為等に対して刑事制裁を科することは必要やむを得ない場合に限られるべきであり、同盟罷業・怠業のような単純な不作為を刑罰の対象とするについては特別に慎重でなければなりません。第四に、職務又は業務の性質上からして労働基本権を制限することがやむを得ない場合にはこれに見合う代償措置が講ぜられなければなりません。

以上のことはすでに制定されている法律を解釈適用する際にも十分に考慮されなければならないとして、五現業・三公社の職員の争議行為の全面的禁止を合憲としました。また、同禁止に違反して行われた争議行為も正当な争議行為として刑事免責の適用を受けることを認め、被告人の争議行為が正当なものであるかいなかを具体的事実関係に照らして認定判断し罪責の有無を判断しなければならないとして破棄差戻しの判決をしました。

都教組事件

都教組事件は、都教組が加盟組合員に有給休暇を一斉に請求し勤務時間中に行われる集会に参加することを指令したことが地方公務員法37条1項・61条4号違反であるとして起訴された事案です。

最高裁は、地方公務員法37条1項・61条4号を文字通り解釈し一切の争議を禁止するものとすれば必要やむを得ない限度の制約を超えるものとして違憲の疑を免れないとしました。しかし、法律の規定は可能な限り憲法の精神にそくしこれと調和しうるよう合理的に解釈されるべきものであるとしました。そのように考えた場合、違法性の弱い争議行為については地方公務員法にいう争議行為に該当しないと判断すべきであるとしました。また、刑罰が科されるあおり行為についても争議行為に通常随伴して行われる行為のごときは処罰の対象とされるべきものではないとしました。

全農林警職法事件

全農林警職法事件は、全農林労組が時間内職場大会を開いたところ正午出勤を指令し職場大会への参加を慫慂した労組幹部が国家公務員法が禁じている争議行為をあおる行為に対し刑事罰を規定した同法の規定によって起訴された事案です。

最高裁は、憲法28条はいわゆる労働基本権を保障しているところこの保障は憲法25条のいわゆる生存権の保障を基本理念とし憲法27条の勤労の権利および勤労条件に関する基準の法定の保障と相まって勤労者の経済的地位の向上を目的とするものであるとしました。公務員は勤労者として自己の労務を提供することにより生活の資を得ているものである点において一般の勤労者と異なることはないから憲法28条の労働基本権の保障は公務員に対しても及ぶとしました。もっとも、労働基本権は勤労者の経済的地位の向上のための手段として認められたものであってそれ自体が目的とされる絶対的なものではないからおのずから勤労者を含めた国民全体の共同利益の見地からする制約を免れないものであるとしました。

公務員は公共の利益のために勤務するものであり公務の円滑な運営のためにはその担当する職務内容の別なくそれぞれの職場においてその職責を果たすことが必要不可欠であって、公務員が争議行為に及ぶことはその地位の特殊性および職務の公共性と相容れないばかりでなく多かれ少なかれ公務の停廃をもたらしその停廃は勤労者を含めた国民全体の共同利益に重大な影響を及ぼすかまたはその虞があるとしました。よって、公務員の労働基本権に対し必要やむをえない限度の制限を加えることは十分合理的な理由があるとしました。

その理由として3点を挙げました。第一に、公務員の場合はその給与の財源は国の財政とも関連して主として税収によって賄われ私企業における労働者の利潤の分配要求のごときものとは全く異なりその勤務条件はすべて政治的・財政的・社会的その他諸般の合理的な配慮により適当に決定されなければならず、しかもその決定は民主国家のルールに従い立法府において論議のうえなされるべきもので同盟罷業等争議行為の圧力による強制を容認する余地は全く存しないとしました。公務員による争議行為が行われるならば民主的に行われるべき公務員の勤務条件決定の手続過程を歪曲することともなって憲法の基本原則である議会制民主主義に背馳し国会の議決権を侵す虞れすらなしとしないとしました。

第二に、私企業においては極めて公益性の強い特殊のものを除き一般に使用者にはいわゆる作業所閉鎖をもって争議行為に対抗する手段があるばかりでなく労働者の過大な要求を容れることは企業の経営を悪化させ企業そのものの存立を危殆ならしめひいては労働者自身の失業を招くという重大な結果をもたらすこととなるので労働者の要求はおのずからその面よりの制約を免れないとしました。また、一般の私企業においてはその提供する製品又は役務に対する需給につき市場からの圧力を受けざるをえない関係上争議行為に対してもいわゆる市場の抑制力が働くことを必然とするのに反し、公務員の場合にはそのような市場の機能が作用する余地がないため公務員の争議行為は場合によっては一方的に強力な圧力となりこの面からも公務員の勤務条件決定の手続をゆがめることとなるとしました。

第三に、法はこれらの制約に見合う代償措置として身分・任免・服務・給与その他に関する勤務条件についての周到詳密な規定を設けさらに中央人事行政機関として準司法機関的性格をもつ人事院を設けているとしました。

よって、国家公務員法が公務員の争議行為およびそのあおり行為等を禁止するのは勤労者をも含めた国民全体の共同利益の見地からするやむをえない制約というべきであって憲法28条に違反するものではないとしました。

なお、この判決により全逓東京中郵事件判決を踏襲した全司法仙台事件判決が変更されました。

岩教組学テ事件

岩教組学テ事件において最高裁は、全農林警職法事件判決における法理は非現業地方公務員の労働基本権の制限についても妥当するとしました。非現業地方公務員も地方公共団体の住民全体の奉仕者として実質的には住民全体に対して労務提供義務を負うという特殊な地位を有するとしたうえで、その労務の内容は公共的性質を有すること、非現業地方公務員の勤務条件も法律及び条例によって定められること、人事委員会又は公平委員会の制度も設けられていること等を理由に、非現業地方公務員の争議行為の全面的禁止を合憲とし都教組事件判決を覆しました。

全逓名古屋中郵事件

全逓名古屋中郵事件において最高裁は、全農林警職法事件判決における法理は五現業・三公社の職員の労働基本権の制限についても妥当するとしました。勤務条件の決定に関して非現業の国家公務員と基本的に同一であること、市場の抑制力がないこと、職務内容が公共的性質を有すること、代償措置も設けられていること等を理由に、五現業・三公社の職員の争議行為の全面的禁止を合憲としました。この判決により、旧公労法17条1項違反の争議行為であっても労組法1条2項の刑事免責規定の適用があるとした全逓東京中郵事件判決を覆しました。

人事院勧告の凍結と合憲性

人事院勧告の実施が凍結された場合について、判例は国家公務員の労働基本権の制約に対する代償措置がその本来の機能を果たしていなかったとはいえないとしました。

アプリの紹介

過去問を一文一問形式で解けるアプリを開発しました。

司法試験 短答式試験 過去問 問題集

司法試験 短答式試験 過去問 問題集

司法予備試験の過去問を1問1答形式でアプリにしました。 効率的な学習をサポートする独自の機能があります。 1. 一問一答形式:テンポよく学習を進められます 2. 音声読み上げ機能:問題文と解説を聴いて学習効率アップ 3. 学習記録の自動管理:復習日、回数、正解率を簡単チェック 通勤中や隙間時間を有効活用し、効果的に試験対策ができます。 司法予備試験合格への第一歩、今すぐダウンロード! 利用規約 https://www.apple.com/legal/internet-services/itunes/dev/stdeula/

App StoreGoogle Play