地方公共団体の事務

94条は地方公共団体はその財産を管理し事務を処理し及び行政を執行する権能を有し法律の範囲内で条例を制定することができると定めています。

地方公共団体の機関によって処理される事務には地方公共団体の自治事務のほかに法定受託事務があります。自治事務とは地方公共団体が処理する事務のうち法定受託事務以外のものをいい飲食店営業の許可事務や市町村税の賦課徴収事務といった本来的な公共事務のほか従来の委任事務や行政事務及び機関委任事務からそれぞれ移行された事務を含みます。

法定受託事務とは法律により自治体が処理することとされる事務のうち国が本来果たすべき役割に係るものであって国がその適正な処理を特に確保する必要があるものとして法律に特に定めるものをいい戸籍事務等がこれに当たります。

旧地方自治法では機関委任事務の制度がありましたがこれは自治体の長などを国の事務を末端執行する国の地方出先機関に仕立ててしまうもので地方自治の本旨に反するのではないかとの意見がありました。分権化社会に向けては地域住民の自己決定権と自治責任が肝要であり自治体の長が地域責任者になることを妨げ自治体での行政に議会を関与させないような国の機関委任事務は制度として廃止すべきとされていました。そこで平成11年改正による新地方自治法は機関委任事務を全廃し自治事務化されるもの以外は国の事務を法律で全国自治体に執行委託する法定受託事務という新しい事務としました。

条例の意義

条例とは地方公共団体がその自治権に基づいて制定する自主法をいいます。条例は地方公共団体の事務に関する事項のみを規律できその範囲内では原則として国家法とは無関係に独自に規定を設けることができます。なお条例制定権を有しない地方公共団体を設けても違憲ではありません。

94条にいう条例にはいかなるものが含まれるかについて争いがあります。狭義説は普通地方公共団体の議会の制定する条例に限定するとし地方自治の本旨に含まれる住民自治の趣旨からは住民を代表する議事機関としての議会によって制定された条例に限定すべきであるとします。広義説は議会の制定する条例の他に長の制定する規則が含まれるとし住民の公選による長がその権限に属する事務に関して制定する規則はその性質において憲法上の地方自治の保障の範囲内にあるとします。最広義説は議会の制定する条例及び長の制定する規則の他に各種委員会の定める規則その他の規程が含まれるとし94条は広く地方公共団体が自主立法権を有することを定めその自主法の種類や規定事項及びそれら相互の関係等は法律に委ねているとします。

条例制定権の根拠

条例制定権の根拠については学説が分かれています。

A説は条例制定権の根拠は既に92条に含まれており94条はこれを受けて条例制定権を保障しそれが法律の範囲内で行われるべきことを定めているとします。B説は条例制定権の根拠を94条に求めます。国会は実質的な意味での法規を制定する国の唯一の立法機関である以上地方公共団体が法規たる性質を有する条例を制定するには憲法に特にその例外を認める規定がなければならず94条は創設的に条例制定権を付与する趣旨とみるのが妥当であるとします。C説は条例制定権の根拠として92条と94条とを並列的に挙げます。92条の地方自治の本旨が国の立法権を制約し94条が41条の例外を具体的に規定しているものと解します。D説は条例を委任立法と解し地方自治法14条1項が条例制定権の一般的授権条項であると解します。

判例は地方公共団体の制定する条例は憲法が特に民主主義政治組織の欠くべからざる構成として保障する地方自治の本旨に基づき直接憲法94条により法律の範囲内において制定する権能を認められた自治立法に外ならないと判示してB説ないしC説の立場に立っています。

条例制定権の範囲と限界

条例は地方公共団体の自主立法であるから住民の基本的人権の制限をその内容とすることも可能です。また条例による規制に地域的な別異取扱いがあることが法の下の平等に反しないかも問題となります。

条例と罰則

31条が法律によらない科刑を禁止すること及び73条6号が法律の委任なくして政令に罰則を設けることを禁止することとの関連で条例によって罰則を定めることができるかが問題となります。

一般的かつ包括的法律授権説は刑罰権の設定には法律の授権を必要とするが条例への罰則の委任は一般的かつ包括的でよいとします。94条の条例制定権は当然に罰則設定権を含むものではなく刑罰権の設定は本来国家事務であって地方自治権の範囲に含まれないと解されるから法律の授権は必要であるが条例は行政府の命令とは異なり地方住民の代表機関である議会の議決によって成立する民主的立法であり実質的に法律に準ずるものと解されるから命令への委任が個別的かつ具体的委任を必要とするのと異なるとします。

限定的法律授権説は刑罰権の設定には法律の授権が必要であるがその内容が相当な程度に具体的であり限定されていればよいとします。地方議会の議決を経た民主的自治立法である条例への委任は行政府の命令への委任に比較して委任の個別性や具体性がより緩やかであってもよいとします。

憲法直接授権説は罰則設定のため法律による条例への特別の委任規定を必要とせず地方自治法14条3項は罰則の範囲を法律によって示したものであるとします。94条が法律の範囲内で認めた条例制定権はその実効性を担保するための罰則設定権を当然に含み31条の原則の例外をなすものであるとします。

判例は条例は法律以下の法令といっても公選の議員をもって組織する地方公共団体の議会の議決を経て制定される自治立法であって行政府の制定する命令等とは性質を異にしむしろ国民の公選した議員をもって組織する国会の議決を経て制定される法律に類するものであるから条例によって刑罰を定める場合には法律の授権が相当な程度に具体的であり限定されておれば足りるとしました。地方自治法14条3項は普通地方公共団体は法令に特別の定めがあるものを除くほかその条例中に条例に違反した者に対し2年以下の拘禁刑、100万円以下の罰金、拘留、科料若しくは没収の刑又は5万円以下の過料を科する旨の規定を設けることができると定めておりこの規定は条例による罰則の上限を設定したものと解されています。

条例制定請求権

住民による条例の制定や改廃の請求について判例は地方自治法は住民による条例の制定や改廃の請求を手続的にも議員及び長の発案権の行使に準ずるものとして取り扱う趣旨であると解されるので原則として条例案の内容に対する長の事前審査権は認められないとしました。

条例と法律の関係

94条は地方公共団体は法律の範囲内で条例を制定することができると定めさらに地方自治法14条1項は法令に違反しない限りにおいて条例を制定できることを規定しています。国の法令で定める規制基準よりも厳格な基準を定める上乗せ条例や法令の規制対象以外の事項について規制する横出し条例がどのような場合に認められるかにつき条例と法令との間に矛盾抵触があるか否かの判断基準が問題となります。

徳島市公安条例事件において判例は条例が国の法令に違反するかどうかは両者の対象事項と規定文言を対比するのみでなくそれぞれの趣旨、目的、内容及び効果を比較し両者の間に矛盾抵触があるかどうかによってこれを決しなければならないとしました。そしてある事項について国の法令中にこれを規律する明文の規定がない場合でも当該法令全体からみてその規定の欠如が特に当該事項についていかなる規制をも施すことなく放置すべきものとする趣旨であると解されるときはこれについて規律を設ける条例の規定は国の法令に違反することとなりうるとしました。逆に特定事項についてこれを規律する国の法令と条例とが併存する場合でも後者が前者とは別の目的に基づく規律を意図するものでありその適用によって前者の規定の意図する目的と効果をなんら阻害することがないときや両者が同一の目的に出たものであっても国の法令が必ずしもその規定によって全国的に一律に同一内容の規制を施す趣旨ではなくそれぞれの普通地方公共団体においてその地方の実情に応じて別段の規制を施すことを容認する趣旨であると解されるときは国の法令と条例との間にはなんらの矛盾抵触はなく条例が国の法令に違反する問題は生じえないとしました。

神奈川県臨時特例企業税条例事件

神奈川県臨時特例企業税条例事件において判例は普通地方公共団体は地方自治の本旨に従いその財産を管理し事務を処理し及び行政を執行する権能を有するものでありその本旨に従ってこれらを行うためにはその財源を自ら調達する権能を有することが必要であることからすると普通地方公共団体は地方自治の不可欠の要素として国とは別途に課税権の主体となることが憲法上予定されているとしました。

ただし租税の賦課については国民の税負担全体の程度や財源の配分等の観点からの調整が必要であること及び92条や94条の規定に照らせば普通地方公共団体の課税権は租税法律主義の原則の下で法律で定められた準則に従いその範囲内で行使されなければならないとしました。すなわち条例において地方税法の強行規定に反する内容の定めを設けることによって当該規定の内容を実質的に変更することはその規定の趣旨や目的に反しその効果を阻害する内容のものとして許されないとしました。

そして欠損金の繰越控除は法人の税負担をできるだけ均等化して公平な課税を行うという趣旨と目的から設けられた制度であり条例等により欠損金の繰越控除の特例を設けることを許容するものと解される規定は存在しないとして欠損金の繰越控除を定める地方税法の規定は強行規定であるとしました。そのうえで本件条例の規定は地方税法の趣旨や目的に反しその効果を阻害する内容のものであって法人事業税に関する地方税法の強行規定と矛盾抵触するものとしてこれに違反し違法かつ無効であるとしました。

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