方法の錯誤の意義
方法の錯誤とは認識した客体と異なる客体に侵害が生じた場合をいいます。方法の錯誤においては具体的符合説と法定的符合説とで結論が異なります。
具体的符合説からの帰結
具体的符合説からは方法の錯誤の場合には行為者が認識した客体とは異なる客体に結果が発生しているため故意が阻却されます。認識した客体については殺人未遂が成立し現実に結果が発生した客体については過失致死が成立するにとどまります。
具体的符合説は故意は構成要件該当事実の認識及び予見であるから存在する構成要件ごとにその存否を問題とすべきであるとし被害法益は重要な事実であるからそれが異なれば構成要件該当事実も異なるとします。
法定的符合説からの帰結
法定的符合説からは法定的構成要件のうえで同一の評価を受ける事実を認識すれば行為者は規範の問題に直面するとされ行為者の認識した内容と現実に発生した事実とが構成要件の範囲内で一致する限り故意は阻却されません。また実質的故意論の立場からは結果と実行行為という構成要件の主要部分についての認識があれば足りるとされています。
法定的符合説はさらに数故意犯説と一故意犯説に分かれます。
数故意犯説
数故意犯説は判例の立場であり認識した事実と発生した事実のそれぞれについて故意犯の成立を認める見解です。判例は犯罪の故意があるとするには犯人の認識した罪となるべき事実と現実に発生した事実の両者が法定の範囲内で一致すれば足り人を殺す意思の下に殺害行為に出た以上犯人の認識しなかった人に対してその結果が発生した場合にも殺人の故意があるとしています。
数故意犯説は刑法が観念的競合を科刑上一罪としているのは一罪の意思をもってした場合にも数罪の成立を認める趣旨を含むものであるとしています。
数故意犯説に対しては行為者に1個の故意しかないのに2個の故意犯の成立を認めることは故意の無限定の拡大を認めることになり責任主義に反すること及び観念的競合は故意犯か過失犯かが決まった後に科刑上一罪として取り扱うものであるから観念的競合となることを理由に故意犯の成立を認めるのは本末転倒であることが批判されています。
一故意犯説
一故意犯説は故意行為が予想通り実現された場合以上の故意犯の成立を認めるべきではないとする見解です。1個の故意しかない場合は1個の故意犯しか成立させるべきではないとします。意図した客体に結果が生じた場合はその客体について故意犯の成立を認め過剰に生じた結果については過失を問題とします。
一故意犯説に対しては事後の事実の変化により故意の有無が変わることになるのは不当であることが批判されています。
方法の錯誤の事例における各学説からの帰結
典型類型として認識した客体には結果が発生せず異なる客体に結果が発生した場合には具体的符合説からは認識した客体について殺人未遂、結果が発生した客体について過失致死が成立します。数故意犯説からは認識した客体について殺人未遂、結果が発生した客体について殺人既遂が成立します。一故意犯説からは結果が発生した客体について殺人既遂のみが成立します。
併発類型として認識した客体にも結果が発生した客体にもともに結果が発生した場合の処理も各学説によって異なります。具体的符合説からは認識した客体について故意犯が成立し異なる客体については過失犯が成立するにとどまります。数故意犯説からは両方の客体について故意犯が成立します。一故意犯説からは認識した客体について故意犯が成立し異なる客体については過失犯が成立するにとどまります。
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