保護法益

文書偽造の罪の保護法益は文書に対する公共の信用です。

形式主義と実質主義

文書に対する公共の信用を保護する方策として2つの立法主義が考えられます。形式主義は作成名義の真正に対する公共の信用を保護するものです。実質主義は文書内容の真正に対する公共の信用を保護するものです。

現行刑法は形式主義を第一次的に採用し実質主義は補充的に採用しているにすぎません。すなわち有形偽造と無形偽造とを区別し公文書については両者を処罰しますが私文書については無形偽造は処罰しないのが原則となっています。

偽造の意義

広義の偽造には有形偽造と無形偽造があります。有形偽造とは作成権限のない者が他人名義の文書を作成すること、すなわち名義人と作成者の人格の同一性を偽ることをいいます。変造とは作成権限のない者が真正に成立した文書の非本質的部分に変更を加えることをいいます。無形偽造とは作成権限を有する者が内容虚偽の文書を作成することをいいます。行使とは偽造文書を真正な文書として又は内容虚偽の文書を内容真実の文書として使用することをいいます。

詔書偽造等罪

154条1項は行使の目的で御璽、国璽若しくは御名を使用して詔書その他の文書を偽造し又は偽造した御璽、国璽若しくは御名を使用して詔書その他の文書を偽造した者は無期又は3年以上の拘禁刑に処すると定めています。同条2項は御璽若しくは国璽を押し又は御名を署した詔書その他の文書を変造した者も同様に処すると定めています。

公文書偽造等罪

155条1項は行使の目的で公務所若しくは公務員の印章等を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書等を偽造し又は偽造した公務所若しくは公務員の印章等を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書等を偽造した者は1年以上10年以下の拘禁刑に処すると定めています。また公務所若しくは公務員の電磁的記録印影等を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき電磁的記録文書等を偽造する行為等も同様に処罰されます。

同条2項は公務所若しくは公務員が押印し若しくは署名した文書等又は公務所若しくは公務員が電磁的記録印影等を使用して作成した電磁的記録文書等を変造した者も同様に処すると定めています。

同条3項は上記以外の公務所若しくは公務員の作成すべき文書等若しくは電磁的記録文書等を偽造し又は公務所若しくは公務員が作成した文書等若しくは電磁的記録文書等を変造した者は3年以下の拘禁刑又は20万円以下の罰金に処すると定めています。

有印公文書と無印公文書

公務所や公務員の印章又は署名の記載が存在する公文書を有印公文書といいます。無印文書とは印章も署名もない文書をいいます。公務所や公務員の印章とは公務所や公務員を表象するものであり公印、私印、職印及び認印のいずれでもよいとされています。公務所や公務員の署名は自署である必要はなく記名でもよいとされています。

文書の意義

文書とは文字又は文字に代わるべき符号を用い一定期間永続すべき状態においてある物体の上に意思又は観念を表示したものをいいます。単に思想を表現したにすぎない芸術作品は文書にはあたりません。図画とは地図や絵及び写真といった象形的表現方法を用いて人の意思や観念を表示したものをいいます。

公務員によって作成された文書であってもその職務権限に基づいてその職務に関し作成されたものでない場合には公文書とはいえません。もっとも本来作成権限がない公務所や公務員を名義人とした公文書を権限なく作成した場合やそもそも表示された公務所や公務員が実在しない場合であっても一般人に当該公務所や公務員の職務権限内で作成されたものと誤信させる形式や外観が備わっていれば本罪が成立しえます。

電磁的記録文書等

電磁的記録印影等とは印章等として表示されることとなる電磁的記録をいいます。電磁的記録文書等とは文書等として表示されて行使されることとなる電磁的記録をいいます。公務所や公務員が作成すべき電磁的記録文書等を偽造する行為は公文書偽造罪と同様に処罰されます。

偽造の意義と名義人

偽造とは名義人でない者が名義を冒用して文書を作成すること、すなわち名義人と作成者の人格の同一性を偽ることをいいます。名義人とは文書の記載内容から理解されるその意思内容の主体をいいます。作成者とは現実に文書の内容を表示した者をいいます。

作成者の概念については事実説と観念説の対立があります。事実説は作成者を実際に文書作成を行った者とします。観念説は作成者を文書内容を表示させた意思の主体とします。判例は観念説に立っています。

名義人に他の文書と誤信させ署名や捺印させた場合も偽造にあたります。もっとも相手方を欺いて文書の記載内容を真実であると誤信させた上でその文書に署名押印させて交付させた場合には相手方が当該文書の内容を認識している以上私文書偽造罪は成立しません。

名義人に実在性は必要なく一般人が当該名義人が実在すると誤信するおそれのある場合は死亡者や架空人等の名義を冒用することも偽造にあたりえます。

偽造といえるためには当該文書が一般人をして真正に作成された文書であると誤認させるに足りる程度の形式や外観を備えていることが必要です。その判断にあたっては当該文書の客観的形状のみならず当該文書の種類、性質や社会における機能及びそこから想定される文書の行使の形態等をも併せて考慮しなければなりません。

行使の目的

行使の目的とは他人をして偽造文書を真正又は真実な文書と誤信させようとする目的をいいます。これは法益侵害結果を主観的要素の形で取り込むものであり主観的違法要素です。文書の本来の用法に従ってその文書を使用する目的がなくても何人かによって真正又は真実な文書として誤信される危険があることを意識している以上行使の目的があります。

コピーの文書性

コピーの文書性については肯定説と否定説が対立しています。

肯定説は公文書偽造罪の客体となる文書は原本に限る必要はなく原本と同一の内容を有し証明文書としてこれと同様の社会的機能と信用性を有する限り写しも含まれるとします。手書きの写しは写し作成者の意識が介在しうるので信用性を欠きますがコピーは機械的に正確な複写版であって同一内容の原本の存在だけでなく原本の内容についてまで信用させる特質をもつことがその理由です。判例はこの立場をとっています。

否定説は写しは原本の存在と内容を証明するものにすぎず写しの証明力がいかに量的に高められても写しである限り質的転換をとげ原本と同視されるには至らないとします。

コピーの名義人

コピーの文書性を肯定する場合の名義人について公文書説は原本名義人である公務所や公務員を名義人とし原本の一部を利用してあたかもある名義人が作成した原本のコピーであるかのような虚偽の文書を作り悪用することは名義人が許容するものではないから公文書の偽造となるとします。判例はこの立場をとっています。私文書説はコピーの作成者を名義人とします。

コピーが有印公文書か無印公文書かについて有印説は原本の意識内容を直接的に伝播保有するというコピーの特質に着目してその文書性が認められたのであるからコピー上に印章や署名が複写されている以上原本名義人の印章や署名のある公文書と扱うのが妥当であるとします。判例はこの立場をとっています。無印説はコピーもやはり写しには違いないのでありコピーされている印影はまさに写しであってコピー自体に認証印が押印されているのと同じ信用性があるとはいえないとします。

ファクシミリによる文書の写しについてもコピーに関する判例の基準を踏まえた上で公文書偽造罪の客体としての文書にあたるとした裁判例があります。

変造の意義

変造とは作成権限のない者が真正に成立した文書の非本質的部分に変更を加えることをいいます。変造は非本質的部分に不法な変更を加え新たな証明力を有する文書を作り出すことに限られ本質的な部分を改変し同一性を失った場合は偽造となります。

偽造公文書を用いて相手方を欺罔した場合には公文書偽造罪と詐欺罪の牽連犯となります。

虚偽公文書作成等罪

156条は公務員がその職務に関し行使の目的で虚偽の文書等若しくは電磁的記録文書等を作成し又は文書等若しくは電磁的記録文書等を変造したときは印章等又は電磁的記録印影等の有無により区別して公文書偽造等罪の例によると定めています。

本罪の主体は職務上当該文書を作成する権限を有している公務員であり作成権限ある公務員を身分とする真正身分犯です。形式上の決裁権者でない補助公務員であっても実質的に作成権者と評価しうる場合には上司の決裁を経ずに内容虚偽の文書を作成すれば本罪の問題となります。

判例は公文書の作成権限は作成名義人の決裁を待たずに自らの判断で公文書を作成することが一般的に許されている代決者のみならず一定の手続を経由するなどの特定の条件のもとにおいて公文書を作成することが許されている補助者もその内容の正確性を確保することなどその者への授権を基礎づける一定の基本的な条件に従う限度においてこれを有しているとしています。

捜査機関又は裁判所書記官が人の供述を録取する場合には供述自体の内容を正確に録取することが重要であり内容が虚偽であってもそのまま記載されなければならないので録取者が虚偽の供述であることを認識しながら虚偽の供述を録取した場合でも虚偽公文書作成罪は成立しません。

虚偽公文書作成罪の間接正犯

公文書の作成権限を有する公務員以外の者がその作成権限を有する公務員を欺罔して内容虚偽の公文書を作成させた場合に公正証書原本不実記載等罪の要件を満たすときは同罪のみが成立します。

主体が私人の場合について判例は虚偽公文書作成罪の間接正犯の成立を否定しています。刑法は間接無形偽造について特に157条を規定しその法定刑が156条の法定刑よりも著しく軽いことから157条の場合のほかこれを処罰しない趣旨であることがその理由です。

主体が作成権限を有しない公務員の場合について判例は作成権限を有する公務員を補佐して公文書の起案を担当する公務員が行使の目的で内容虚偽の公文書を作成し情を知らない上司を利用してこれを完成させた事案において虚偽公文書作成罪の間接正犯が成立するとしています。

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