責任能力の意義
民法は故意又は過失を不法行為責任の要件とする過失責任主義を採っていますが故意又は過失があるといえるには理論上当然に一定の判断能力すなわち責任能力が要求されます。そこで未成年者のうち年齢的に判断能力の未発達な者及び心神喪失者を責任能力のない者として不法行為責任を負わないものとしています。
未成年者の責任能力
712条は未成年者は他人に損害を加えた場合において自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときはその行為について賠償の責任を負わないと定めています。
自己の行為の責任を弁識するに足りる知能すなわち責任能力とは自己の行為から法律上の責任が生じることを認識しうる能力をいいます。責任能力を有するか否かは年齢、環境、生育度、行為の種類等により個別具体的に判断されますが平均すればおおむね11歳から12歳程度に基準が置かれます。
精神上の障害による責任無能力
713条は精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者はその賠償の責任を負わないと定めています。ただし故意又は過失によって一時的にその状態を招いたときはこの限りではありません。
行為時の責任弁識能力を欠く状態を個別事情ごとに判断する点で成年後見制度とは無縁です。故意又は過失は一時の責任弁識能力を欠く状態を招いた点について要求されるのであり責任弁識能力を欠く状態になってなされる加害行為についての故意又は過失は不要とされています。
責任無能力者の監督義務者等の責任
714条1項は責任無能力者がその責任を負わない場合においてその責任無能力者を監督する法定の義務を負う者はその責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負うと定めています。ただし監督義務者がその義務を怠らなかったとき又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときはこの限りではありません。同条2項は監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も前項の責任を負うと定めています。
本条は責任無能力者の加害行為は監督義務者の義務違反に基づくものであること及び監督者の責任を認めることで被害者の救済を図るべきであることを根拠として監督義務者の責任を定めるものです。監督上の過失が要件とされますがその挙証責任が転換されている点で中間責任です。
監督義務者の責任の要件
714条の責任が成立するためには責任能力を欠く者の行為が責任能力以外の不法行為の一般的成立要件を満たすこと及び監督義務を怠らなかったこと又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったことの立証がないことが必要です。
責任能力のない子供が他人に加えた傷害行為に違法性がない場合には親は714条の責任を負いません。714条の責任は未成年者に責任がない場合に発生する補充的責任です。
未成年者が責任能力を有する場合であっても未成年者に資力がなければこれに対する賠償請求は実効性を欠きます。判例は監督義務者の義務違反と当該未成年者の不法行為によって生じた結果との間に相当因果関係を認めうるときは監督義務者について709条の不法行為が成立するとしています。714条は監督義務違反の挙証責任を転換したにすぎず一般の不法行為の原則に基づく責任を否定するものではないためです。責任能力を有する未成年者の責任と監督義務者の責任は併存し両者は連帯債務の関係に立ちます。
監督義務の内容
判例は責任能力のない未成年者の親権者はその直接的な監視下にない子の行動について人身に危険が及ばないよう注意して行動するよう日頃から指導監督する義務があるとしつつも親権者の直接的な監視下にない子の行動についての日頃の指導監督はある程度一般的なものとならざるを得ないから通常は人身に危険が及ぶものとはみられない行為によってたまたま人身に損害を生じさせた場合は当該行為について具体的に予見可能であるなど特別の事情が認められない限り子に対する監督義務を尽くしていなかったとすべきではないとしています。
法定監督義務者と代理監督者
加害者が11歳から12歳以下の責任無能力者である場合には親権者、親権代行者、後見人、児童福祉施設の長が法定監督義務者に当たることに異論はありません。
加害者が成年の精神障害者である場合には判例は保護者や成年後見人、同居の配偶者であるからといって直ちに法定監督義務者には当たらないとしています。もっとも法定の監督義務者に該当しない者であっても責任無能力者との身分関係や日常生活における接触状況に照らし第三者に対する加害行為の防止に向けてその者が当該責任無能力者の監督を現に行いその態様が単なる事実上の監督を超えているなどその監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情が認められる場合には衡平の見地から法定の監督義務を負う者と同視してその者に対し714条に基づく損害賠償責任を問うことができるとしています。このような者については法定の監督義務者に準ずべき者すなわち準監督義務者として同条1項が類推適用されます。
準監督義務者に当たるか否かはその者自身の生活状況や心身の状況などとともに精神障害者との親族関係の有無と濃淡、同居の有無その他の日常的な接触の程度、精神障害者の財産管理への関与の状況などその者と精神障害者との関わりの実情、精神障害者の心身の状況や日常生活における問題行動の有無と内容及びこれらに対応して行われている監護や介護の実態など諸般の事情を総合考慮してその者が精神障害者を現に監督しているかあるいは監督することが可能かつ容易であるなど衡平の見地からその者に対し精神障害者の行為に係る責任を問うのが相当といえる客観的状況が認められるか否かという観点から判断すべきとされています。
代理監督者が責任を負う場合にはこの者の使用者も715条により責任を負担します。この代理監督者の使用者といえるためには現実に被用者の具体的な選任と監督に関与していることが必要です。監督義務者の責任と代理監督者の責任は併存し代理監督者に託したことにつき過失のないことを立証しない限り監督義務者も同時に責任を負います。
失火責任法との関係
監督義務者の責任と失火責任法との関係について判例は監督につき重過失があった場合にのみ監督義務者が責任を負うとしています。
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