二重の基準の理論の展開
表現の自由を中心とする精神的自由は他の自由以上にとりわけ重要な意義を有するとされており、精神的自由を規制する立法の合憲性は経済的自由を規制する立法よりも特に厳しい基準によって審査されなければならないとされています。これが二重の基準の理論です。
表現の自由を規制する立法の合憲性は厳格な基準によって判定されますが、厳格な基準といっても一様ではなく、表現の種別や規制の態様に応じて異なります。表現内容に着目した規制か否かなどの区別に応じて、それぞれ異なる違憲審査基準が用いられます。
定義づけ衡量
定義づけ衡量とは、一定のカテゴリーの表現について保護の対象から除外するという手法です。特定の類型の表現がそもそも憲法上の保護を受けないものと定義づけた上で、問題となっている表現がその類型に該当するかどうかを判断するものです。
明白かつ現在の危険の基準
明白かつ現在の危険の基準とは、次の3つの要件の存在が論証された場合にはじめて表現行為を規制することができるとする違憲審査基準です。
第一に、ある表現行為が近い将来、実質的害悪をひき起こす蓋然性が明白であることです。第二に、その実質的害悪が極めて重大であり、その重大な害悪の発生が時間的に切迫していることです。第三に、当該規制手段が害悪を避けるのに必要不可欠であることです。
この基準は極めて厳格な基準であり、要件の判断も難しいので、一定の表現内容を規制する立法、たとえばせん動を規制する立法などに用いるのが妥当であるとされています。
なお、明白かつ現在の危険の基準が最高裁の判例で採用されたことはありませんが、この基準の趣旨を取り入れた判例として泉佐野市民会館事件があります。この判決は利益衡量論に立ちつつ、集会の自由の重要性から、利益衡量の基準として「明らかな差し迫った危険の発生の具体的予見」という明白かつ現在の危険の基準と同旨の判断基準を用いました。
より制限的でない他の選びうる手段の基準
より制限的でない他の選びうる手段の基準はLRAの基準とも呼ばれています。この基準は、立法目的は表現内容には直接かかわりのない正当なものとして是認できるが、規制手段が広汎である点に問題のある法令について、立法目的を達成するため規制の程度のより少ない手段が存在するかどうかを具体的かつ実質的に審査し、それがありうると解される場合には当該規制立法を違憲とする基準です。言い換えれば、立法目的の達成に必要最小限度の規制手段を要求する基準です。
この基準はとりわけ表現の時や場所、方法の規制の合憲性を検討する場合に有用であるとされています。
猿払事件の第一審判決は、法の定めている制裁方法よりもより狭い範囲の制裁方法があり、これによってもひとしく法目的を達成することができる場合には、法の定めている広い制裁方法は法目的達成の必要最小限度を超えたものとして違憲となる場合があるとしました。この判決がLRAの基準を採用したものかどうかについては評価が分かれています。なお、この事件の上告審判決では、公務員に対する政治的行為の禁止が合理的で必要やむを得ない限度にとどまるものか否かを判断するにあたっては、禁止の目的、この目的と禁止される政治的行為との関連性、政治的行為を禁止することにより得られる利益と禁止することにより失われる利益の均衡の3点から検討することが必要であるとする、いわゆる合理的関連性の基準が採用されました。
利益衡量と比較衡量
比較衡量とは、法令等の行為によって権利や自由に課された具体的制約の合憲性について、その権利や自由の制限によって得られる利益と、制限の不存在によって得られる利益ないし制限によって失われる利益を比較して判断するものです。
各人権の性質の相違に応じて設定された違憲審査の基準を具体的事件に適用する際、審査基準の枠内において審査基準を具体化するために様々な要素を考慮するという手法があります。これが憲法解釈の方法としての比較衡量と呼ばれています。
目的手段審査の各基準の整理
違憲審査基準としての目的手段審査には、厳格度に応じていくつかの段階があります。
厳格審査基準は、立法目的が必要不可欠であること、規制手段が必要最小限度であること、そして目的と手段の間に必要不可欠の関係があることを要求する最も厳格な基準です。
厳格な合理性の基準は、立法目的が重要であること、規制手段としてより制限的ではない代替手段がないこと、そして目的と手段の間に実質的関連性すなわち具体的かつ実質的な関連性があることを要求する中間的な基準です。
合理性の基準は、立法目的が正当であること、規制手段が著しく不合理であることが明白でないこと、そして目的と手段の間に合理的関連性すなわち抽象的かつ観念的な関連性があることを要求する最も緩やかな基準です。
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