硬性憲法の意義
憲法には高度の安定性が要求されますが同時に政治、経済及び社会の動きに適応するための可変性も要求されます。そこで日本国憲法は硬性憲法という技術すなわち憲法の改正手続を定めつつ通常の法律の制定や改正より困難な手続を要求するという方法によりこの二つの相矛盾する要請をみたそうとしています。日本国憲法における各議院の総議員の3分の2以上の賛成と国民投票における過半数の賛成という要件は他の国に比べて硬性の度合が強いとされます。
憲法改正の限界
憲法改正手続によりさえすればどのような変更をなすことも法的に許されるといえるかにつき憲法改正における限界の有無が問題となります。なお憲法改正の限界については争いがありますがたとえ基本的人権などの条項を改正することが可能だとしてもその改正には厳格な要件が定められている以上安易な改正を防止することができるため硬性憲法であること自体をもって憲法の最高法規性を守る手段であるといえます。
法実証主義的無限界説は憲法規範の価値序列を認めない法実証主義から憲法所定の手続によればいずれの規定も改正できるとします。
主権全能論的無限界説は改正権を全能の制憲権と同視することによりすべての規定が改正の対象となりうるとします。
法理論的かつ憲法内在的限界説は憲法規定の中に基本原理を内容とする規定、改正手続に関する規定及びその他の規定という価値序列と形式効力上の段階構造を認めそこから論理的に基本原理の改正不能を基礎付けます。
自然法論的限界説は憲法制定権力をも拘束する超実定法的実定法としての根本規範の存在を認め制度化された憲法制定権力としての憲法改正権もこうした拘束に服するとします。
限界を超えた改正の法的評価
無限界説からは憲法改正に限界を認めない以上限界を超えた改正という事態は生じず憲法所定の改正手続に基づくものである限りもとの憲法の基本原理を変更することも法的に認められます。
法理論的かつ憲法内在的限界説からは限界を超えた改正はもとの憲法の立場からは無効ということになりますが同時に改正の結果成立した新憲法が現実に有効なものとして実施されかつ国民に支持されている場合にはその改正の有効性は憲法制定権力の新たな発動として承認されます。
自然法論的限界説からは限界を超えた改正が自然法を否定するようなものである場合には改正とその結果成立した新憲法の正当性と有効性は否認されそのような正当性を欠く憲法に対する抵抗権の発動が要請されます。
憲法改正禁止規定の法的意味
法実証主義的無限界説からは改正禁止規定が存在する限りその法的拘束力は実証主義的に認めなければならないため改正禁止規定は創設的意味をもちます。
主権全能論的無限界説からは改正禁止規定自体を改正することによって結局改正は制限されないから改正禁止規定は法的に無意味です。
限界説からは改正禁止規定は理論的限界と一致する限りにおいて改正権に対して注意を促す確認的意味をもつことになります。
日本国憲法改正の限界
限界説に立った場合以下の点について日本国憲法を改正することは許されないとされます。第一に憲法制定権力の所在を示す国民主権です。第二に国民主権原理と密接にかかわる人権尊重主義です。第三に平和主義の諸原理です。第四に憲法改正規定です。憲法改正規定は憲法制定権力が自ら創設した憲法典を持続させるために設けた規定であるから憲法改正権を拘束し少なくともその実質を変更することは許されないと解するのが一般的です。
憲法改正の意義と態様
憲法改正とは成文憲法の内容を憲法所定の手続に従って意識的に変更することをいいます。成文憲法を前提としそこに定められた改正手続で行われます。これに対し憲法制定とはもとの憲法を廃止して始源的に新しい憲法を作ることをいい憲法の変遷とは明文の条項の形式的変更をしないままにその規範の意味に変更が生じることをいいます。
改正の態様としては通常は既存の個別憲法条項の修正、削除又は追加及び新しい条項を加える増補という形がとられますが成文憲法全体にわたっての全面的な書き直しという形がとられることもあります。
国会による発議と提案手続
96条1項は憲法改正の手続として各議院の総議員の3分の2以上の賛成で国会がこれを発議し国民に提案してその承認を経なければならないと定めています。
96条1項にいう国会の発議とは国民に提案すべき憲法改正案を国会が決定することを意味し通常の議案についていわれる原案を提出するという意味の発議とは異なります。国会が国民に対して憲法改正案を発議し提案するためには国会への憲法改正原案の発議及び提出並びに国会における憲法改正原案の審議及び議決が必要です。なお国会において国民に対する憲法改正案の発議の議決がなされた場合にはその議決をもって国民に対する憲法改正案の提案がなされたものとされるため別途96条1項前段所定の提案手続を経る必要はありません。
両議院の議員が憲法改正原案を国会に対して発議するには衆議院においては議員100人以上、参議院においては議員50人以上の賛成が必要です。なお憲法審査会にも憲法改正原案の提出権があります。憲法改正原案の発議及び提出は内容において関連する事項ごとに区分して行われます。
内閣に憲法改正原案の提出権があるかは国民投票法制定後も解釈に委ねられたため争いがあります。A説は内閣の法案提出権を否定し憲法改正発案権も否定します。B説は内閣の法案提出権は肯定するが憲法改正発案権は否定するとし憲法改正は法律と異なり国民投票が予定されている以上その発案権も国民に直結する国会議員に留保されていると解すべきであるとします。C説は内閣の法案提出権を肯定し憲法改正発案権も肯定するとし発議それ自体は両議院の議決による国会の意思の決定であり発案権は国会議員に限るということを当然に意味するものではないこと及び内閣に発案権を認めても国会の自主的審議権が害されるわけではないことを理由とします。
国会における審議と議決
憲法改正原案の審議は両議院の憲法審査会及び本会議においてそれぞれ行われます。憲法改正案の発議の議決には各議院の総議員の3分の2以上の賛成が必要であり衆議院の優越は認められていません。国会法は任意的両院協議会について定めています。
総議員の意味については国民投票法制定後も法律で明定されなかったため争いがあります。A説は法定の議員数と解し定足数が一定になり総議員の数をめぐる争いを回避できるうえ憲法改正の発議要件を厳格にして議決の慎重を期するべきであることを理由とします。B説は議員定数から欠員を差し引いた現に在職する議員の総数と解しA説のように解すると欠員に相当する数を常に反対投票をしたものと同じに扱うことになって不合理でありかかる不合理を回避すべきであることを理由とします。
なお議決に当たっての定足数は論理的に3分の2以上でなければなりませんがそれ以前の単なる審議の定足数については争いがあります。
国民による承認手続
96条1項後段の規定する特別の国民投票及び国会の定める選挙の際行われる投票のいずれに際しても国民投票法が適用されます。国会の定める選挙の際行われる投票とは国民主権に関わるという事の性質上全国的規模で行われる選挙すなわち衆議院議員総選挙又は参議院議員通常選挙でなければなりません。国民投票は国会が憲法改正を発議した日から起算して60日以後180日以内において国会の議決した期日に行われます。
日本国民で年齢満18歳以上の者は国民投票の投票権を有します。公民権が停止されていても投票権は認められさらに成年被後見人にも投票権が認められるに至りました。投票方法は賛成及び反対の文字が記載された投票用紙に丸の記号を自書する方式で行われます。内容関連項目ごとに憲法改正案が発議されるため内容関連項目ごとに賛成もしくは反対の投票をします。期日前投票制度、不在者投票制度及び在外投票制度があり一人一票で秘密投票です。
国民投票運動とは憲法改正案に対し賛成又は反対の投票をし又はしないよう勧誘する行為をいいます。国民投票法は国民投票運動について罰則規定を置く等の制限を設けています。ただし外国人という属性に着目した規制はなくまた戸別訪問や連呼行為などは原則として規制対象とはされていません。一定の者を除く公務員は国会が憲法改正を発議した日から国民投票の期日までの間に国民投票運動及び憲法改正に係る意見の表明をすることができます。他方裁判官、検察官及び警察官等の特定公務員は国民投票運動を行うことができません。なお国民投票運動におけるメディア規制は留意規定が置かれるにとどまり業界の自主規制に委ねられていますが投票期日前14日間はスポットCMが規制されます。
過半数の賛成の意義
憲法改正が成立するためにはその過半数の賛成が必要ですがその過半数の賛成の意味については争いがあります。有権者総数の過半数と解する説に対しては棄権者がすべて改正案に反対の意思を表示するものとみなされてしまう点で不合理であるとの批判がなされています。投票総数の過半数と解する説もありますが現在では国民投票法において有効投票総数すなわち憲法改正案に対する賛成の投票の数と反対の投票の数を合計した数の2分の1を超えた場合にその過半数の賛成があったとされており有効投票総数の過半数と解する説がとられています。なお無効票は投票総数には入りません。また最低投票率制度は設けられていません。
公布手続
憲法改正手続の最後の手続として天皇による公布が必要です。天皇が国民の名で公布すると規定されているのは憲法改正が改正権者である国民の意思によることを明らかにする趣旨です。また96条2項が直ちにこれを公布とした趣旨は公布を恣意的に遅らせてはならないことを定めたものであり法律の場合に奏上の日から30日以内とされていることと対比してそれより短い期間内を適切とする見解が有力です。成立した憲法改正は日本国憲法と一体をなすものとなり最高法規となります。
国民投票に関し異議のある投票人は中央選挙管理会を被告として投票結果の告示日から30日以内に東京高等裁判所に国民投票無効の訴訟を提起することができます。無効事由は法定されています。訴訟の提起は国民投票の効力を停止する効果をもちませんが憲法改正効果発生停止制度があります。
憲法の変遷
憲法の変遷とは一般には憲法の定める憲法改正の手続を経ることなしに憲法を改正したのと同じ効果が生じることをいうとされます。
社会学的意味での憲法変遷とは憲法成文の規範内容と現実の憲法状態との間にずれが生じているという客観的な事実状態をいいます。解釈学的意味での憲法変遷とは憲法成文の規範内容と現実の憲法状態との間のずれを前提としたうえでもとの規範内容に代わって新しい憲法規範が成立していることをいいます。
社会学的意味での憲法の変遷という現象が存在すること自体に争いはありませんが解釈学的意味での憲法変遷を認めるかどうかについては争いがあります。
肯定説は一定の要件すなわち継続や反復及び国民の同意等がみたされた場合には違憲の憲法現実が法的性格を帯び憲法規範を改廃する効力をもつとします。ある憲法規範が国民の信頼を失って実際に守られなくなった場合にはそれはもはや法とはいえないことがその根拠です。もっともいかなる段階で法といえない状態になったと解することができるのかその時点を適切に捉えることは容易ではないとの批判及び実効性が大きく傷つけられ現実に遵守されていなくとも法として拘束性の要素は消滅しないと解することは可能であり将来国民の意識の変化によって仮死の状態にあった憲法規定が息を吹き返すことはありうるとの批判がなされています。
否定説は違憲の憲法現実はあくまでも事実にすぎず法的性格をもちえないとします。硬性憲法の下では憲法改正の国民の意思は憲法改正手続及びそこでの国民投票によってのみ示されるべきであることがその根拠です。
アプリの紹介
過去問を一文一問形式で解けるアプリを開発しました。
