インターネット上の表現流通と通信事業者の役割
インターネットに接続するには、インターネットに接続するサービスを提供する通信事業者、すなわちプロバイダを経由する必要があります。そのため、通信事業者はインターネット上の情報流通の要として機能します。しかし、通信事業者はインターネット上の情報一般について基本的に関知するものではありません。
インターネット上に違法・有害な情報が掲載された場合、その掲載者が責任を負うのは当然です。しかし、サービス提供者である通信事業者も同様に責任を負うことになるのかが問題となります。
青少年保護と自主規制の仕組み
青少年がインターネットを利用することにより犯罪被害に遭う事例も多く存在するため、規制の必要性があります。一方、公権力がインターネット上に出回る表現の内容に着目して通信事業者を直接的に規律することは、インターネット上の表現の自由にとって深刻な影響を及ぼしかねません。
そこで、現在では、通信事業者に対して、保護者の申出がない限りフィルタリングサービスの提供を義務づけるにとどめ、フィルタリングされる有害サイトの認定は民間の第三者機関に委ねるという自主規制の仕組みがとられています。
出会い系サイト規制法事件
出会い系サイト規制法は、インターネット異性紹介事業について罰則を伴う届出制度などを定めています。無届けで出会い系サイトを運営したとして起訴された被告人が本件届出制度はインターネット上の表現の自由などを侵害すると主張して争った事案です。
最高裁は、同法は児童買春その他の犯罪から児童を保護しもって児童の健全な育成に資することを目的としており、この目的は正当であるとしました。
同事業の利用に起因する児童買春その他の犯罪が多発している状況を踏まえると、それら犯罪から児童を保護するために、同事業について規制を必要とする程度は高いです。
本件届出制度は、インターネットを利用してなされる表現に関し、そこに含まれる情報の性質に着目して事業者に届出義務を課すものではありますが、届出事項の内容は限定されたものです。また、届出自体により、事業者によるウェブサイトへの説明文言の記載や同事業利用者による書き込みの内容が制約されるものではありません。
さらに、事業者が児童による利用防止のための措置等をとりつつ、インターネット異性紹介事業を運営することは制約されず、児童以外の者が同事業を利用し、児童との性交等や異性交際の誘引に関わらない書き込みをすることも制約されません。
以上を踏まえると、本件届出制度は、正当な立法目的を達成するための手段として必要かつ合理的なものであり、憲法21条1項に違反するものではないとされました。
なお、この判決の「インターネット異性紹介事業を運営することは制約されず」などの文言からは、インターネット上のサイトの開設・運営によって利用者に表現の場を提供するサイト事業者の行為も表現の自由によって保障されるという趣旨を読み取ることができるとされています。
検索事業者の役割と検索結果の削除請求
Google などの検索サービスを提供する検索事業者は、インターネット上の情報流通の基盤として大きな役割を担っており、膨大な数のサイトが存在するインターネット上での知る権利を実効化する役割を果たしています。
他方、検索サービスで特定の個人の氏名などを検索すると、その者の前科や過去の経済状況などに関する情報を掲載するサイトが検索結果として表示され、これにより事実を公表されない利益、すなわち人格権としてのプライバシー権が侵害されるという問題も存在します。
検索事業者による検索結果の提供の性質
検索事業者は、インターネット上のウェブサイトに掲載されている情報を網羅的に収集してその複製を保存し、同複製を基にした索引を作成するなどして情報を整理し、利用者から示された一定の条件に対応する情報を同索引に基づいて検索結果として提供します。
この情報の収集・整理及び提供はプログラムにより自動的に行われるものの、同プログラムは検索結果の提供に関する検索事業者の方針に沿った結果を得ることができるように作成されたものです。したがって、検索結果の提供は検索事業者自身による表現行為という側面を有します。
また、検索事業者による検索結果の提供は、公衆が、インターネット上に情報を発信したり、インターネット上の膨大な量の情報の中から必要なものを入手したりすることを支援するものであり、現代社会においてインターネット上の情報流通の基盤として大きな役割を果たしています。
そして、検索事業者による特定の検索結果の提供行為が違法とされその削除を余儀なくされるということは、上記方針に沿った一貫性を有する表現行為の制約であることはもとより、検索結果の提供を通じて果たされている上記役割に対する制約でもあります。
Google検索結果削除請求の判断基準
検索事業者が、その者のプライバシーに属する事実を含む記事等が掲載されたウェブサイトのURL等情報を検索結果の一部として提供する行為が違法となるか否かは、複数の要素を比較衡量して判断すべきです。
具体的には、当該事実の性質及び内容、当該URL等情報が提供されることによってその者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度、その者の社会的地位や影響力、上記記事等の目的や意義、上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化、上記記事等において当該事実を記載する必要性など、当該事実を公表されない法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量します。
その結果、当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には、検索事業者に対し、当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができます。
この事件では、児童買春をしたとの被疑事実に基づき逮捕されたという事実が問題となりましたが、児童買春が社会的に強い非難の対象とされ罰則をもって禁止されていることに照らし今なお公共の利害に関する事項であるといえること、また検索結果は特定の県名及び氏名を条件とした場合のものであり事実が伝達される範囲はある程度限られたものであることなどを考慮し、一定期間犯罪を犯すことなく民間企業で稼働していることなどの事情を考慮しても事実を公表されない法的利益が優越することが明らかであるとはいえないとされました。
ツイッター記事削除請求事件
匿名登録制SNS「ツイッター」に投稿されたツイートによりプライバシーに属する事実をみだりに公表されない利益等が侵害されたとして、ツイッターを運営する会社に対しツイートの削除を求めた事案です。
最高裁は、個人のプライバシーに属する事実をみだりに公表されない利益は法的な保護の対象となるとし、このような人格的価値を侵害された者は人格権に基づき加害者に対し現に行われている侵害行為を排除し又は将来生ずべき侵害を予防するため侵害行為の差止めを求めることができるとしました。
ツイッターが、その利用者に対し、情報発信の場やツイートの中から必要な情報を入手する手段を提供していることを踏まえると、削除請求が認められるか否かは、本件事実の性質及び内容、本件各ツイートによって本件事実が伝達される範囲と本人が被る具体的被害の程度、本人の社会的地位や影響力、本件各ツイートの目的や意義、本件各ツイートがされた時の社会的状況とその後の変化など、本人の本件事実を公表されない法的利益と本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきです。
その結果、本人の本件事実を公表されない法的利益が本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける理由に優越する場合には、本件各ツイートの削除を求めることができるとしました。
この事件では、旅館の女性用浴場の脱衣所に侵入したとの被疑事実で逮捕されたという事実が問題となりました。本件事実は不特定多数の者が利用する場所において行われた軽微とはいえない犯罪事実に関するものとしてツイートがされた時点においては公共の利害に関する事実であったものの、刑の言渡しはその効力を失っておりツイートに転載された報道記事も既に削除されていることなどから公共の利害との関わりの程度は小さくなっているとされました。また、本件各ツイートはツイッターの利用者に対して本件事実を速報することを目的としてされたものとうかがわれ長期間にわたって閲覧され続けることを想定してされたものではないこと、氏名で検索すると本件各ツイートが表示されるため本件事実を知らない面識のある者に伝達される可能性が小さいとはいえないこと、本人は公的立場にある者ではないことなどの事情を考慮し、事実を公表されない法的利益がツイートを一般の閲覧に供し続ける理由に優越するとしてツイートの削除を認めました。
Google検索結果削除事件との違い
Google検索結果削除事件では、「事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合」にしか削除は命じられないとされていました。しかし、ツイッター記事削除請求事件では、「事実を公表されない法的利益が優越する場合」には削除を求めることができると判示し、「明らかな場合」でなくてもよいとしています。
この違いは、ツイッターはウェブサイトの1つにすぎないこと、ツイッターの検索システムはGoogleのものとは性質が異なることなどから、Googleが果たしている「インターネット上の情報流通の基盤として大きな役割」をツイッターには認めなかったためと評されています。
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