プライバシー権の意義

プライバシー権は私生活上の事実をみだりに公表されない権利であり、個人の私生活上の自由の一つとして13条後段により保障されます。そのため、プライバシー権を侵害すると不法行為として損害賠償責任を負います。一方、表現の自由も21条1項により保障され、とりわけ公的立場にある人物に関する私生活上の事実がその人物が公職にあることの適否などの判断の一資料として公表されたような場合にはこれを違法というべきではありません。そこで、個人のプライバシー権と表現の自由との調整が問題となります。

プライバシー侵害の3要件

下級審裁判例において、プライバシー権は私生活をみだりに公開されないという法的保障ないし権利とされ、公開された内容が次の3要件を満たす場合には法的救済を受けられるとされました。第一に、私生活上の事実または私生活上の事実らしく受け取られるおそれのあることがらであることです。第二に、一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立った場合公開を欲しないであろうと認められることがらであることです。第三に、一般の人々に未だ知られていないことがらであることを必要とし、このような公開によって当該私人が実際に不快や不安の念を覚えたことです。

最高裁の比較衡量アプローチ

現在の最高裁判例は、プライバシーの侵害についてはその事実を公表されない法的利益とこれを公表する理由とを比較衡量し、前者が後者に優越する場合に不法行為が成立するとしています。その判断に当たっては、プライバシー情報の性質及び内容、相手方の年齢や社会的地位、公表の目的や意義、プライバシー情報を公表する必要性、プライバシー情報が伝達される範囲と相手方が被る具体的被害の程度、公表における表現媒体の性質などの諸事情を比較衡量して判断するとしています。

ノンフィクション「逆転」事件

前科に関わる事実の公表が不法行為に当たるかどうかが問題となった事案です。傷害致死罪及び傷害罪で実刑判決を受けて服役した後に前科を隠しつつ平穏な生活を送っていた人物について、陪審員であった著者がノンフィクション作品の中で実名を使用したことが問題となりました。

最高裁は、ある者が刑事事件につき被疑者とされさらには被告人として公訴を提起されて判決を受けとりわけ有罪判決を受け服役したという事実はその者の名誉あるいは信用に直接にかかわる事項であるから、その者はみだりに前科等にかかわる事実を公表されないことにつき法的保護に値する利益を有するとしました。この理は前科等にかかわる事実の公表が公的機関によるものであっても私人又は私的団体によるものであっても変わるものではないとしました。そしてその者が有罪判決を受けた後あるいは服役を終えた後においては一市民として社会に復帰することが期待されるのであるから、その者は前科等にかかわる事実の公表によって新しく形成している社会生活の平穏を害されその更生を妨げられない利益を有するとしました。

もっとも、事件それ自体を公表することに歴史的又は社会的な意義が認められるような場合には事件の当事者についてもその実名を明らかにすることが許されないとはいえないとしました。またその者の社会的活動の性質あるいはこれを通じて社会に及ぼす影響力の程度などのいかんによっては、その社会的活動に対する批判あるいは評価の一資料として前科等にかかわる事実が公表されることを受忍しなければならない場合もあるとしました。さらに、その者が選挙によって選出される公職にある者あるいはその候補者など社会一般の正当な関心の対象となる公的立場にある人物である場合には、その者が公職にあることの適否などの判断の一資料として前科等にかかわる事実が公表されたときはこれを違法というべきものではないとしました。

そして、前科等にかかわる事実については、これを公表されない利益が法的保護に値する場合があると同時にその公表が許されるべき場合もあるのであって、ある者の前科等にかかわる事実を実名を使用して著作物で公表したことが不法行為を構成するか否かは、その者のその後の生活状況のみならず事件それ自体の歴史的又は社会的な意義、その当事者の重要性、その者の社会的活動及びその影響力について、その著作物の目的や性格等に照らした実名使用の意義及び必要性をも併せて判断すべきものであるとしました。その結果、前科等にかかわる事実を公表されない法的利益が優越するとされる場合にはその公表によって被った精神的苦痛の賠償を求めることができるとしました。

長良川事件報道訴訟

殺人や強盗殺人等の事件により起訴された犯行当時18歳であった少年が、仮名を用いた週刊誌記事が少年法61条によって禁止されている推知報道に該当しプライバシーを侵害されたと主張した事案です。

最高裁は、少年法61条に違反する推知報道かどうかはその記事等により不特定多数の一般人がその者を当該事件の本人であると推知することができるかどうかを基準にして判断すべきところ、本件記事は実名と類似する仮名が用いられその経歴等が記載されているものの少年と特定するに足りる事項の記載はないから、少年と面識のない不特定多数の一般人が本件記事により少年が当該事件の本人であることを推知することができるとはいえないとして、少年法61条の規定に違反するものではないとしました。

プライバシー侵害については、本件記事に記載された犯人情報及び履歴情報はいずれも他人にみだりに知られたくないプライバシーに属する情報であり、少年と面識がありまたは犯人情報あるいは履歴情報を知る者はその知識を手がかりに本件記事が少年に関する記事であると推知することが可能であるから、本件記事の掲載行為はプライバシーを侵害するものであるとしました。

もっとも、プライバシーの侵害についてはその事実を公表されない法的利益とこれを公表する理由とを比較衡量し前者が後者に優越する場合に不法行為が成立するとした上で、本件記事が週刊誌に掲載された当時の少年の年齢や社会的地位、当該犯罪行為の内容、これらが公表されることによってプライバシーに属する情報が伝達される範囲と少年が被る具体的被害の程度、本件記事の目的や意義、公表時の社会的状況、本件記事において当該情報を公表する必要性など、その事実を公表されない法的利益とこれを公表する理由に関する諸事情を個別具体的に審理しこれらを比較衡量して判断することが必要であるとしました。

アプリの紹介

過去問を一文一問形式で解けるアプリを開発しました。

司法試験 短答式試験 過去問 問題集

司法試験 短答式試験 過去問 問題集

司法予備試験の過去問を1問1答形式でアプリにしました。 効率的な学習をサポートする独自の機能があります。 1. 一問一答形式:テンポよく学習を進められます 2. 音声読み上げ機能:問題文と解説を聴いて学習効率アップ 3. 学習記録の自動管理:復習日、回数、正解率を簡単チェック 通勤中や隙間時間を有効活用し、効果的に試験対策ができます。 司法予備試験合格への第一歩、今すぐダウンロード! 利用規約 https://www.apple.com/legal/internet-services/itunes/dev/stdeula/

App StoreGoogle Play