性同一性障害特例法違憲決定の事案

性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律によれば、家庭裁判所が性同一性障害者について性別の取扱いの変更の審判をするためには同法3条1項各号所定の要件を満たす必要があるところ、同法3条1項4号は生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあることと規定していました。そのため、たとえ性同一性障害の治療としては生殖腺除去手術を要しない性同一性障害者であっても、性別変更審判を受けるためには原則として同手術を受けることが要求されるものと解されていました。

性同一性障害者であるXは性別の取扱いの変更の審判を申し立てたところ、生殖腺除去手術を受けておらず同要件に該当しなかったため原審はXの申立てを却下しました。そこでXは特別抗告を申し立てました。

身体への侵襲を受けない自由

最高裁判所は、憲法13条は自己の意思に反して身体への侵襲を受けない自由が人格的生存に関わる重要な権利として保障されていることは明らかであるとしました。

生殖腺除去手術は生命又は身体に対する危険を伴い不可逆的な結果をもたらす身体への強度な侵襲であるから、このような生殖腺除去手術を受けることが強制される場合には身体への侵襲を受けない自由に対する重大な制約に当たるとしました。

本件規定による制約の性質

本件規定は性同一性障害を有する者のうち自らの選択により性別変更審判を求める者について原則として生殖腺除去手術を受けることを前提とする要件を課すにとどまるものであり、性同一性障害を有する者一般に対して同手術を受けることを直接的に強制するものではありません。しかしながら、本件規定は性同一性障害の治療としては生殖腺除去手術を要しない性同一性障害者に対しても性別変更審判を受けるためには原則として同手術を受けることを要求するものであるとしました。

他方で、性同一性障害者がその性自認に従った法令上の性別の取扱いを受けることは、法的性別が社会生活上の多様な場面において個人の基本的な属性の一つとして取り扱われていることに鑑みると、個人の人格的存在と結び付いた重要な法的利益であるとしました。

そうすると、本件規定は治療としては生殖腺除去手術を要しない性同一性障害者に対して性自認に従った法令上の性別の取扱いを受けるという重要な法的利益を実現するために同手術を受けることを余儀なくさせるという点において身体への侵襲を受けない自由を制約するものであり、このような制約は身体への侵襲を受けない自由の重要性に照らし必要かつ合理的なものということができない限り許されないとしました。

審査の枠組み

本件規定が必要かつ合理的な制約を課すものとして憲法13条に適合するか否かについては、本件規定の目的のために制約が必要とされる程度と、制約される自由の内容及び性質、具体的な制約の態様及び程度等を較量して判断されるべきものであるとしました。

制約の必要性の低減

本件規定の目的は、第一に、性別変更審判を受けた者について変更前の性別の生殖機能により子が生まれることがあれば親子関係等に関わる問題が生じ社会に混乱を生じさせかねないこと、第二に、長きにわたって生物学的な性別に基づき男女の区別がされてきた中で急激な形での変化を避ける必要があること等の配慮に基づくとしました。

しかしながら、性同一性障害を有する者は社会全体からみれば少数である上、本件規定がなかったとしても生殖腺除去手術を受けずに性別変更審判を受けた者が子をもうけることにより親子関係等に関わる問題が生ずることは極めてまれなことであるとしました。また、親子関係等に関わる問題のうち法律上の親子関係の成否や戸籍への記載方法等の問題は法令の解釈や立法措置等により解決を図ることが可能なものであるとしました。さらに、平成20年の特例法改正により成年の子がいる性同一性障害者が性別変更審判を受けた場合には女である父や男である母の存在が肯認されることとなったが、現在までの間にこのことにより親子関係等に関わる混乱が社会に生じたとはうかがわれないとしました。加えて、特例法の施行から約19年が経過しこれまでに1万人を超える者が性別変更審判を受けるに至っている中で、性同一性障害を有する者に関する理解が広まりつつあり、その社会生活上の問題を解消するための環境整備に向けた取組等も社会の様々な領域において行われていることから、上記の事態が生じうることが社会全体にとって予期せぬ急激な変化に当たるとまではいい難いとしました。

以上により、本件規定による制約の必要性はその前提となる諸事情の変化により低減しているとしました。

制約の態様及び程度

特例法の制定後、性同一性障害に対する医学的知見が進展し、性同一性障害に対する治療としてどのような身体的治療を必要とするかは患者によって異なるものとされたことにより、必要な治療を受けたか否かは性別適合手術を受けたか否かによって決まるものではなくなり、生殖腺除去要件を課すことは医学的にみて合理的関連性を欠くに至っているとしました。

そして、本件規定による身体への侵襲を受けない自由に対する制約は、上記のような医学的知見の進展に伴い、治療としては生殖腺除去手術を要しない性同一性障害者に対し、身体への侵襲を受けない自由を放棄して強度な身体的侵襲である生殖腺除去手術を受けることを甘受するか、又は性自認に従った法令上の性別の取扱いを受けるという重要な法的利益を放棄して性別変更審判を受けることを断念するかという過酷な二者択一を迫るものになったとしました。また、本件規定の目的を達成するためにこのような医学的にみて合理的関連性を欠く制約を課すことは、生殖能力の喪失を法令上の性別の取扱いを変更するための要件としない国が増加していることをも考慮すると、制約として過剰になっているとしました。

そうすると、本件規定は上記のような二者択一を迫るという態様により過剰な制約を課すものであるから、本件規定による制約の程度は重大なものであるとしました。

結論

以上を踏まえると、本件規定による身体への侵襲を受けない自由の制約については、現時点においてその必要性が低減しておりその程度が重大なものとなっていることなどを総合的に較量すれば必要かつ合理的なものということはできないとして、本件規定は憲法13条に違反し無効であると判示しました。

旧判例の変更

かつての判例は、本件規定についてその意思に反して身体への侵襲を受けない自由を制約する面もあることは否定できないとしつつも、現時点では憲法13条および14条1項に違反するものとはいえないとしていましたが、上記の違憲決定により変更されるに至りました。

なお、特例法3条1項5号のいわゆる外観要件についても憲法13条に違反するとの反対意見が付されています。

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