不動産質権者による使用及び収益
356条は不動産質権者は質権の目的である不動産の用法に従いその使用及び収益をすることができると定めています。質権者は原則として質物を使用収益することができませんがこの原則を不動産質においても貫くと目的不動産は質権者が設定者からその占有を取り上げている関係上誰にも利用されないことになって社会経済上不利益であり他方質権者に利用させても目的不動産を損壊する危険は小さいため設定行為に別段の定めがない限り質権者がその用法に従い目的不動産を使用しうることを認めたものです。本条から不動産質権者の果実収取権が認められます。
不動産質権者が天然果実を収取した場合でも利息の弁済に充当しなければならないわけではありません。用法に従い使用収益することができるのですから不動産質権者が目的不動産を賃貸しその賃料を収受することは可能です。しかし畑を水田として使用することや住宅を店舗として使用することはできません。
不動産質権者による管理の費用等の負担
357条は不動産質権者は管理の費用を支払いその他不動産に関する負担を負うと定めています。不動産質権者による目的不動産の使用収益権を認めた反面で課せられた負担です。
不動産質権者による利息の請求の禁止
358条は不動産質権者はその債権の利息を請求することができないと定めています。利息は債権元本の使用の対価であり不動産に質権が設定される場合にはその物の代価は少なくとも債権の元本額に相当するのが常であるからその果実の価額は管理費用を控除してもなお少なくとも債権の利息に相当するのが通例であると考えられます。使用収益額、管理費用及び利息額の間の複雑な計算を避けることも考慮して本条は任意規定として規定されたものです。
設定行為に別段の定めがある場合
359条は356条から358条までの規定は設定行為に別段の定めがあるとき又は担保不動産収益執行の開始があったときは適用しないと定めています。
不動産質権の存続期間
360条1項は不動産質権の存続期間は10年を超えることができないと定めています。設定行為でこれより長い期間を定めたときであってもその期間は10年となります。同条2項は不動産質権の設定は更新することができるがその存続期間は更新の時から10年を超えることができないと定めています。不動産の用益権を長く所有者以外の者に委ねると不動産の効用を全うできないと考えられたため規定されたものです。
存続期間の定めがない場合にも質権は不成立になるのではなく設定の時から10年は存続すると解されています。弁済期の経過後に存続期間を経過した場合にはその間に質権を実行しなければ無担保債権となります。
抵当権の規定の準用
361条は不動産質権についてはこの節に定めるもののほかその性質に反しない限り抵当権の規定を準用すると定めています。準用される規定のうち主要なものは373条、375条、378条及び388条です。
権利質の意義
362条1項は質権は財産権をその目的とすることができると定めています。同条2項はこの質権についてはこの節に定めるもののほかその性質に反しない限り総則、動産質及び不動産質の規定を準用すると定めています。資本主義の発達に伴い財産権の有する交換価値を担保化する必要性に対処すべく財産権を目的とした質権の設定を可能とするために規定されたものです。
権利質の目的となる債権
権利質の目的となる債権は財産的価値を有し譲渡可能であることを要します。扶養を受ける権利などはたとえ質権者が譲渡できないことについて善意であったとしても目的となしえません。
譲渡制限の意思表示がされた債権が質権の目的とされた場合にはその特約について質権者が悪意であったとしても預貯金債権の場合を除き質権設定の効力は妨げられません。ただし債務者は悪意又は重過失の質権者に対し債務の履行を拒むことができまた弁済等の債務の消滅事由をもって対抗することができます。
質権者が債務者である債権も質入れすることができます。たとえば銀行が自行に預金債権を有している者に対して融資をする際にその貸金債権を担保するために預金債権を目的として質権の設定を受ける場合がこれに当たります。
債権質の効力の及ぶ範囲
債権質の効力は債権全部の弁済を受けるまで全債権に及びます。また債権質の効力は利息債権や担保権にも及び債権の侵害に対する損害賠償請求権や保険金請求権にも及びます。
債権質の設定者に対する効力
質権設定者は質入れした債権の取立て、相殺及び免除等債権を消滅又は変更させる一切の行為その他当該債権の担保価値を害するような行為を行うことは許されません。質権設定者は担保価値維持義務を負うためです。たとえば債権質権設定者である賃借人が正当な理由なく賃貸人に対し未払債務を生じさせて目的債権たる敷金返還請求権の発生を阻害する行為は許されません。
質権設定者は時効の完成を妨げるため自ら第三債務者に催告したり債権存在の確認訴訟を提起することができます。また質入債権を他に譲渡することもできます。
債権を目的とする質権の対抗要件
364条は債権を目的とする質権の設定は現に発生していない債権を目的とするものを含め467条の規定に従い第三債務者にその質権の設定を通知し又は第三債務者がこれを承諾しなければこれをもって第三債務者その他の第三者に対抗することができないと定めています。
質権者を特定しないでなされた第三債務者の承諾は第三者に対する対抗要件とは認められません。
第三債務者以外の第三者には債権の譲受人や同一債権に対する質権取得者及び差押債権者が含まれます。これらの者に対する対抗要件は通知又は承諾が確定日付ある証書をもってなされる必要があります。
質入債権に対する拘束力として債権差押についての規定が準用されます。設定者と第三債務者との間で債権の取立てや相殺等質入債権を消滅又は変更させてもこれを質権者に対抗できません。
同一の債権について複数の質権が設定された場合に後から質権設定を受けた者が先に第三者対抗要件を備えたとしても先に質権設定を受けた者は質権の設定を第三債務者その他の第三者に対抗することができないだけであり質権それ自体を喪失するわけではなく質権設定者に対して質権の効力を主張することができます。
法人が債権を目的として質権を設定した場合については債権譲渡登記ファイルへの登記によって第三者対抗要件を具備することも可能です。
質権者による債権の取立て
366条1項は質権者は質権の目的である債権を直接に取り立てることができると定めています。直接取立権は質権者の権利であって質権設定者の債権を代理行使するものではないので質権設定者の名において取立てをしなければならないものではありません。質権者は質入債権の目的物を直接自己へ引き渡す旨を請求でき引渡しがなされた場合はその債権は弁済されたことになります。
同条2項は債権の目的物が金銭であるときは質権者は自己の債権額に対応する部分に限りこれを取り立てることができると定めています。質権の目的である債権の目的物が金銭である場合にかかる取立てが認められるためには質権者の被担保債権の弁済期が到来するとともに質権の目的たる債権の弁済期が到来しなくてはなりません。
同条3項は被担保債権の弁済期が質権の目的である債権の弁済期前に到来したときは質権者は第三債務者にその弁済をすべき金額を供託させることができると定めています。この場合において質権はその供託金について存在します。
同条4項は債権の目的物が金銭でないときは質権者は弁済として受けた物について質権を有すると定めています。
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