略取、誘拐及び人身売買の罪の保護法益
略取及び誘拐の罪の保護法益については見解が対立しています。被拐取者の自由であるとする説、被拐取者に対する監護権すなわち親権であるとする説及び被拐取者の自由並びに被拐取者が要保護状態にある場合は親権者等の保護監督権であるとする説があります。判例は第三の説の立場に立っています。
被拐取者の自由であるとする説では監護権者が存在しない場合にも本罪が成立しえますが監護権であるとする説では成立しえません。被拐取者の自由であるとする説では被害者本人の同意がある場合には本罪は不成立となりますが他の二説では同意があっても本罪が成立しえます。
未成年者略取及び誘拐罪
224条は未成年者を略取し又は誘拐した者は3月以上7年以下の拘禁刑に処すると定めています。
未成年者略取及び誘拐罪の客体
未成年者とは18歳未満の者をいいます。自ら移動する意思も能力も有していない生後間もない嬰児も未成年者に含まれます。
略取と誘拐の意義
略取及び誘拐はともに他人をその生活環境から不法に離脱させ自己又は第三者の事実的支配下に置くことをいいますが暴行又は脅迫を手段とする場合を略取と呼び欺罔又は誘惑を手段とする場合を誘拐と呼びます。暴行、脅迫、欺罔又は誘惑の行為は必ずしも被拐取者に対してなされる必要はなく監護者に加えられても略取又は誘拐になりえます。
着手時期と既遂時期
着手時期は暴行又は脅迫もしくは欺罔又は誘惑の開始時です。既遂時期は被害者を行為者又は第三者の実力支配内に移した時であり単に保護監督状態から離脱させただけでは足りません。
監護権者による未成年者の略取
親権者などの監護権者により未成年者の略取等がされた場合にも本罪が成立するかについて未成年者略取誘拐罪の保護法益と関係して争いがあります。判例はこのような場合も略取又は誘拐の構成要件に該当し監護権者であることは違法性が阻却されるかどうかの判断において考慮されるべき事情にすぎない旨判示しています。一般に連れ去り行為が監護養育上必要であり子の利益に合致するものであるといえるのであれば違法性が阻却されえます。
営利目的等略取及び誘拐罪
225条は営利、わいせつ、結婚又は生命もしくは身体に対する加害の目的で人を略取し又は誘拐した者は1年以上10年以下の拘禁刑に処すると定めています。
本罪は未成年者略取及び誘拐罪の加重類型であるから本罪が成立する場合には法条競合により本罪のみが成立します。成人を客体とする場合は営利、わいせつ、結婚又は加害の目的がなければ略取又は誘拐罪は成立しません。
営利目的とは拐取行為により自ら財産上の利益を得又は第三者に得させる目的をいいます。一時的に利益を得る目的であってもよく誘拐に対する報酬を得る目的であってもよいとされています。わいせつ目的とは性交等その他被拐取者の性的自由を侵害する目的をいいます。結婚目的とは行為者又は第三者と結婚させる目的をいいます。結婚には法律婚のみならず事実婚すなわち内縁も含まれます。加害目的とは被拐取者を殺害し、傷害し又は暴行を加える目的をいいます。
身の代金目的略取等罪
225条の2第1項は近親者その他略取され又は誘拐された者の安否を憂慮する者の憂慮に乗じてその財物を交付させる目的で人を略取し又は誘拐した者は無期又は3年以上の拘禁刑に処すると定めています。
憂慮する者とは被拐取者の安否を親身になって憂慮するのが社会通念上当然であるとみられる特別な関係にある者をいいます。
身の代金要求罪
225条の2第2項は人を略取し又は誘拐した者が近親者その他略取され又は誘拐された者の安否を憂慮する者の憂慮に乗じてその財物を交付させ又はこれを要求する行為をしたときも同様とすると定めています。要求する行為とは財物の交付を求める意思表示をすることをいい要求の意思表示がなされれば既遂に達し相手方がその意思表示を知りうる状態に達したことを要しません。
所在国外移送目的略取及び誘拐罪
226条は所在国外に移送する目的で人を略取し又は誘拐した者は2年以上の有期拘禁刑に処すると定めています。
人身売買罪
226条の2第1項は人を買い受けた者は3月以上5年以下の拘禁刑に処すると定めています。同条2項は未成年者を買い受けた者は3月以上7年以下の拘禁刑に処すると定めています。同条3項は営利、わいせつ、結婚又は生命もしくは身体に対する加害の目的で人を買い受けた者は1年以上10年以下の拘禁刑に処すると定めています。同条4項は人を売り渡した者も同様とすると定めています。同条5項は所在国外に移送する目的で人を売買した者は2年以上の有期拘禁刑に処すると定めています。同条1項、2項、3項及び5項の人身買受け罪は法条競合の関係にあり重い罪のみが成立します。4項と5項の人身売渡し罪も同様です。
被略取者等所在国外移送罪
226条の3は略取され、誘拐され又は売買された者を所在国外に移送した者は2年以上の有期拘禁刑に処すると定めています。
被略取者引渡し等罪
227条1項は224条、225条又は226条から226条の3までの罪を犯した者を幇助する目的で略取され、誘拐され又は売買された者を引き渡し、収受し、輸送し、蔵匿し又は隠避させた者は3月以上5年以下の拘禁刑に処すると定めています。同条2項は身の代金目的略取の罪を犯した者を幇助する目的で略取され又は誘拐された者を引き渡し、収受し、輸送し、蔵匿し又は隠避させた者は1年以上10年以下の拘禁刑に処すると定めています。同条3項は営利、わいせつ又は生命もしくは身体に対する加害の目的で略取され、誘拐され又は売買された者を引き渡し、収受し、輸送し又は蔵匿した者は6月以上7年以下の拘禁刑に処すると定めています。同条4項は身の代金目的略取の目的で略取され又は誘拐された者を収受した者は2年以上の有期拘禁刑に処すると定めています。略取され又は誘拐された者を収受した者が近親者その他略取され又は誘拐された者の安否を憂慮する者の憂慮に乗じてその財物を交付させ又はこれを要求する行為をしたときも同様です。
未遂罪
228条は未成年者略取及び誘拐罪、営利目的等略取及び誘拐罪、身の代金目的略取罪、所在国外移送目的略取及び誘拐罪、人身売買罪、被略取者等所在国外移送罪並びに被略取者引渡し等罪の一部について未遂を罰すると定めています。略取誘拐者身代金要求罪及び被略取者収受者の身代金要求罪は財物を要求すればその時点で既遂となるから未遂処罰規定がありません。
解放による刑の減軽
228条の2は身の代金目的略取等又はその関連犯罪を犯した者が公訴が提起される前に略取され又は誘拐された者を安全な場所に解放したときはその刑を減軽すると定めています。身代金目的の拐取罪及びその関連犯罪については被略取者の生命及び身体の危険が大きいことからその安全を図るために政策的に規定されたものです。解放とは被略取者に対する事実的支配を解くことをいいます。安全な場所とは被略取者が安全に救出されると認められる場所をいいその安全性は被略取者が近親者や官憲などによって救出されるまで生命及び身体に対して具体的な危険が生じない程度を意味します。
身の代金目的略取等予備罪
228条の3は身の代金目的略取の罪を犯す目的でその予備をした者は2年以下の拘禁刑に処すると定めています。ただし実行に着手する前に自首した者はその刑を減軽し又は免除するとされています。
親告罪
229条は未成年者略取及び誘拐罪並びに同罪を幇助する目的で犯した被略取者引渡し等罪及びこれらの罪の未遂罪は告訴がなければ公訴を提起することができないと定めています。略取及び誘拐の犯人が被害者の実親等である場合においてその犯人を処罰することは被害者である未成年者のその後の成長に影響を与えうるので処罰を求めるか否かの判断を被害者や監護権者の意思に委ねる趣旨です。
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