事務管理の意義

事務管理は個人主義と自由主義を前提としつつも社会生活における相互扶助を容易にすべく他人の生活への干渉行為を適法と認めて本人と管理者の利益の調節を図った制度です。民法は個人主義と自由主義をやや重視してもっぱら本人の意思と利益を重視して事務管理を認めています。

697条1項は義務なく他人のために事務の管理を始めた者はその事務の性質に従い最も本人の利益に適合する方法によってその事務の管理をしなければならないと定めています。同条2項は管理者は本人の意思を知っているとき又はこれを知ることができるときはその意思に従って事務管理をしなければならないと定めています。

事務管理の要件

事務管理が成立するためには他人の事務を管理すること、他人のためにする意思があること、法律上の義務がないこと及び本人の意思に反しないこと並びに本人に不利益であることが明らかでないことが必要です。

事務とは人の生活に必要な一切の仕事をいい事実行為か法律行為かを問いません。また多少とも継続的な行為であるか一回的な行為であるかも問いません。性質上当然に他人の事務になるものはもちろん性質上中性のものであっても管理者が他人のためにする意思をもって管理するときは他人の事務となります。事務の管理は管理行為のみならず処分行為も含みます。

他人のためにする意思とは他人の利益を図る意思をもって事務を管理することです。この意思は自己のためにする意思と併存しても構いません。他人のためにする意思は自己以外の者の利益を図る意思で足り本人が誰であるかを知っている必要はありません。誰が本人であるかについて錯誤があったときでも真実の本人について事務管理が成立します。他人の利益を図る意思が強く必要な費用はすべて自分が負担するという積極的な意思がある場合は費用償還請求権を否定するのが通説ですがこの場合にも事務管理自体は成立すると解されています。

法律上の義務がないこととは管理者が法律の規定や契約によりその事務を管理する義務を負っていないことです。親権者や受任者には事務管理は成立しません。

本人の意思に反しないこと及び本人に不利益であることが明らかでないことも要件です。本人の意思は適法なものでなければならず事務の管理を欲しない本人の意思が強行法規又は公序良俗に反するときはそれに適合しなくても事務管理は成立します。

事務管理の効果

事務管理の効果として第1に違法性阻却があります。他人への干渉が不法行為になりません。また干渉の結果何らかの損害を与えても不法行為は成立しません。もっとも管理方法が適切でなかったために損害が発生した場合には事務管理の効果として発生した債務の不履行として責任を負います。

第2に債権債務が発生します。

管理者の義務としては本人の意思と利益に適合した方法で管理すべき義務、管理開始の通知義務、管理継続義務及び注意義務があります。注意義務については通常の事務管理の場合には善管注意義務を負いますが緊急事務管理の場合には悪意又は重過失がある場合のみ責任を負います。また委任の規定の準用による付随義務を負います。

本人の義務としては管理者が有益費を支出した場合の有益費償還義務、管理者が有益な債務を負担した場合の代弁済義務及び担保供与義務があります。もっとも本人の意思に反して管理した場合には本人は現に利益を受ける限度においてのみこれらの義務を負います。報酬支払義務や損害賠償義務は認められていません。

緊急事務管理

698条は管理者は本人の身体、名誉又は財産に対する急迫の危害を免れさせるために事務管理をしたときは悪意又は重大な過失があるのでなければこれによって生じた損害を賠償する責任を負わないと定めています。緊急の場合にはとっさの判断に基づく迅速な管理行為が要求され管理により利益の帰属する本人側に相当の危険を負担させてもやむを得ないためです。この規定の反対解釈から急迫の危害のない通常の場合には管理者は善管注意義務を負うとされています。

管理者の通知義務

699条は管理者は事務管理を始めたことを遅滞なく本人に通知しなければならないと定めています。ただし本人が既にこれを知っているときはこの限りではありません。

管理者による事務管理の継続

700条は管理者は本人又はその相続人若しくは法定代理人が管理をすることができるに至るまで事務管理を継続しなければならないと定めています。ただし事務管理の継続が本人の意思に反し又は本人に不利であることが明らかであるときはこの限りではありません。一度管理を開始した以上勝手に中止するとかえって本人が損害を被ることがあるため管理継続義務が規定されています。管理者はいつでも管理を中止できるわけではありません。

委任の規定の準用

701条は受任者による報告、受取物の引渡し等及び金銭消費の責任に関する645条から647条までの規定を事務管理について準用しています。事務管理は委託により成立するものではありませんが事務管理者が本人のために事務処理義務を負う点で委任に類似するためです。受任者による費用前払請求権に関する649条は準用されていません。また委任における報酬に関する648条や損害賠償に関する650条3項も準用されていないため管理者に報酬や損害賠償の請求権は認められていません。

管理者による費用の償還請求等

702条1項は管理者は本人のために有益な費用を支出したときは本人に対しその償還を請求することができると定めています。この有益費は通常の概念より広く必要費を含みます。有益か否かは支出時を基準に判断されます。本人が有益費の償還義務を負う場合であってもこれと事務管理者の負う目的物返還義務とは同時履行の関係にはありません。

同条2項は受任者の代弁済請求に関する650条2項の規定を管理者が本人のために有益な債務を負担した場合について準用しています。

同条3項は管理者が本人の意思に反して事務管理をしたときは本人が現に利益を受けている限度においてのみ費用償還請求及び代弁済請求に関する規定を適用すると定めています。

事務管理と代理

管理者が自己の名で法律行為をした場合には管理者と相手方の間に法律関係が生じ本人と相手方の間には法律関係は生じません。管理者は本人のためにすることを相手方に示しておらず本人に効果を帰属させるのは本人にとっても相手方にとっても酷であるためです。

管理者が本人の名で法律行為をした場合については対外的には無権代理であり表見代理が成立するか本人の追認がなければ本人には効果は及ばないとするのが判例の立場です。事務管理は本人と管理者間の対内的関係を定めるものにすぎないためです。この場合には相手方は管理者に無権代理人の責任を追及することになります。これに対し適法な事務管理としてなされた法律行為の効果は当然に本人に及ぶとする見解もあります。

準事務管理

準事務管理とは他人の事務と知りつつもっぱら自己のために事務を管理する場合をいいます。

準事務管理について事務管理規定の類推適用を否定する見解は不当利得や不法行為における損失や損害の合理的な認定によって処理するべきとしています。本来利他的な行為を保護するための事務管理制度を他人の事務を悪意で自己のために管理した場合に準用するのは筋違いであるとするのがその理由です。

これに対し事務管理規定の類推適用を肯定する見解は管理者の義務については事務管理の規定を類推適用すべきとしています。不法行為による損害賠償請求や不当利得返還請求では請求しうる範囲が本人の損失に限られしかもその証明が困難であるため準事務管理として本人の損失の有無を問わず管理者の得た利益を返還せしめることが本人の保護に適するとするのがその理由です。

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