信教の自由に基づく一般的な義務の免除の可否
自己の信仰と一般的に課せられた法令上の義務とが衝突し、仮に法令上の義務を履行することが自己の信仰の否定につながる場合、法令上の義務を履行せずに自己の信仰を優先する行動をとっても法令上の規制や処罰を免れることができるかが問題となります。この問題については平等取扱説と義務免除説という2つの考え方が挙げられます。
平等取扱説
平等取扱説は、一般的に適用される法令による間接的かつ偶然的な制約まで信教の自由の名の下に免除するとすれば当該信仰をもつ者に対してその信仰を理由とする報奨を与えることになり平等原則及び政教分離原則に反するという考え方です。
日曜日授業参観事件
公立小学校の参観授業が日曜日に行われたため牧師である両親が子どもを教会学校に出席させ参観授業には出席させなかったところ指導要録に欠席と記載されたことから、当該処分は信教の自由に違反すると主張してその取消しなどを求めた事案です。
裁判所は、指導要録への欠席記載は担任教師に出欠状況を知らせる事実行為であり法律上の不利益を課すものではないとした上で、宗教行為に参加する児童に対する出席の免除は公教育の宗教的中立性を保つ上で好ましいことではないとしました。そして、公教育上の特別の必要性がある授業日の振替えの範囲内では宗教教団の集会と抵触することになったとしても法はこれを合理的根拠に基づくやむを得ない制約として容認しているとしました。
義務免除説
義務免除説は、当該信仰が真摯なものでありかつ当該妨げの程度が重大である場合には、規制によって得られる利益が特に重大な公共の利益である場合を除き、間接的かつ偶然的な制約であっても当該信仰をもつ者に対する関係では違憲となるという考え方です。
牧会活動事件
牧師であるXが建造物侵入罪等の罪に問われ逃走中であった高校生2名を魂への配慮から教会内に約1週間にわたり宿泊させたところ犯人蔵匿罪に当たるとして起訴された事案です。
裁判所は、内面的な信仰と異なり外面的な行為である牧会活動がその違いの故に公共の福祉による制約を受ける場合のあることはいうまでもないが、その制約が結果的に行為の実体である内面的信仰の自由を事実上侵すおそれが多分にあるのでその制約をする場合は最大限に慎重な配慮を必要とするとしました。そして本件牧会活動は専らXを頼ってきた両少年の魂への配慮に出た行為であるとした上で目的の正当性と手段の相当性を審査し正当業務行為に当たるとしてXを無罪としました。
剣道受講拒否事件
エホバの証人である市立高等専門学校の学生Xは信仰上の理由から格技である剣道実技の履修を拒否し、代わりにレポート提出等の代替措置を認めてほしい旨申し入れましたが校長Yは代替措置をとりませんでした。Xは必修科目である体育科目の修得認定を受けられず2年連続して原級留置処分を受けさらに退学処分を受けたため、これらの処分が信教の自由を侵害するとしてその取消しを求めました。
最高裁判所はまず判断枠組みについて、高等専門学校の校長が学生に対し原級留置処分又は退学処分を行うかどうかの判断は校長の合理的な教育的裁量にゆだねられるべきものであり、裁判所がその処分の適否を審査するに当たっては校長の裁量権の行使としての処分が全く事実の基礎を欠くか又は社会観念上著しく妥当を欠き裁量権の範囲を超え又は裁量権を濫用してされたと認められる場合に限り違法であると判断すべきものであるとしました。しかし、退学処分は学生の身分をはく奪する重大な措置であり、その要件の認定につき他の処分の選択に比較して特に慎重な配慮を要するとしました。また、原級留置処分2回で退学処分になるなど学生に与える不利益の大きさに照らして原級留置処分の決定に当たっても同様に慎重な配慮が要求されるとしました。
具体的な審査においては次のように判断しました。高等専門学校においては剣道実技の履修が必須のものとまではいい難く体育科目による教育目的の達成は他の体育種目の履修などの代替的方法によってこれを行うことも性質上可能であるとしました。Xが剣道実技への参加を拒否する理由はXの信仰の核心部分と密接に関連する真摯なものであったとし、Xは信仰上の理由による剣道実技の履修拒否の結果として他の科目では成績優秀であったにもかかわらず原級留置や退学という事態に追い込まれたものであるからその不利益が極めて大きいことも明らかであるとしました。また、本件各処分はその内容それ自体においてXに信仰上の教義に反する行動を命じたものではなくその意味ではXの信教の自由を直接的に制約するものとはいえないが、Xがそれらによる重大な不利益を避けるためには剣道実技の履修という自己の信仰上の教義に反する行動を採ることを余儀なくさせられるとしました。
さらに、Xが自らの自由意思により必修である体育科目の種目として剣道の授業を採用している学校を選択したことを理由に著しい不利益をXに与えることが当然に許容されることになるものでもないとしました。
Y側は代替措置を採ることは20条3項に違反するとも主張しましたが、最高裁判所は、信仰上の真摯な理由から剣道実技に参加することができない学生に対し代替措置として他の体育実技の履修やレポートの提出等を求めた上でその成果に応じた評価をすることがその目的において宗教的意義を有し特定の宗教を援助ないし助長ないし促進する効果を有するものということはできず、他の宗教者又は無宗教者に圧迫や干渉を加える効果があるともいえないとしました。また、公立学校において学生の信仰を調査せん索し宗教を序列化して別段の取扱いをすることは許されないものであるが、学生が信仰を理由に剣道実技の履修を拒否する場合に学校がその理由の当否を判断するため単なる怠学のための口実であるか当事者の説明する宗教上の信条と履修拒否との合理的関連性が認められるかどうかを確認する程度の調査をすることが公教育の宗教的中立性に反するとはいえないとしました。
結論として、信仰上の理由による剣道実技の履修拒否を正当な理由のない履修拒否と区別することなく代替措置が不可能というわけでもないのに代替措置について何ら検討することもなく原級留置処分や退学処分をしたYの措置は考慮すべき事項を考慮しておらず又は考慮された事実に対する評価が明白に合理性を欠きその結果社会観念上著しく妥当を欠く処分をしたものと評するほかはなく、本件各処分は裁量権の範囲を超える違法なものであるとしました。
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