文面審査の意義
思想の自由市場の考え方からすれば、人々からできるだけ多様な見地からの言論が提示され、議論が活発に交わされる必要があります。しかし、表現の自由を規制する法令の文言や内容が不明確であったり、その規制範囲が広すぎたりすると、国民がその適用を恐れて本来自由に行い得る表現行為までも差し控えるという萎縮効果が生じ、表現の自由が不当に制限される結果を招くことになります。
そこで、表現の自由を十分に保障するため、表現を規制する法令の文言や内容は明確でなければならないとされています。これが漠然性ゆえに無効の法理です。また、たとえ法令の文言や内容が明確であっても、その規制範囲が本来憲法上許容されるべき表現にまで及ぶ場合には、やはり文面上無効と解されます。これが過度の広汎性ゆえに無効の法理です。
漠然性ゆえに無効の法理と明確性の原則
漠然性ゆえに無効の法理は明確性の原則とも呼ばれています。この法理に関する判断基準として、ある刑罰法規があいまいで不明確のゆえに憲法31条に違反するものと認めるべきかどうかは、通常の判断能力を有する一般人の理解において、具体的に当該行為がその適用を受けるものかどうかの判断を可能ならしめるような基準が読みとれるかどうかによって決定すべきであるとされています。
この法理は、国民がその規定の適用を恐れて本来自由に行い得る表現行為までも差し控えるという萎縮効果を除去するものでもあります。
明確性の原則と合憲限定解釈
文面審査が問題となる場合には、合憲限定解釈の可能性について言及する必要があります。合憲限定解釈とは、通常の解釈をすれば法令に違憲的に適用される部分があると考えられる場合に、法令の適用範囲を限定する解釈を採用することによって当該法令を合憲と判断する手法です。
税関検査事件において、関税定率法にいう「風俗を害すべき書籍、図画」という規定の明確性が問題となりました。最高裁大法廷は、「風俗」という用語そのものの意味内容はその文言自体から直ちに一義的に明らかであるとはいえないとする一方、「風俗を害すべき書籍、図画」という規定を合理的に解釈すれば、風俗とは専ら性的風俗を意味し、輸入禁止の対象とされるのはわいせつな書籍や図画等に限られるものということができるとしました。このような限定的な解釈が可能である以上、この規定は何ら明確性に欠けるものではなく、憲法21条1項の規定に反しないとしました。
過度の広汎性ゆえに無効の法理
過度の広汎性ゆえに無効の法理とは、表現の自由を規制する法令の規定が違憲的に適用される事例を含む場合にはその規定を文面上無効とするものです。
明確性の原則との区別としては、明確性の原則は規制対象それ自体が不確定であるため、市民の側からして自分の表現が規制対象となるのかどうかがそもそも分からない場合、すなわち予測可能性がない場合を問題とするものです。これに対して、過度の広汎性ゆえに無効の法理は、規制対象それ自体は法令の規定により確定しており予測可能性はあるものの、本来許容されるべき表現まで規制対象に含まれている場合を問題とするものです。
広島市暴走族追放条例事件における明確性と合憲限定解釈
広島市暴走族追放条例は、公共の場所において当該場所の所有者又は管理者の承諾又は許可を得ないで公衆に不安又は恐怖を覚えさせるような集団又は集会を行うことを禁止し、この行為が市の管理する公共の場所において特異な服装をし、顔面の全部若しくは一部を覆い隠し、円陣を組み、又は旗を立てる等威勢を示すことにより行われたときは、市長が当該行為の中止又は退去を命ずることができると定めていました。そして、条例は暴走族を暴走行為をすることを目的として結成された集団のみならず、公共の場所において公衆に不安若しくは恐怖を覚えさせるような特異な服装若しくは集団名を表示した服装で、い集、集会若しくは示威行為を行う集団と定義しており、社会通念上の暴走族以外の集団も暴走族に含まれる文言となっていたため、過度に広汎な規制として憲法21条1項や31条に反するかが問題となりました。
最高裁は、本条例は暴走族の定義において社会通念上の暴走族以外の集団が含まれる文言となっていること、禁止行為の対象及び市長の中止退去命令の対象も社会通念上の暴走族以外の者の行為にも及ぶ文言となっていることなど、規定の仕方が適切ではなく、本条例がその文言どおりに適用されることになると規制の対象が広範囲に及び、憲法21条1項及び31条との関係で問題があるとしました。
しかし、本条例の全体から読み取ることができる趣旨等を総合すれば、本条例が規制の対象としている暴走族は、条例の定義にもかかわらず、暴走行為を目的として結成された集団である本来的な意味における暴走族の外には、服装や旗、言動などにおいてこのような暴走族に類似し社会通念上これと同視することができる集団に限られるものと解されるとしました。したがって、市長において条例による中止退去命令を発し得る対象も、本来的な意味における暴走族及びその類似集団による集会が条例所定の場所及び態様で行われている場合に限定されるとしました。
このように限定的に解釈すれば、公共の場所における暴走族による集会等が公衆の平穏を害してきたこと、規制に係る集会であってもこれを行うことを直ちに犯罪として処罰するのではなく市長による中止命令に違反した場合に初めて処罰すべきものとするという事後的かつ段階的規制によっていること等にかんがみると、その弊害を防止しようとする規制目的の正当性、弊害防止手段としての合理性、この規制により得られる利益と失われる利益との均衡の観点に照らし、いまだ憲法21条1項及び31条に違反するとまではいえないとしました。
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