先取特権の意義

303条は先取特権者はこの法律その他の法律の規定に従いその債務者の財産について他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有すると定めています。先取特権とは法律の定める特殊の債権を有する者が債務者の財産から優先弁済を受ける権利です。債権者平等の原則の例外として社会政策的考慮、公平の原則及び当事者の意思の推測等から特定の債権者を保護すべき場合に法律上当然に認められる法定担保物権です。

先取特権は付従性、随伴性、不可分性及び物上代位性を有します。ただし一般の先取特権は債務者の総財産の上に成立するものであるから物上代位性は問題となりません。先取特権は優先弁済的効力を有しますが留置的効力は有しません。

物上代位

304条1項は先取特権はその目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても行使することができると定めています。ただし先取特権者はその払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければなりません。同条2項は債務者が先取特権の目的物につき設定した物権の対価についても同様としています。

物上代位は目的物の売却等により生ずる請求権すなわち債権上に効力を及ぼすのでありその金銭の上に効力を及ぼすのではありません。滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭とは保険金や損害賠償請求権等を指します。

動産先取特権は不動産先取特権と異なり追及力を有しないためその代金に物上代位を認める実益が大きいです。

304条1項ただし書において差押えを要求している趣旨は物上代位の目的となる債権の特定性が保持されるとともに目的債権の弁済をした第三債務者又は目的債権を譲り受け若しくは目的債権につき転付命令を得た第三者等が不測の損害を被ることを防止することにあります。

一般先取特権については304条1項ただし書の適用はなく目的財産の払渡し又は引渡しの前に差押えをしなくても先取特権を行使することができます。一般先取特権は債務者の総財産に対して効力を及ぼすものであるため通常の先取特権のように物上代位の対象が一般財産に混入することによって生じる不都合が観念できず304条1項ただし書の趣旨が妥当しないためです。

物上代位に関する判例

債務者が破産手続の開始の決定を受けた場合でもその動産の転売代金債権につき物上代位権を行使できます。

物上代位権行使の目的たる債権について一般債権者が差押え又は仮差押えの執行をしたにすぎないときはその後に先取特権者が右債権に物上代位権を行使することができます。

物上代位権者が得た転付命令が第三債務者に送達される時までにその債権について他の債権者が差押え、仮差押えの執行又は配当要求をした場合でも転付命令はその効力を生じます。

304条1項ただし書は抵当権とは異なり公示方法が存在しない動産売買の先取特権については物上代位の目的債権の譲受人等の第三者の利益を保護する趣旨をも含みます。したがって動産売買の先取特権者は物上代位の目的債権が譲渡され第三者に対する対抗要件が備えられた後においては目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することはできません。

請負工事に用いられた動産の売主は原則として請負人が注文者に対して有する請負代金債権に対して動産売買の先取特権に基づく物上代位権を行使することはできません。ただし請負代金全体に占める当該動産の価額の割合や請負契約における請負人の債務の内容等に照らして請負代金債権の全部又は一部を右動産の転売による代金債権と同視するに足りる特段の事情がある場合には物上代位権を行使することができます。

先取特権の不可分性

305条は296条の留置権の不可分性の規定を先取特権について準用すると定めています。

一般の先取特権

306条は共益の費用、雇用関係、葬式の費用及び日用品の供給の4つの原因によって生じた債権を有する者は債務者の総財産について先取特権を有すると定めています。

共益費用の先取特権

307条1項は共益の費用の先取特権は各債権者の共同の利益のためにされた債務者の財産の保存、清算又は配当に関する費用について存在すると定めています。同条2項はその費用のうちすべての債権者に有益でなかったものについては先取特権はその費用によって利益を受けた債権者に対してのみ存在すると定めています。全債権者がかかる費用支出により弁済を得たのであるから他の債権者に優先して弁済を受けさせるべきという公平の原理に基づくものです。

雇用関係の先取特権

308条は雇用関係の先取特権は給料その他債務者と使用人との間の雇用関係に基づいて生じた債権について存在すると定めています。給料債権のほか退職金や年末手当等も含まれます。使用人すなわち労働者の生活を保護するという社会政策的配慮に基づくものです。使用人には同居の親族や家事使用人も含まれます。

葬式費用の先取特権

309条1項は葬式の費用の先取特権は債務者のためにされた葬式の費用のうち相当な額について存在すると定めています。同条2項はこの先取特権は債務者がその扶養すべき親族のためにした葬式の費用のうち相当な額についても存在すると定めています。資力の乏しい者が葬式をすることを容易にするという社会政策的配慮に基づくものです。

日用品供給の先取特権

310条は日用品の供給の先取特権は債務者又はその扶養すべき同居の親族及びその家事使用人の生活に必要な最後の6か月間の飲食料品、燃料及び電気の供給について存在すると定めています。債務者は自然人に限られます。日用品の供給者を保護することで間接的に資力の乏しい者の生活を保護するという社会政策的配慮に基づくものです。

動産の先取特権

311条は不動産の賃貸借、旅館の宿泊、旅客又は荷物の運搬、動産の保存、動産の売買、種苗又は肥料の供給、農業の労務及び工業の労務の8つの原因によって生じた債権を有する者は債務者の特定の動産について先取特権を有すると定めています。

不動産賃貸の先取特権

312条は不動産の賃貸の先取特権はその不動産の賃料その他の賃貸借関係から生じた賃借人の債務に関し賃借人の動産について存在すると定めています。賃貸人はこのような動産を賃料の担保として期待するのが通常でありかかる期待を保護する趣旨です。

313条1項は土地の賃貸人の先取特権はその土地又はその利用のための建物に備え付けられた動産、その土地の利用に供された動産及び賃借人が占有するその土地の果実について存在すると定めています。同条2項は建物の賃貸人の先取特権は賃借人がその建物に備え付けた動産について存在すると定めています。本条2項の動産には建物の常用に供するためのものだけでなく一定期間継続して備え付けておくために持ち込んだ賃借人の貴金属も含まれます。

314条は賃借権の譲渡又は転貸の場合には賃貸人の先取特権は譲受人又は転借人の動産にも及ぶと定めています。譲渡人又は転貸人が受けるべき金銭についても同様です。

315条は賃借人の財産のすべてを清算する場合には賃貸人の先取特権は前期、当期及び次期の賃料その他の債務並びに前期及び当期に生じた損害の賠償債務についてのみ存在すると定めています。

316条は賃貸人は敷金を受け取っている場合にはその敷金で弁済を受けない債権の部分についてのみ先取特権を有すると定めています。

旅館宿泊の先取特権

317条は旅館の宿泊の先取特権は宿泊客が負担すべき宿泊料及び飲食料に関しその旅館に在るその宿泊客の手荷物について存在すると定めています。宿泊客が持ち込んだ手荷物に対する旅館主の期待を保護する趣旨です。

運輸の先取特権

318条は運輸の先取特権は旅客又は荷物の運送賃及び付随の費用に関し運送人の占有する荷物について存在すると定めています。運送人の期待を保護する趣旨です。

即時取得の規定の準用

319条は即時取得に関する192条から195条までの規定を不動産賃貸、旅館宿泊及び運輸の先取特権について準用すると定めています。

動産保存の先取特権

320条は動産の保存の先取特権は動産の保存のために要した費用又は動産に関する権利の保存、承認若しくは実行のために要した費用に関しその動産について存在すると定めています。公平の観念に基づくものです。

動産売買の先取特権

321条は動産の売買の先取特権は動産の代価及びその利息に関しその動産について存在すると定めています。公平の観念に基づくものです。

種苗又は肥料の供給の先取特権

322条は種苗又は肥料の供給の先取特権は種苗又は肥料の代価及びその利息に関しその種苗又は肥料を用いた後1年以内にこれを用いた土地から生じた果実について存在すると定めています。蚕種又は蚕の飼養に供した桑葉の使用によって生じた物も含まれます。

農業労務及び工業労務の先取特権

323条は農業の労務の先取特権はその労務に従事する者の最後の1年間の賃金に関しその労務によって生じた果実について存在すると定めています。

324条は工業の労務の先取特権はその労務に従事する者の最後の3か月間の賃金に関しその労務によって生じた製作物について存在すると定めています。

いずれも公平の観念及び社会政策的配慮に基づくものです。

不動産の先取特権

325条は不動産の保存、不動産の工事及び不動産の売買の3つの原因によって生じた債権を有する者は債務者の特定の不動産について先取特権を有すると定めています。

不動産保存の先取特権

326条は不動産の保存の先取特権は不動産の保存のために要した費用又は不動産に関する権利の保存、承認若しくは実行のために要した費用に関しその不動産について存在すると定めています。

不動産工事の先取特権

327条1項は不動産の工事の先取特権は工事の設計、施工又は監理をする者が債務者の不動産に関してした工事の費用に関しその不動産について存在すると定めています。同条2項はこの先取特権は工事によって生じた不動産の価格の増加が現存する場合に限りその増価額についてのみ存在すると定めています。

不動産売買の先取特権

328条は不動産の売買の先取特権は不動産の代価及びその利息に関しその不動産について存在すると定めています。

先取特権の順位の概要

先取特権が競合した場合には物権の一般原則からいえば先に成立したものが後から成立したものに優先すべきことになります。しかし先取特権はそれぞれ特殊な理由に基づいて一定の債権を保護するために認められるものであるからその優劣も成立の時の前後に拘泥しないで各種債権の保護の必要性の強弱に応じて定めることが制度の趣旨に適います。

一般の先取特権の順位

329条1項は一般の先取特権が互いに競合する場合にはその優先権の順位は306条各号に掲げる順序に従うと定めています。すなわち共益費用、雇用関係、葬式費用、日用品供給の順です。

329条2項は一般の先取特権と特別の先取特権とが競合する場合には特別の先取特権は一般の先取特権に優先すると定めています。ただし共益の費用の先取特権はその利益を受けたすべての債権者に対して優先する効力を有します。このすべての債権者には特別の先取特権者も含まれます。

動産の先取特権の順位

330条1項は同一の動産について特別の先取特権が互いに競合する場合にはその優先権の順位は次の順序に従うと定めています。第1順位は不動産の賃貸、旅館の宿泊及び運輸の先取特権です。第2順位は動産の保存の先取特権です。第3順位は動産の売買、種苗又は肥料の供給、農業の労務及び工業の労務の先取特権です。動産の保存の先取特権について数人の保存者があるときは後の保存者が前の保存者に優先します。前の保存者は後の保存者の保存行為で利益を受けるためです。

330条2項は第1順位の先取特権者はその債権取得の時において第2順位又は第3順位の先取特権者があることを知っていたときはこれらの者に対して優先権を行使することができないと定めています。第1順位の先取特権者のために物を保存した者に対しても同様です。

330条3項は果実に関しては第1の順位は農業の労務に従事する者に第2の順位は種苗又は肥料の供給者に第3の順位は土地の賃貸人に属すると定めています。

不動産の先取特権の順位

331条1項は同一の不動産について特別の先取特権が互いに競合する場合にはその優先権の順位は325条各号に掲げる順序に従うと定めています。すなわち不動産保存、不動産工事、不動産売買の順です。

331条2項は同一の不動産について売買が順次された場合には売主相互間における不動産売買の先取特権の優先権の順位は売買の前後によると定めています。

同一順位の先取特権

332条は同一の目的物について同一順位の先取特権者が数人あるときは各先取特権者はその債権額の割合に応じて弁済を受けると定めています。

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