因果関係論の意義

因果関係論とは刑法上行為と結果の帰属関係の存否を議論することをいいます。行為と結果との間の必然関係を問題とすることで刑罰に値する行為の存否を検討する客観的帰属の問題です。

条件説

条件説とは条件関係があれば刑法上の因果関係を認める見解をいいます。判例は基本的に条件説を採用しているとされてきました。被害者に重篤な心臓疾患があった場合でもその疾患と相まって死亡したときには殴打行為と死亡の結果との間の因果関係を肯定することができるとされています。もっとも条件関係は無限に近く広がっていってしまう可能性があるため犯罪の成立範囲を限定する必要があるとの批判があります。

相当因果関係説

相当因果関係説とは一般人の社会生活上の経験に照らして通常その行為からその結果が発生することが相当と認められる場合に刑法上の因果関係を認める見解をいいます。相当因果関係の判断は行為時を基準になされますが基礎とする判断資料につき争いがあります。

主観説は行為者の認識し又は予見した事情及び行為者の認識し又は予見し得た事情を判断基底とする見解です。行為と結果との客観的なつながりを問題にする因果関係において行為者の認識といった主観的基準により判断するのは妥当でないこと及び行為者が認識し予見し得なかった事情については一般人が認識し予見し得た場合でも判断の基礎とすることができない点で狭きに失することが批判されています。

折衷説は行為者の認識し又は予見した事情及び一般人の認識し又は予見し得た事情を判断基底とする見解です。主観説と同様の批判に加えて折衷説は行為時の事情を基礎とするから行為後の偶然的な因果経過を除くのに適しないこと及び行為者の主観を考慮すると共犯に典型的にあらわれるように1個の犯罪現象でありながら各関与者がその事実を認識していたか否かによって因果関係があったりなかったりするという不都合が生ずることが批判されています。

客観説は行為時に存在した全事情及び一般人が予見可能な行為後の事情を判断基底とする見解です。社会通念上偶然的結果というべきものについても広く因果関係を認めることになり相当因果関係説の趣旨に反すること及び行為当時の事実と行為後の事実とを区別する理論的根拠を欠くことが批判されています。

もっとも行為後に特殊な事情が介在する場合など現に生じた異常な因果経過の事後的な評価は行為時に立って結果発生が経験上通常かを判断する相当因果関係説では説明しきれないとされており相当因果関係説の危機とも呼ばれています。

危険の現実化説

危険の現実化説とは条件関係があることを前提として行為の危険が結果へと現実化したときに刑法上の因果関係を認める見解をいいます。判例はこの立場に立っているものとされています。

危険の現実化説には2つの特徴があります。第一に行為時の事情も行為後の介在事情も全て因果関係を判断する基礎事情となるため判断基底を限定しません。第二に行為のもつ危険が結果に現実化したか否かが因果関係の判断基準となりこれにより介在事情の結果への寄与度を考慮した因果関係の判断が可能となります。

危険の現実化説による判断方法

危険の現実化説は実行行為の危険性の大小及び介在事情の結果への寄与度を組み合わせて因果関係の有無を判断します。

介在事情が存在しない類型では因果関係を肯定します。実行行為と行為時の特殊事情が相まって結果が発生した場合でも肯定されます。

介在事情の寄与度が小さい類型では因果関係を肯定します。介在事情は危険の現実化を妨げる事情にならないためです。

介在事情の寄与度が大きい類型では原則として因果関係を否定します。もっとも例外として介在事情を経由して結果を発生させる危険が実行行為の中に含まれておりその行為の危険が結果へと現実化したといえること及び介在事情の異常性がないことの両方が認められる場合には因果関係を肯定します。

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