違法性阻却事由の錯誤の意義

違法性阻却事由の錯誤とは違法性阻却事由に当たる事実すなわち違法性阻却事由の前提事実がないのにあると誤信した場合をいいます。

違法性阻却事由の錯誤の位置づけ

正当防衛のような違法性阻却事由に当たる事実が客観的には存在しないのに存在すると誤信することが何についての錯誤なのかが問題となります。

違法性の錯誤説は故意の対象を構成要件該当事実に限定し違法性阻却事由の錯誤は違法性の錯誤であるとする見解です。この見解は故意の認識及び認容の対象ではない違法性阻却事由について錯誤があっても原則として故意を阻却しないが違法性の意識の可能性を欠く場合には例外的に責任が阻却されるとします。

事実の錯誤説は故意とは犯罪事実の認識及び認容をいい犯罪事実には構成要件該当事実と違法性阻却事由の不存在という事実があるので違法性阻却事由に当たる事実の存在を誤信している場合には犯罪事実の認識及び認容があるとはいえず故意を阻却すると考える見解です。この見解によれば責任故意を欠くためおよそ故意犯は成立せず別途過失犯の成否が問題となるにすぎません。

なお責任説は違法性阻却事由の錯誤について違法性の錯誤であり責任故意を阻却しないとする厳格責任説と事実の錯誤であり責任故意を阻却するとする制限責任説に分かれますが制限責任説の立場が通説的地位を占めています。

誤想防衛の意義

誤想防衛とは正当防衛を基礎づける事実が存在しないのにその事実が存在すると誤信して防衛行為を行った場合をいいます。誤想防衛では違法性は阻却されませんが違法性阻却事由に当たる事実があると誤信している以上責任故意を欠き故意犯は不成立となり別途過失犯の成否が問題となります。

誤想防衛には急迫不正の侵害が存在しないのに存在すると誤信した場合である狭義の誤想防衛と急迫不正の侵害が現実に存在し行為者が防衛行為を行ったところ客観的には防衛の程度を超えていたが主観的にはその過剰性を基礎づける事実の認識すなわち過剰性の認識がなかった場合の2つがあります。

なお後者の場合において行為者に過剰性の認識がある場合にはそれは単なる過剰防衛となります。判例は老父による棒状の物での攻撃に対して客観的に斧を用いて反撃し老父を死亡させた事案において行為者は主観的には斧ほどの重みのある棒で反撃したという認識であったとしても過剰性の認識があるとし過剰防衛が成立するとしています。

誤想過剰防衛の意義

誤想過剰防衛とは急迫不正の侵害が存在しないのに存在すると誤信し防衛行為を行ったがたとえ急迫不正の侵害が存在していたとしても防衛の程度を超えていた場合をいいます。

誤想過剰防衛は行為者に過剰性の認識がない場合と行為者に過剰性の認識がある場合に分けられます。

誤想過剰防衛における故意犯の成否

故意犯の成否については通常の誤想防衛と同じく違法性阻却事由の錯誤は事実の錯誤であると解する制限責任説を前提として過剰性の認識がない場合とある場合とで異なる処理を行うという二分説が通説です。

行為者に過剰性の認識がない場合にはその認識の内容を基準にすれば正当防衛が成立する以上行為者に責任非難を加えることができません。したがって行為者の責任故意が阻却される結果故意犯は成立せず過失犯の成否が問題となります。

行為者に過剰性の認識がある場合にはその認識の内容を基準としても正当防衛は成立しないので行為者に責任非難を加えることができます。したがって行為者の責任故意は阻却されず故意犯が成立します。

誤想過剰防衛における36条2項の適用の可否

上記のいずれの場合においても36条2項の適用ないし準用による刑の任意的減免の可否が問題となります。

まず前提として急迫不正の侵害がない以上36条2項を直接適用することはできません。もっとも過剰防衛における刑の任意的減免の根拠について違法及び責任減少説の立場に立つ場合客観的には急迫不正の侵害が存在しないために違法性は減少しないが主観的には急迫不正の侵害が存在すると認識している以上責任減少が認められます。したがって誤想過剰防衛においても36条2項の準用を認めるべきであると解されています。

判例は空手三段の行為者が女性が男性から暴行を受けているものと誤信し助けようとしたところ男性の挙動を自分に殴り掛かってくるものと誤信してとっさに回し蹴りを当てた結果死亡させた事案について回し蹴り行為は誤信した急迫不正の侵害に対する防衛手段として相当性を逸脱していることが明らかであるとし誤想過剰防衛に当たるとして36条2項により刑を減軽しています。

誤想防衛と36条2項の問題の区別

誤想防衛の問題は責任故意を阻却するかしないかという罪名の問題であるのに対し36条2項の適用又は準用の可否の問題は刑の任意的減免を認めてもよいかという科刑の問題であり別次元の問題であるのでそれぞれ別個に論じられるべきであるとされています。

急迫不正の侵害が現に存在しこれに対して客観的には不相当な防衛行為を行った場合には36条2項が直接適用されます。一方急迫不正の侵害が存在しない場合には違法減少は認められないがその侵害が存在すると誤信しているので責任減少が認められ36条2項が準用されます。

誤想自救行為及び誤想過剰自救行為

誤想自救行為とは誤解によって自救行為と認識していた場合をいいます。その行為が過剰性を有する場合は誤想過剰自救行為となります。これも違法性阻却事由の錯誤の問題であるから誤想防衛及び誤想過剰防衛と同様に考えられます。もっとも自救行為は正当防衛より成立要件が厳しいので認定には慎重を期す必要があります。

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