銀行取引と詐欺罪の成否
銀行取引に関連して詐欺罪の成否が問題となる場面がいくつかあります。
誤振込みと詐欺罪
誤振込みの場合であっても振込みの原因となる法律関係が存在するか否かにかかわらず受取人と銀行との間に預金債権が成立し受取人は銀行に対して預金債権を取得するとされています。そうすると誤振込みの事実に気付きながら金銭を払い戻したとしても受取人は正当な預金債権を有する以上詐欺罪は成立しないとも思えます。
しかし判例は銀行にとって払戻請求を受けた預金が誤った振込みによるものか否かはその支払に応ずるか否かを決する上で重要な事項であるとしています。そして受取人においても銀行との間で普通預金取引契約に基づき継続的な預金取引を行っている者として自己の口座に誤った振込みがあることを知った場合には誤った振込みがあった旨を銀行に告知すべき信義則上の義務があるとしています。
したがって誤った振込みがあることを知った受取人がその情を秘して預金の払戻しを請求することは詐欺罪の欺罔行為にあたり錯誤に陥った銀行窓口係員から受取人が預金の払戻しを受けた場合には詐欺罪が成立するとされています。
犯罪行為による振込金の払戻し
自己が代表を務める会社名義の口座に詐欺等の犯罪行為によって現金が振り込まれているのに乗じてその現金を窓口から払い戻す行為についても詐欺罪の成否が問題となります。裁判例は預金契約者は自己の口座が詐欺等の犯罪行為に利用されていることを知った場合には銀行に口座凍結等の措置を講じる機会を与えるためその旨を銀行に告知すべき信義則上の義務がありそのような事実を秘して預金の払戻しを受ける権限はないとしています。したがって払戻しを受ける権限があるように装って預金の払戻しを請求することは人を欺く行為にあたり詐欺罪が成立するとされています。
なおキャッシュカードを用いてATMから当該振込金を引き出した行為については預金の管理者ひいては現金自動預払機の管理者の意思に反するとして窃盗罪の成立が認められています。
振り込め詐欺
自己の管理する銀行口座に金員を振り込ませれば犯人はその金額の預金を自由に払い戻せるから犯人と被害者との間で現実に現金の授受があったのと同視しうるとして入金の時点で1項詐欺罪の既遂となるとされています。行為者が開設した架空人名義の口座に金員を振り込ませた場合も同様です。
いわゆる出し子すなわち詐欺等の被害金の引き出しを担当する者の刑事責任も問題となります。振り込め詐欺自体は被害者が口座に入金した時点で既遂に達している以上被害者に対する詐欺罪の刑事責任が出し子に帰責されることはないと解されています。一方で出し子がATMから現金を引き出す行為については銀行に対する窃盗罪が成立するとされています。これは犯罪による収益の移転防止に関する法律により他人名義の銀行口座を利用することは許されていないので出し子には引出権限がないこと及び被害者が入金した金員は詐欺によって得られた預金債権であるので銀行が本当のことを知っていれば払戻しには応じないはずであるから現金を引き出す行為は銀行の意思に反する占有の移転といえることがその理由です。なお出し子が銀行の窓口で現金を引き出した場合には銀行に対する詐欺罪が成立するとされています。
電子計算機使用詐欺罪
246条の2は前条に規定するもののほか人の事務処理に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与えて財産権の得喪若しくは変更に係る不実の電磁的記録を作り又は財産権の得喪若しくは変更に係る虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供して財産上不法の利益を得又は他人にこれを得させた者は10年以下の拘禁刑に処すると定めています。
本罪は人を欺くものでない点で詐欺罪と異なります。
人の事務処理に使用する電子計算機
人の事務処理に使用する電子計算機とは他人がその事務を処理するために使用する電子計算機をいいます。事務はその種類を問いません。
虚偽の情報と不正な指令
虚偽の情報を与えるとは電子計算機を使用する当該事務処理システムにおいて予定されている事務処理の目的に照らしその内容が真実に反する情報を入力することをいいます。例えば金融機関が業務用に使用している電子計算機に対して入金がないにもかかわらず入金したとのデータを入力する行為がこれにあたります。また窃取したクレジットカードの情報をインターネットを介してクレジットカード決済代行業者が事務処理に使用する電子計算機に送信し名義人本人がこれを購入したとする財産権の得喪にかかわる不実の電磁的記録を作り財産上不法の利益を得る行為もこれにあたります。
不正な指令とは与えられるべきでない指令をいいます。例えばプログラムを改変することにより自己の口座への不実の振替入金を実現する場合や外国の電話交換システムに対して不正の信号を送って課金できないようにする行為がこれにあたります。
キセル乗車と電子計算機使用詐欺罪
乗車区間の一部についてのみ乗車券を購入して自動改札機に投入して入場し別の乗車券を自動改札機又は自動精算機に投入して出場する行為について電子計算機使用詐欺罪の成立を認めた裁判例があります。
誤振込金のインターネットバンキングによる送金
誤振込みがあったことを認識していたにもかかわらず銀行に対し何も申し出ることなくインターネットバンキングを利用してそのほぼ全額を送金した事案について裁判例は電子計算機使用詐欺罪の成立を認めています。
裁判例は金融機関が既に誤振込みの事実を認識していた場合でも銀行実務に沿った事務処理を円滑に遂行する必要から受取人はなお信義則上の告知義務を負うとしています。そしてインターネットバンキング上の電子計算機は利用者が銀行職員等と対面することなく即時に支払委託や振込依頼を行う手続を支えるものであってそのような手続を安全円滑に機能させるためにはその利用者は権利行使にあたり何らかの制限を有していない者であることが当然の前提として求められているとしています。したがって受取人が電子計算機に振込依頼等をする情報を入力した以上権利行使に何ら制限のない権利者として権利を行使する旨の情報を入力したことになるが本件送金行為等が正当な権利行使ではないにもかかわらず正当な権利行使であるという情報を与える入力操作をしたことから虚偽の情報を与えたといえるとされています。
財産権の得喪変更に係る電磁的記録
財産権の得喪若しくは変更に係る電磁的記録とは財産権の得喪変更があったという事実又は財産権の得喪変更を生じさせるべき事実を記録した電磁的記録であって取引の場面においてそれが作出されることによってその財産権の得喪変更が行われるものをいいます。例えばオンラインシステムにおける銀行の元帳ファイルの預金残高の記録やプリペイドカードにおける残度数の記録がこれにあたります。
一方で財産権の得喪変更を公証する目的で記録するにすぎないものや一定の事項を証明するための記録はこれにあたりません。例えば不動産登記ファイルやクレジット会社の信用情報ファイルやキャッシュカードはこれにあたりません。
虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供すること
虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供するとは行為者がその所持する内容虚偽の電磁的記録を他人の事務処理用の電子計算機に差し入れて使用させることをいいます。例えば不正に作出したプリペイドカードを電話機に差し込んで電話をかける行為がこれにあたります。
財産上不法の利益を得ること
本罪は財産上不法の利益を得又は他人にこれを得させた場合に成立し財物を客体とするものでない点で窃盗罪と異なります。例えば不実の電磁的記録を使用して銀行の預金元帳ファイルに一定額の自己の預金があるように作出しその預金の引き出し又は他への振替移転をなしうる地位を取得することや虚偽のプリペイドカードを用いることによって電話を接続して通話させるなどの一定の役務の提供を受けることがこれにあたります。
電子計算機使用詐欺罪と他罪との関係
本罪は財産上不法の利益を得又は他人にこれを得させた者を処罰するものであることから2項詐欺罪の補充類型です。そして前条に規定するもののほかとの文言から2項詐欺罪が成立する場合には本罪は成立しないと解されています。
準詐欺罪
248条は未成年者の知慮浅薄又は人の心神耗弱に乗じてその財物を交付させ又は財産上不法の利益を得若しくは他人にこれを得させた者は10年以下の拘禁刑に処すると定めています。準詐欺罪は欺罔行為によらず相手方の判断能力の不十分さに乗じて財物又は財産上の利益を取得する行為を処罰するものです。
アプリの紹介
過去問を一文一問形式で解けるアプリを開発しました。
