旧優生保護法違憲判決の事案
Xらは旧優生保護法上の規定に基づいて不妊手術すなわち生殖を不能にする手術を受けたと主張する者です。Xらは国に対し、同規定は憲法13条および14条1項等に違反しており同規定に係る国会議員の立法行為は違法であって不妊手術が行われたことにより精神的かつ肉体的苦痛を被ったなどと主張して国家賠償請求訴訟を提起しました。
同規定は、第一に特定の障害等を有する者、第二に配偶者が特定の障害等を有する者、および第三に本人又は配偶者の4親等以内の血族関係にある者が特定の障害等を有する者を不妊手術の対象者と定めていました。また、旧優生保護法の一部の規定は本人の同意を不妊手術実施の要件としていましたが、特に本人の同意がその自由な意思に基づくものであることを担保する規定は置かれていませんでした。なお、現在ではこれらの規定はいずれも削除されています。
憲法13条違反
最高裁判所は、憲法13条は人格的生存に関わる重要な権利として自己の意思に反して身体への侵襲を受けない自由を保障しているとしたうえで、不妊手術は生殖能力の喪失という重大な結果をもたらす身体への侵襲であるから、不妊手術を受けることを強制することは上記自由に対する重大な制約に当たるとしました。したがって、正当な理由に基づかずに不妊手術を受けることを強制することは憲法13条に反し許されないとしました。
同規定の立法目的は、専ら優生上の見地すなわち不良な遺伝形質を淘汰し優良な遺伝形質を保存することによって集団としての国民全体の遺伝的素質を向上させるという見地から、特定の障害等を有する者が不良であるという評価を前提にその者又はその者と一定の親族関係を有する者に不妊手術を受けさせることによって同じ疾病や障害を有する子孫が出生することを防止することにあると解されるとしました。しかしながら、憲法13条は個人の尊厳と人格の尊重を宣言しているところ、同規定の立法目的は特定の障害等を有する者が不良でありそのような者の出生を防止する必要があるとする点において立法当時の社会状況をいかに勘案したとしても正当とはいえないものであることが明らかであり、同規定はそのような立法目的のもとで特定の個人に対して生殖能力の喪失という重大な犠牲を求める点において個人の尊厳と人格の尊重の精神に著しく反するものであるとしました。
同意の問題
同規定の一部は本人の同意を不妊手術実施の要件としていました。しかし、最高裁判所は、同規定は専ら優生上の見地から特定の個人に重大な犠牲を払わせようとするものであり、そのような規定により行われる不妊手術について本人に同意を求めるということ自体が個人の尊厳と人格の尊重の精神に反し許されないのであって、これに応じてされた同意があることをもって当該不妊手術が強制にわたらないということはできないとしました。
加えて、優生上の見地から行われる不妊手術を本人が自ら希望することは通常考えられないが周囲からの圧力等によって本人がその真意に反して不妊手術に同意せざるを得ない事態も容易に想定されるところ、旧優生保護法には本人の同意がその自由な意思に基づくものであることを担保する規定が置かれていなかったことにも鑑みれば、本人の同意を得て行われる不妊手術についてもこれを受けさせることはその実質において不妊手術を受けることを強制するものであることに変わりはないとしました。
憲法14条1項違反
最高裁判所は、憲法14条1項は法の下の平等を定めており、この規定が事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものでない限り法的な差別的取扱いを禁止する趣旨のものであるとしました。そして、同規定により不妊手術を行うことに正当な理由があるとは認められないから、上記の者を同規定により行われる不妊手術の対象者と定めてそれ以外の者と区別することは合理的な根拠に基づかない差別的取扱いに当たるとしました。
結論と国家賠償法上の違法性
以上により同規定は憲法13条及び14条1項に違反するものであったとしました。そして、同規定の内容は国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白であったというべきであるから、同規定に係る国会議員の立法行為は国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けると解するのが相当であると判示しました。
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