注意義務の存否と内容
過失犯の注意義務は法令、契約、慣習及び条理等の様々な根拠から生じます。
判例は自動車運転者が同乗者の降車に際してフェンダーミラーを通じて左後方の安全を確認したうえ開扉を指示するなど適切な措置を採るべき注意義務を負うにもかかわらずその義務を怠って同乗者が不用意に扉を開けたために後方から進行してきた原付が衝突し原付運転者が負傷した場合に自動車運転者に業務上過失致傷罪が成立するとしています。
また判例は現地警備本部指揮官及び警備員の統括責任者について歩道橋内への流入規制等を実現して雑踏事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があったとしてその結果回避義務を認めています。
行政取締法規の注意義務を尽くしたからといって直ちに過失犯の成立が否定されるものでもなくなお結果回避の措置を講ずべき余地がなかったか否かが検討されなければなりません。判例は単に列車の運転取扱に関する特別の規定を守るだけでその義務を常につくしたものということはできずいやしくも列車の運転に関して危険の発生を防止するに可能なかぎり一切の注意義務をつくさなければならないとしています。
予見可能性
過失犯の成立には注意義務違反が要件となりますがその注意義務を基礎付けるものとして予見可能性が必要となります。予見可能性については予見可能性の程度、予見可能性の対象及び予見可能性の基準という3つの問題があります。
予見可能性の程度
具体的予見可能性説は特定の構成要件的結果及びその結果の発生に至る因果関係の基本的部分を予見できたことが必要であるとする見解であり裁判例及び通説の立場です。予見可能性は結果回避義務を生じさせるものであるから一般人が犯罪結果の発生を回避できる程度に結果を予見できることが必要であるとされています。具体的予見可能性説に対しては具体的予見可能性を要求すると企業や監督過失の多くの場合に過失責任を問えなくなってしまうこと及び実際の処理に際しては危惧感説と同様に広く予見可能性を認めており結局文言上具体的といっているにすぎないことが批判されています。
危惧感説はおよそ何らかの結果が発生するかもしれないという危惧感があれば足りるとする見解です。科学実験や工事等で新しい試みをする場合に重大な結果が発生してもそれにつき経験の蓄積がない以上具体的予見は不可能であるがそれを不可罰とすれば不合理であることをその根拠としています。危惧感説に対しては予見可能性をあまりにも抽象化してしまうため刑事過失の成立範囲を無限定にし不当に拡大するおそれがあること及び曖昧な危惧感をもっていれば十分であるとするならば結果責任を認めることになり妥当でないことが批判されています。
予見可能性の対象
予見可能性の対象については裁判例は特定の構成要件の結果及びその結果の発生に至る因果関係の基本的部分であるとしています。もっとも結果発生の日時及び場所などを全て具体的に予見するのは不可能であるのである程度抽象化する必要があります。そこで結果の予見可能性及び因果関係の予見可能性に関してどの程度抽象化してよいのかが問題となります。
結果の予見可能性に関して判例は具体的な客体に結果が発生することまでは予見できなくてもおよそ人に結果が発生することの予見可能性があれば足りるとしています。故意犯の成否を問う錯誤論においては法定的符合説が判例及び通説の立場であるところ過失犯の成否を問う場合も法定的符合説とパラレルに考えると現実に発生した特定の個人の死亡の予見可能性までは必要ではなくおよそ人の死亡が生じることへの予見可能性で足りることになります。
因果関係の予見可能性に関して裁判例は結果の発生に至る因果関係の基本的部分の予見可能性が必要であるとしており現実に発生した因果経過の全てについて予見可能であったことまでは必要としていません。
予見可能性の基準
裁判例は予見可能性の有無は当該行為者の置かれた具体的状況にこれと同様の地位及び状況に置かれた通常人をあてはめてみて判断すべきものであるとしています。
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