不燃性建造物と焼損

近年不燃性や耐火性の建造物が普及するに至りこれらの目的物を放火の客体とする場合にはその物の効用喪失の時点はもとより独立燃焼の時点よりも前に公共の危険が現実に発生する事例が考えられるようになりました。すなわちこれらの建造物の場合は素材自体は独立燃焼することなくまた建物の重要部分の効用が失われることなく有毒なガスや煙を発生させ建造物内の人々が生命及び身体への危険にさらされる事態が生じています。

新効用喪失説は放火により建造物本体が独立に燃焼することがなかったとしても媒介物の火力によって建造物が効用を失うに至った場合には既遂を認めます。放火罪が公共危険罪とされるのは火力により建造物を損壊し公共の危険を生じさせるということによるものであるから焼損とは必ずしも目的物自体の燃焼を意味するものではないことがその理由です。

毀棄説を修正する見解は火力による目的物の損壊により燃焼するのと同様の公共の危険を生じさせる可能性があるときは焼損とします。放火罪の保護法益の観点に照らし火力による目的物の損壊により有毒ガスの発生などの燃焼するのと同様の公共の危険を生じさせる可能性があるときは焼損と解すべきであることがその理由です。

従来の説を維持する見解はあくまで放火客体の燃焼を必要とします。いかに有毒ガスが生じても放火客体の燃焼から発生したものでなければ放火罪の予定する危険ではありえないことがその理由です。

鉄骨鉄筋コンクリート造のマンション内に設置されたエレベーターのかごに燃え移るかもしれないと認識しながら引火物に火をつけてエレベーター内に投げつけエレベーターのかごの側壁に燃え移らせその化粧鋼板表面の化粧シートの一部を焼失させた事案について判例は現住建造物等放火罪が成立するとしています。

非現住建造物等放火罪

109条1項は放火して現に人が住居に使用せずかつ現に人がいない建造物、艦船又は鉱坑を焼損した者は2年以上の有期拘禁刑に処すると定めています。他人所有の非現住建造物等放火罪は抽象的危険犯です。

109条2項は1項の物が自己の所有に係るときは6月以上7年以下の拘禁刑に処すると定めています。ただし公共の危険を生じなかったときは罰しません。自己所有の非現住建造物等放火罪は具体的危険犯です。

非現住建造物等放火罪の客体

人とは犯人以外の者をいいます。したがって犯人が単独で居住し又は現住する建造物や犯人が居住者を殺害した後に誰もいなくなった家屋は非現住建造物にあたります。

自己所有であっても一定の場合には他人の物と同様に取り扱われます。また他人所有であっても所有者の承諾があれば自己所有と同様に扱われます。

被害者の承諾が放火罪に及ぼす影響

現住建造物等放火罪の客体について居住者の承諾があった場合には他人所有の非現住建造物等放火罪が成立します。所有者の承諾があった場合には現住建造物等放火罪が成立します。居住者と所有者の双方の承諾があった場合には自己所有の非現住建造物等放火罪が成立します。他人所有の非現住建造物等放火罪の客体について所有者の承諾があった場合には自己所有の非現住建造物等放火罪が成立します。他人所有の建造物等以外放火罪の客体について所有者の承諾があった場合には自己所有の建造物等以外放火罪が成立します。

非現住建造物等放火罪の故意

非現住建造物を現住建造物と誤信して放火し焼損した場合には38条2項の趣旨に鑑み軽い非現住建造物等放火罪が成立します。

公共の危険の意義

109条2項及び110条の公共の危険の意義については限定説と非限定説が対立しています。

限定説は公共の危険を108条及び109条1項に規定する建造物等に対する延焼の危険と解します。放火罪の処罰根拠は建造物等への延焼によって火災が燃え広がることにより不特定又は多数人の生命、身体及び財産に被害が及ぶ点にあること及び延焼罪は109条2項及び110条2項の結果的加重犯として108条及び109条1項の客体への延焼を処罰しているがこれは基本犯たる109条2項及び110条2項の行為に周囲の建造物等に対する延焼の危険があるからにほかならないことがその理由です。

非限定説は公共の危険を不特定又は多数の人の生命、身体又は建造物等以外の財産に対する危険と解します。放火罪の処罰根拠は不特定又は多数人の生命、身体及び財産に対する危険にありそのような危険は建造物等への延焼を介さず直接発生する場合もあること及び結果的加重犯の中には基本犯に加重結果を発生させる危険性がないものも存在するので延焼罪の存在は限定説の根拠とはならないことがその理由です。

判例は110条1項にいう公共の危険は必ずしも108条及び109条1項に規定する建造物等に対する延焼の危険のみに限られるものではなく不特定又は多数の人の生命、身体又は建造物等以外の財産に対する危険も含まれるとしており非限定説を採用したものと考えられています。この理解は109条2項の公共の危険についても妥当します。

公共の危険の認識の要否

公共の危険が発生することはないと思いつつ自己所有の物を焼損しもって公共の危険を発生せしめた場合に放火罪が成立するかについて故意の内容として公共の危険発生の認識が必要であるかが問題となります。

認識不要説は公共の危険の発生は客観的処罰条件にすぎないから行為者にその認識は必要ないとし公共の危険発生の認識がなくても放火罪が成立するとします。110条1項にいうよって公共の危険を生じさせたは結果的加重犯の規定であり重い結果たる公共の危険発生の認識は不要であることがその理由です。判例はこの立場を採用しています。これに対してはよってという文字が用いられているからといって直ちに結果的責任を示す趣旨とはいいがたくむしろ結果的責任は近代刑法における責任主義と相容れないものとして解釈論上極力排斥すべきであること及び110条2項の罪は自己物の焼損だけでは犯罪が成立しないので基本犯が存在しないことになるから結果的加重犯と解することはできないことが批判されています。

認識必要説は公共の危険の発生は構成要件要素であるから行為者にその認識が必要であるとし公共の危険発生の認識がなければ放火罪は成立しないとします。109条2項や110条の行為を公共危険罪たらしめる契機は当該行為によって公共の危険を生じせしめた点にあるから故意の内容としてその認識が必要なのは責任主義の原則から当然であることがその理由です。これに対しては公共の危険発生の認識が必要であるとすると認識の内容は延焼する可能性の認識と同じことになるから延焼の客体についての放火の未必の故意と同じになるとの批判がありますがこれに対する再反論として公共の危険の発生の認容と延焼の認容とは質の違った心理状態であるから両者は必ずしも一致するものではなく公共の危険の発生を認容したが延焼を認容しなかったという心理状態もありうるとされています。

建造物等以外放火罪

110条1項は放火して現住建造物等及び非現住建造物等以外の物を焼損しよって公共の危険を生じさせた者は1年以上10年以下の拘禁刑に処すると定めています。同条2項は前項の物が自己の所有に係るときは1年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金に処すると定めています。いずれも具体的危険犯です。

自己所有であっても一定の場合には他人の物と同様に取り扱われます。無主物は自己所有物に準じると解されています。

延焼罪

111条1項は自己所有の非現住建造物等放火罪又は自己所有の建造物等以外放火罪を犯しよって現住建造物等又は他人所有の非現住建造物等に延焼させたときは3月以上10年以下の拘禁刑に処すると定めています。同条2項は自己所有の建造物等以外放火罪を犯しよって他人所有の建造物等以外の物に延焼させたときは3年以下の拘禁刑に処すると定めています。

延焼とは犯人の予期しなかった客体に焼損の結果を生じさせることをいいます。本罪は自己所有物件に対する放火罪の結果的加重犯であるため延焼の結果について表象及び認容がないことを必要とします。

延焼罪の客体である109条1項及び110条1項所定の物件には115条により他人所有物として扱われる自己所有物も含まれるとするのが多数説です。

未遂罪及び予備罪

112条は現住建造物等放火罪及び他人所有の非現住建造物等放火罪の未遂は罰すると定めています。113条は現住建造物等放火罪又は他人所有の非現住建造物等放火罪を犯す目的でその予備をした者は2年以下の拘禁刑に処すると定めています。ただし情状によりその刑を免除することができます。

消火妨害罪

114条は火災の際に消火用の物を隠匿し若しくは損壊し又はその他の方法により消火を妨害した者は1年以上10年以下の拘禁刑に処すると定めています。火災はその発生原因を問いませんが本罪が公共危険犯であると解される以上公共の危険を生じ得る程度の燃焼状態に達していることが必要です。隠匿及び損壊は例示にすぎず妨害の方法や手段に制限はありません。不作為による場合は居住者、警備員、消防職員等法律上の作為義務があることが必要です。

差押え等に係る自己の物に関する特例

115条は109条1項及び110条1項に規定する物が自己の所有に係るものであっても差押えを受け、物権を負担し、賃貸し、配偶者居住権が設定され又は保険に付したものである場合においてこれを焼損したときは他人の物を焼損した者の例によると定めています。差押えを受け、物権を負担し、賃貸し、配偶者居住権が設定され又は保険に付したものは犯人自身の所有物でも犯人以外の受益主体が存在しその者の財産的法益を保護する必要があるため他人の物と同様に扱うこととされています。

失火罪

116条1項は失火により現住建造物等又は他人の所有に係る非現住建造物等を焼損した者は50万円以下の罰金に処すると定めています。同条2項は失火により自己の所有に係る非現住建造物等又は建造物等以外の物を焼損しよって公共の危険を生じさせた者も同様に処すると定めています。

失火とは過失により出火させることです。失火により現住建造物等又は他人所有非現住建造物等を焼損した場合には116条1項の失火罪が成立し抽象的危険犯です。また失火により自己所有非現住建造物等又は建造物等以外の物を焼損しよって公共の危険を生じさせた場合には116条2項の失火罪が成立し具体的危険犯です。

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