自由選挙の意義
自由選挙には2つの内容が含まれます。第一に、選挙人が自らの意思に基づいて候補者や政党等に投票する自由すなわち自由投票であり、強制投票の禁止を意味します。第二に、候補者や市民が選挙運動を行う自由すなわち選挙運動の自由です。自由投票の根拠としては15条4項や19条等が挙げられ、選挙運動の自由の根拠としては21条が挙げられます。なお、強制投票制度とは正当な理由なく棄権をした選挙人に制裁を加える制度をいいます。
棄権の自由
棄権の自由すなわち選挙権を行使しない自由が憲法上保障されているかについて争いがあります。
二元説は棄権の自由を認めます。その理由として、選挙権の行使は選挙人の自覚にまつべきものであること、強制的な投票による投票率の上昇はかえって選挙を不明朗なものにするおそれがあること、および選挙人が棄権する事由は複雑であることを挙げます。
権利一元説は棄権の自由を無条件に認めます。その理由として、選挙権は権利であり権利である以上その不行使も認められることを挙げます。
権利一元説が棄権の自由を積極的に認めるという点で両説は異なりますが、実際上は両説の適用においてほとんど差はないとされています。
秘密選挙の意義
秘密選挙とは、選挙人がどの候補者又は政党等に投票したかを第三者が知りえない方法で行われる選挙をいいます。その趣旨は主として社会における弱い地位にある者の自由な投票を確保する点にあります。秘密選挙の保障は直接私人にも適用されます。秘密選挙は投票内容を公開しなければならないとする公開投票制に対置されます。公職選挙法は投票用紙に選挙人の氏名を記載してはならないと定めています。なお、衆議院議長選挙では議院の自律性が要求されるので記名投票も許されます。
投票自書制と秘密の制約
公職選挙法は候補者の氏名や政党等の名称ないし略称を自書しない投票を無効としています。ただし、心身の故障その他の事由により自書できない選挙人は特定の者に代書してもらうことができます。投票自書制は、筆跡によって秘密がもれる危険があること、および無効投票の原因となる他事記載の可能性を増大させることから、投票の秘密を制約するものとされています。
投票の検索
投票の検索は、選挙や当選の効力に関する争訟と選挙犯罪に関する刑事手続において問題となります。
選挙や当選の効力に関する争訟については、最高裁判所は選挙権のない者やいわゆる代理投票をした者の投票についてもその投票が何人に対してなされたかは議員の当選の効力を定める手続において取り調べてはならないとしています。また別の判決でも、何人が何人に対して投票したかを公表することは選挙権の有無にかかわらず選挙投票の全般にわたってその秘密を確保しようとする無記名投票制度の精神に反するとしています。
選挙犯罪に関する刑事手続については、不正投票等の捜査のために投票用紙の差押えをすることが認められるかが投票の秘密との関係で問題となります。この点についてA説は投票の差押えは許されないとします。その理由として、不正投票等に関する犯罪については投票の内容を調査せずに被疑事実が立証できること、および投票用紙を差し押さえて指紋や筆跡鑑定等で不正投票者の投票事実を明らかにすることが認められるならば正当な選挙人の投票の秘密が害されるおそれがあることを挙げます。B説は投票の差押えが許されるか否かは具体的事案ごとに投票の秘密の要請と司法的正義の実現の要請とを比較衡量して決すべきであるとします。その理由として、投票の秘密と並んで選挙の公正を実現し真相究明による司法的正義を実現することもまた憲法上の要請であること、および訴追に当たっては不正投票の既遂と未遂のいずれか一方に訴因を特定する必要があり両者の情状の差も無視しえないことを挙げます。
最高裁判所は公選投票賄賂罪の認定に関し、新憲法下では何人が何人に投票したかの審理は許されないものの、同罪の認定においては賄賂の授受及び投票の事実を明らかにすれば足り何人が何人に投票したかを明らかにする必要はないことから同罪の規定は15条4項に反しないとしました。
投票用紙の差押えに関する判例
選挙犯罪の捜査を目的とした特定候補者名記載の投票済用紙の差押え等により投票の秘密を害されたとして国家賠償を求めた事案について、最高裁判所は次のように判示しました。差押え等の一連の捜査により上告人らの投票内容が外部に知られたとの事実はうかがえないのみならず、捜査は詐偽投票罪の被疑者らが投票をした事実を裏付けるためにされたものであって上告人らの投票内容を探索する目的でされたものではなく、また押収した投票用紙の指紋との照合に使用された指紋には上告人らの指紋は含まれておらず上告人らの投票内容が外部に知られるおそれもなかったのであるから、捜査が上告人らの投票の秘密を侵害したともこれを侵害する現実的かつ具体的な危険を生じさせたともいうことはできないとしました。
本判決には差押えが15条4項前段に違反するとの補足意見が付されています。この立場によれば、選挙犯罪の捜査において投票の秘密を侵害するような捜査方法をとることが許されるのは次の3つの要件をすべて満たす極めて例外的な場合に限られます。第一に当該選挙犯罪が選挙の公正を実質的に損なう重大なものであること、第二に投票の秘密を侵害するような捜査方法をとらなければ当該犯罪の立証が不可能ないし著しく困難であること、第三に投票の秘密を侵害する程度の最も少ない捜査方法であることです。
直接選挙の意義
直接選挙とは選挙人が公務員を直接に選挙する制度をいいます。直接選挙に対置されるのは間接選挙と複選制です。
間接選挙とは選挙人が一定の選挙委員すなわち中間選挙人を選出しその選挙委員が公務員を選出する制度をいいます。複選制とは他の本来の職務のためにすでに選挙されている者が他の公務員を選出する制度をいいます。
間接選挙と複選制の採用の可否
43条1項は両議院は全国民を代表する選挙された議員で組織すると規定しており選挙は要求しているものの直接選挙まで明示的に要求しているわけではありません。そこで間接選挙や複選制がここにいう選挙に含まれるかが問題となります。
一般に、間接選挙における選挙人の地位は選挙が終了すれば消滅するため間接選挙は43条1項の選挙に含まれうるとされています。一方、複選制における選挙人の地位は選挙が終了しても消滅せずに存続するため選出される議員と国民との関係が希薄であって国民の意思との関係が間接的にすぎることから、複選制は43条1項の選挙には含まれないと解されています。
選挙の原則のまとめ
| 原則 | 意義 | 反対概念 | 問題となるもの |
|---|---|---|---|
| 普通選挙 | 人種、言語、職業、身分、財産、納税、教育、宗教、政治的信条、性別等を選挙権の要件としない選挙 | 制限選挙 | 在宅投票制の廃止 |
| 平等選挙 | 選挙人の選挙権に平等の価値を認める選挙 | 等級選挙、複数選挙 | 議員定数不均衡 |
| 自由選挙 | 選挙人が自らの意思に基づいてその適当と認める候補者や政党等に投票する選挙 | 強制投票制 | 棄権の自由 |
| 秘密選挙 | 選挙人がどの候補者又は政党等に投票したかを第三者が知りえない方法で行われる選挙 | 公開投票制 | 不正投票の調査の可否 |
| 直接選挙 | 選挙人が公務員を直接に選挙する制度 | 間接選挙 | 間接選挙制、複選制の採用の可否 |
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