保障の対象
21条1項により保障されるのは言論や出版そして表現の自由です。表現は内心の思想や意見の表明である言論を中核に、広くコミュニケーションのための情報発信を含みます。すなわち、すべての表現媒体による表現が保障されます。演説や新聞、雑誌その他の印刷物、テレビ、絵画、写真、映画、音楽、芝居などがこれに当たります。
そして、21条1項により保障される政治的言論の自由には政治活動の自由なども含まれます。
象徴的言論
象徴的言論とは、言語的媒体によらず自己の意見や思想を象徴する行動による表現活動をいいます。
象徴的言論は文字や言語によるコミュニケーションではない以上、21条1項の表現として保護されるためには、行為者の主観的意図だけでなく第三者がその行為を表現として理解できることが必要とされます。
仮に表現として保護されたとしても、これを制約する規制は間接的かつ付随的制約に当たり合理的関連性の基準を用いることになると考えられます。ただし、象徴的言論の内容に着目した規制であれば、それは表現内容規制に当たるので厳格な基準の下で審査されることになると解されています。
営利的表現
表現の自由は本来、人の精神作用を表現する自由です。そこで、いわゆる営利的表現すなわち営利的な目的でなされる広告等について、21条1項の保障の対象に含まれるか、また保障の対象に含まれるとしても他の表現と異なり緩やかな審査基準が適用されるのではないかが問題となります。
保障の対象に含まれるかについては、学説上は21条1項の保障の対象に含まれると解するのが一般的です。営利的表現も消費者の知る権利に資するからです。なお、営利的表現のうち何らかの表現行為が含まれる広告のみを保障の対象とし純然たる営利広告は保障の対象外とする見解もありますが、両者の区別が判然しないことや純然たる営利広告も消費者にとっては一つの重要な生活情報としての意味をもちうるとの批判がなされています。
営利的表現に対する審査基準
営利的表現に対する審査基準については2つの見解があります。
A説は、非営利的表現の場合よりも緩やかな審査基準を適用するとします。その理由として、営利的言論は国民の健康や日常経済生活に直接影響するところが大きく公権力による規制の必要性がある上に自己統治との関係が薄いこと、その真実性は非営利的言論に比べ客観的判定になじみやすいことが挙げられます。なお、この見解を採りつつ広告禁止については保障対象となる言論の直接的禁圧を構成する以上むしろ厳格な審査基準が妥当すると解する見解もあります。
B説は、非営利的表現の場合と同様に厳格な審査基準を適用するとします。その理由として、営利的表現を21条1項の保障下に置いた以上厳格な審査基準を保たなければ意味がないこと、営利的表現とその他の表現との厳格な区別が困難である以上営利的表現について緩やかな審査基準を適用すると他の言論の保障の程度も下げることになりかねないことが挙げられます。
営利的表現に関する判例
適応症の広告を制限する法律が21条1項等に反しないかが争われた事案において、最高裁大法廷は、適応症の広告を無制限に認めると虚偽誇大に流れ一般大衆を惑わすおそれがあり、その結果適時適切な医療を受ける機会を失わせるような結果を招来することをおそれたためであって、このような弊害を未然に防止するため一定事項以外の広告を禁止することは国民の保健衛生上の見地から公共の福祉を維持するためやむを得ない措置として是認されなければならないと判示しました。ただし、この判決は営利的表現が21条1項により保障されるかという点については明言していません。これに対し、広告が商業活動の性格を有するからといって表現の自由の保障の外にあるものということはできないとした上で、適応症に関する真実かつ正当な広告までも一切禁止していることには合理的根拠を見いだしがたいとして違憲であるとする少数意見が付されています。
また、風俗案内所の外部に接待風俗営業に従事する者を表す図画等を表示することを禁止した条例の規定が争われた事案では、最高裁は、風俗案内所が青少年の育成や周辺の生活環境に及ぼす影響の程度に鑑みれば、風俗案内所の表示物等に関する規制も公共の福祉に適合する目的達成のための手段として必要性や合理性があるということができ、条例の規定は憲法21条1項に違反するものではないとしました。
差別的表現
人の属性に着目してある属性を共有する人々全体を一般的に標榜し、あるいは特定の無能力と結び付ける一連の表現を総称して差別的表現といいます。かかる差別的表現に対する規制を公権力が行うことについて、憲法上どのように考えるべきかが問題とされています。
A説は、差別的表現に対する法的規制は困難であるとします。その理由として、差別的表現の定義は曖昧であること、差別的言論はある社会集団の集団的名誉を侵害するにとどまり個人の名誉権を侵害する名誉毀損表現とは同列に扱えないこと、差別的言論に対しては対抗言論によって是正を図るべきであることが挙げられます。
B説は、規制の対象を狭く限定したり多様かつ柔軟な対応をすることを条件に差別的表現に対する法的規制を認めるとします。その理由として、14条1項後段列挙事項に関するマイノリティ集団ないし個人の誹謗だけを差別的表現と定義付ければ明確化は達成しうること、差別的表現は個人の尊厳に結び付いた重要な人格的利益を揺るがすこと、マイノリティが自分で反論してマジョリティの差別感情を拭い去ることは事実上困難であることが挙げられます。
大阪市ヘイトスピーチ条例事件
大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例は、一定の表現活動を条例ヘイトスピーチと定義した上で、市長は市の区域内で行われたヘイトスピーチの内容の拡散を防止するために必要な措置をとるとともに、当該表現活動が条例ヘイトスピーチに該当する旨、表現の内容の概要及びその拡散を防止するためにとった措置並びに当該表現活動を行ったものの氏名や名称を公表するものと規定していました。
最高裁は、表現の自由は立憲民主政の政治過程にとって不可欠の基本的人権であって民主主義社会を基礎付ける重要な権利であるものの、無制限に保障されるものではなく公共の福祉による合理的で必要やむを得ない限度の制限を受けることがあるとしました。そして制限が是認されるかどうかは、目的のために制限が必要とされる程度と制限される自由の内容及び性質、これに加えられる具体的な制限の態様及び程度等を衡量して決めるのが相当であるとしました。
本件各規定の目的については、条例ヘイトスピーチに該当する表現活動のうち特定の個人を対象とする表現活動のように民事上又は刑事上の責任が発生し得るものについてこれを抑止する必要性が高いことはもとより、民族全体等の不特定かつ多数の人々を対象とする表現活動のように直ちに上記責任が発生するとはいえないものについても、人種又は民族に係る特定の属性を理由として特定人等を社会から排除すること等の不当な目的をもって公然と行われるものであって、その内容又は態様において殊更に当該人種若しくは民族に属する者に対する差別の意識や憎悪等を誘発し若しくは助長するようなものであるか、又はその者の生命や身体等に危害を加えるといった犯罪行為を煽動するようなものであるといえるから、これを抑止する必要性が高いとしました。加えて、市内においては実際に上記のような過激で悪質性の高い差別的言動を伴う街宣活動等が頻繁に行われていたことがうかがわれること等をも勘案すると、本件各規定の目的は合理的であり正当なものということができるとしました。
また、制限される表現活動の内容及び性質は上記のような過激で悪質性の高い差別的言動を伴うものに限られる上、その制限の態様及び程度においても事後的に市長による拡散防止措置等の対象となるにとどまるとしました。そして拡散防止措置については市長は看板や掲示物等の撤去要請やインターネット上の表現についての削除要請等を行うことができると解されるものの、当該要請等に応じないものに対する制裁はなく、氏名等公表についても表現活動をしたものの氏名又は名称を特定するための法的強制力を伴う手段は存在しないとしました。
そうすると本件各規定による表現の自由の制限は合理的で必要やむを得ない限度にとどまるものといえ、本件各規定は憲法21条1項に違反するものではないとしました。
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