庁舎管理権に基づく規制
公共施設の利用に関する問題とは異なり、主に公務の用に供するための施設である公用物を使用して集会をすることが問題となる場合があります。普通地方公共団体の庁舎は飽くまでも主に公務の用に供するための施設であって、主に一般公衆の共同使用に供するための施設である道路や公園等の施設とは異なります。
金沢市庁舎前広場事件
憲法を守るなどの目的で金沢市庁舎前広場において集会を開催するため庁舎等管理規則に基づき許可申請をしたところ、規則の定める示威行為の禁止規定に該当し庁舎等の管理上の支障があるなどとして不許可処分を受けた事案です。この広場は市の本庁舎の建物の敷地の一部であって壁や塀で囲われていない平らな広場であり、音楽祭等の行事のほか集会が開催されたこともありました。
最高裁はまず一般論として、憲法21条1項の保障する集会の自由は民主主義社会における重要な基本的人権の一つとして特に尊重されなければならないものであるが、公共の福祉による必要かつ合理的な制限を受けることがあるとしました。そして、このような自由に対する制限が必要かつ合理的なものとして是認されるかどうかは、制限が必要とされる程度と制限される自由の内容及び性質、これに加えられる具体的制限の態様及び程度等を較量して決めるのが相当であるとしました。
その上で、庁舎の性格を踏まえて次の3点を判断しました。第一に、公務の中核を担う庁舎等において政治的な対立がみられる論点について集会等が開催され威力又は気勢を他に示すなどして特定の政策等を訴える示威行為が行われると、あたかも市が特定の立場の者を利しているかのような外観が生じ、これにより外見上の政治的中立性に疑義が生じて行政に対する住民の信頼が損なわれ、ひいては公務の円滑な遂行が確保されなくなるという支障が生じ得るとし、本件規定はこの支障を生じさせないことを目的とするものであってその目的は合理的であり正当であるとしました。
第二に、この支障は庁舎等において示威行為が行われるという状況それ自体により生じ得る以上、当該示威行為を前提とした何らかの条件の付加や市による事後的な弁明等の手段によりこの支障が生じないようにすることは性質上困難であるとしました。
第三に、本件規定により禁止されるのはあくまでも公務の用に供される庁舎等において所定の示威行為を行うことに限定されており、他の場所、特に集会等の用に供することが本来の目的に含まれている公の施設等を利用することまで妨げられるものではないから、本件規定による集会の自由に対する制限の程度は限定的であるとしました。
したがって、本件規定を広場における集会に係る行為に対し適用する場合における集会の自由の制限は必要かつ合理的な限度にとどまるとされ、憲法21条1項に違反するものではないとしました。
なお、広場が集会等のための利用に適しており現に種々の集会等が開催されているなどの実情があるとの主張に対して、最高裁はそのような実情は市長が庁舎管理権の行使として庁舎等の維持管理に支障がない範囲で住民等の利用を禁止していないということの結果であって、これにより庁舎等の一部としての広場の性格それ自体が変容するものではないとしました。
本判決はあくまでも専ら庁舎ないし庁舎管理権の性格を前提としているものであって、本判決の射程が公用財産一般に及ぶものとは解されないとされています。また、本判決は不許可処分それ自体の適法性について何らの判断を示していないことにも注意が必要です。
本判決に対しては多くの学説が反対しています。たとえば、広場はパブリック・フォーラムとしての実質を有するため公の施設ないしこれに準ずる公共用物に該当し、泉佐野市民会館事件判決の厳格な判断基準を適用すべきであるとする立場があります。もっとも、この立場に対しては、泉佐野市民会館事件判決の射程は他者の基本的人権が侵害されるなどの危険が問題となる事案に及ぶものの本件はそのような事案ではないこと、庁舎はあくまでも公用物であり利用実態を前提としても広場の性格それ自体が変容するものではないこと、集会の自由は公の施設の設置や提供を請求する積極的な権利を内容とするものではないことなどの反論がなされています。
集団行動の自由
デモ行進などの集団行動の自由は21条1項のその他一切の表現の自由に含まれるとする見解もありますが、動く公共集会として集会の自由に含まれるとする見解が有力です。集団行動は一定の行動を伴うものであるため、特に他の国民の権利や自由との調整を必要とし、集団行動の自由は純粋な言論の自由とは異なる特別の規制に服します。
デモ行進等の集団行動は、参加する多数の者が行進その他の一体的行動によって主張等を一般公衆等に示すところにその本質的な意義と価値があるので、殊更に交通秩序の阻害をもたらすような行為は集団行進等の集団行動に不可欠な要素ではないから、これを禁止しても表現の自由を不当に制限するものではないとされています。
公安条例による規制
集会や集団行進等の集団行動に対しては、公安条例により届出制ないし許可制といった事前規制がなされるのが一般であり、違反者には刑罰も科されます。このような事前規制が21条に違反しないかが問題となりますが、判例は一貫して合憲と解しています。
なお、表現行為の内容に関して事前規制が加えられる場合には検閲に該当しうるものの、表現の時や場所、方法に関する外形的規制にとどまる限り検閲には当たらないとされています。
新潟県公安条例事件
最高裁大法廷は、単なる届出制は格別、一般的な許可制は違憲であるとしました。しかし、特定の場所や方法について合理的かつ明確な基準の下での事前規制であれば許されるとしました。そして、公共の安全に対し明らかな差し迫った危険を及ぼすことが予見されるときは集団行動を禁止できるとしました。
東京都公安条例事件
最高裁大法廷は、集団行動による思想等の表現は単なる言論や出版等によるものと異なり潜在する一種の物理的力によって支持されているから、甚だしい場合には一瞬にして暴徒と化す危険があり最小限度の措置を事前に講ずることもやむを得ないとしました。
そして本条例は許可制を採っているが、公共の安寧に直接危険を及ぼすと明らかに認められる場合以外は許可が義務付けられているので、その実質は届出制であるとしました。また、集団行動を法的に規制する必要があるなら、ある程度包括的な規制もやむを得ないとしました。
学説は、許可制が実質的に届出制であるといえるためには、許可基準が明確かつ厳格に限定されたものであること、及び裁判による救済手続が整っていることが必要であるとしています。許可基準の明確さについては、許可を与えない旨の意思表示をしないときは許可があったものとして行動することができると定める許可推定事項の存在がポイントとなります。裁判による救済については、集団行動の申請に対して不許可処分がなされた場合に執行停止の申立てがなされ多くの場合裁判所がそれを認容しているのは、執行停止されると申請通りの集団行動ができるという実質届出制の考え方を基礎にするものとされています。
なお、国会周辺のデモの規制に関しては、東京都公安条例の進路変更規定を一応合憲とした上で、その運用における公安委員会の権限の濫用を指摘して国会周辺のデモ進路変更処分を違法であると判示した裁判例があります。
道路交通法による規制
道路交通法は一般交通に著しい影響を及ぼすような通行の形態若しくは方法により道路を使用する行為又は道路に人が集まり一般交通に著しい影響を及ぼすような行為をしようとする者は警察署長の許可を受けなければならないと規定しています。
この許可制が21条1項に反するかが問題となった事案において、判例は、同法の規定が道路使用の許可に関する明確かつ合理的な基準を掲げて道路における集団行進が不許可とされる場合を厳格に制限しており、警察署長は一般交通の用に供せられるべき道路の機能を著しく害するものと認められ条件を付与することによってもかかる事態の発生を阻止することができないと予測される場合に限って許可を拒むことができるから、この許可制は表現の自由に対する公共の福祉による必要かつ合理的な制限として憲法上是認されるべきものであるとしました。
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