居住・移転の自由の意義

居住・移転の自由とは、自己の欲する地に住所又は居所を定める自由、あるいはそれを変更する自由及び自己の意に反して居住地を変更されることのない自由をいいます。

この居住・移転の自由は、歴史的には職業選択の自由の当然の前提として自由に住所を定め他の場所に移動することを認めたところに由来するものとされています。

居住・移転の自由の法的性格

22条1項は、職業選択の自由と並べて居住・移転の自由を保障していますが、それは単に経済的自由としてだけではなく、人身の自由、表現の自由、人格形成の自由といった多面的かつ複合的性格を有する権利として理解されるようになっています。

居住・移転の自由に対する制約

居住・移転の自由は、人身の自由や表現の自由としての側面を有する複合的な権利としての性格をもつことから、その規制の性質に応じて公共の福祉の内容及び違憲審査の基準を考えるべきであるとする見解が有力です。

居住・移転の自由に対する制約は、規制目的に応じて、主として経済的自由の側に向けられるものと、主として人身の自由の側に向けられるものとに区別できます。

経済的自由の側面に向けられた制約

経済的自由の側面に向けられた制約の例としては、まず破産者の居住地制限があります。破産者は裁判所の許可がなければその居住地を離れることができないとされていますが、これは破産者自身による情報提供が破産状態の徹底的究明という目的を達成するために最も有効な手段でありそのために破産者の居住地制限をすることは合理的であるから合憲と解されています。

また、自衛官の居住地制限があります。自衛官は防衛省令で定めるところに従い防衛大臣が指定する場所に居住しなければならないとされていますが、国民が自ら志願して自衛官の職業を選択した結果自衛官としての職務の特殊性に基づく居住地制限を加えられても合憲と解されています。

人身の自由の側面に向けられた制約

人身の自由の側面に向けられた制約の例としては、まず拘禁刑などによる拘禁があります。次に、夫婦の同居義務や親権者の子に対する居所指定権があります。これらの制限は事物の性質上当然に認められる制限として正当化されます。

また、特定の病気の患者に対する居住移転の制限や強制入院、隔離があります。これらは害悪発生の蓋然性が高く規制の緊急性と必要性を認めるに足りる最小限度の措置として合憲と解されています。

さらに、裁判所による被告人に対しての住居制限があります。これは被告人の出頭を確保するという公共の利益が認められるため合憲と解されています。

なお、市町村長は地域の秩序が破壊され住民の生命や身体の安全が害される危険性が高度に認められるような特別の事情がある場合であっても転入届を受理しないことは許されないとされています。

住宅条例の暴排条項の合憲性の事案

住宅条例の暴排条項の合憲性が争われた事案は、市営住宅条例が入居者が暴力団員であることが判明したときに市長が明渡しを請求することができると規定しているところ、暴力団員であることが発覚した入居者に対し市が賃貸借契約を解除して明渡し等を求めたものです。入居者は、本件規定は暴力団員を合理的な理由なく不利に扱う点で14条1項に違反するとともに居住の自由を制限する点で22条1項に違反し無効であると主張して争いました。

住宅条例の暴排条項の合憲性の判旨

最高裁は、地方公共団体は住宅が国民の健康で文化的な生活にとって不可欠な基盤であることに鑑み低額所得者、被災者その他住宅の確保に特に配慮を要する者の居住の安定の確保が図られることを旨として住宅の供給その他の住生活の安定の確保及び向上の促進に関する施策を策定し実施するものであって、地方公共団体が住宅を供給する場合において当該住宅に入居させ又は入居を継続させる者をどのようなものとするのかについてはその性質上地方公共団体に一定の裁量があるとしました。

暴力団員は集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれがある団体の構成員と定義されているところ、このような暴力団員が市営住宅に入居し続ける場合には当該市営住宅の他の入居者等の生活の平穏が害されるおそれを否定することはできないとしました。他方において、暴力団員は自らの意思により暴力団を脱退しそうすることで暴力団員でなくなることが可能であり、また暴力団員が市営住宅の明渡しをせざるを得ないとしてもそれは当該市営住宅には居住することができなくなるというにすぎず当該市営住宅以外における居住についてまで制限を受けるわけではないとしました。

以上の諸点を考慮すると、本件規定は暴力団員について合理的な理由のない差別をするものということはできず14条1項に違反しないとしました。また、本件規定により制限される利益は結局のところ社会福祉的観点から供給される市営住宅に暴力団員が入居し又は入居し続ける利益にすぎず、本件規定による居住の制限は公共の福祉による必要かつ合理的なものであることが明らかであるとして22条1項に違反しないとしました。

住宅条例の暴排条項の評釈

暴力団員という地位は暴力団からの脱退が可能であるという点で「人が社会において占める継続的な地位」たる社会的身分には当たらないと解されます。もっとも、社会的身分に当たらないということから直ちに14条1項に違反しないということはできず、事柄の性質に即応して合理的な区別といえるかどうかを検討する必要があるところ、本判決は暴力団員が市営住宅に入居し続けることで他の入居者の生活の平穏が害されるおそれがあること、市営住宅以外での居住についてまで制限を加えるものではないことを指摘して14条1項に反しないとしています。

短期的・一時的移動の自由

居住又は居住目的の移動だけでなく、旅行や日常生活のための外出などの国内における短期的・一時的移動についても22条1項によって保障されるかが問題となります。

判例は、22条2項の「外国に移住する自由」には外国へ一時旅行する自由をも含むものと解すべきとしています。この判例を踏まえると、国内における短期的・一時的移動も22条1項の保障に含まれていると解することができます。すなわち「居住」や「移住」は生活の本拠を全面的に移動することを指しますが、これを憲法が保障しているのであればその一時的・部分的なものと考えられる短期的・一時的移動も当然に保障されることになります。

これに対し、短期的・一時的移動は22条1項の「移転」にも「移住」にも含まれず、一般的自由又は幸福追求権の問題であるとする見解もあります。

海外渡航の自由

海外渡航の自由も経済的自由の側面と精神的自由の側面を併せもつ複合的性格の人権です。海外渡航とは広くは外国居住を含みますが、狭義には一時的な外国旅行を意味します。海外渡航の自由が憲法上保障されているとする点については争いがありませんが、その根拠規定に関して争いがあります。

第一の見解は22条2項説であり、判例もこの立場をとっています。移住の自由に含まれるとするもので、永住のための出国の自由を保障しながら一時的渡航を保障しないとは思えないこと、22条は国内に関連するものを1項に外国に関連するものを2項にまとめて規定していることをその理由としています。

第二の見解は22条1項説です。移転の自由に含まれるとするもので、文言上「渡航」を「移住」に含めるより「移転」に含めるのが自然であること、2項は半永久的な日本からの脱出を保障したものとみるべきであることをその理由としています。

第三の見解は13条説です。一般的自由又は幸福追求権の一部として保障されるとするもので、「旅行」は動き回る観念であり居住所の変更を意味する「移転」ともある場所への定住を意味する「移住」とも異なることをその理由としています。

旅券法13条1項7号の合憲性

外国旅行に際しては旅券の所持が義務付けられているところ、著しくかつ直接に日本国の利益又は公安を害する行為を行うおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者に対して外務大臣が旅券の発給を拒否することができると定める旅券法13条1項7号の合憲性が問題となります。

違憲説は、旅券法13条1項7号の「公安を害する行為を行うおそれ」という文言は漠然不明確な基準であり違憲であるとします。海外渡航の自由は精神的自由権に準ずる保障を受けること、漠然かつ不明確な規定は恣意的裁量による自由の制限を意味することをその理由としています。

合憲説のうち犯罪限定説は、旅券法13条1項7号の「行為」を「犯罪行為」と合憲限定解釈することで合憲となるとします。法条は可能な限り合憲的に解釈すべきであることをその理由としていますが、旅券発給行為は単なる公証行為であり国内・国際情勢の判断を発給行為に介在させる余地はないとしています。

合憲説のうち合理的制限説は、旅券法13条1項7号は公共の福祉のための合理的制限を定めたものといえるとします。海外渡航の自由は他の自由と違い国際的外交的側面から特別の制限を受けること、国際情勢や外交上の影響といった複雑専門的判断では政治的裁量を尊重すべきであることをその理由としています。

帆足計事件

帆足計事件において最高裁は、22条2項の「外国に移住する自由」には外国へ一時旅行する自由も含まれるが、この自由も公共の福祉のための合理的制限に服するのであり、旅券発給を拒否することができる場合として旅券法13条1項7号が「著しく且つ直接に日本国の利益又は公安を害する行為を行う虞があると認めるに足りる相当の理由がある者」と規定したのは、外国旅行の自由に対し公共の福祉のために合理的制限を定めたものと見ることができ憲法に違反しないと判示しました。

外国人の出国の自由

外国人の出国の自由は入国の自由と異なり外国人にも憲法上保障されると解されています。もっとも、その憲法上の根拠につき争いがあります。

22条2項説は、判例の立場であり、22条2項で保障される外国移住の自由に含めることができるとします。22条1項説は、22条2項は日本人に関する規定であり外国人は1項で保障されるとします。98条2項説は、憲法はすべての者がいずれの国からも自由に離れる権利を保障する国際人権B規約12条2項を98条2項の「日本国が締結した条約」として誠実に遵守するとの立場に立つとします。

外国人の再入国の自由

判例と通説は外国人の出国の自由は憲法により保障された権利であるとしますが、「出国」には「帰国」を前提とするものもあります。そこで、在留外国人の再入国の自由が憲法上の権利かどうか争いとなります。

22条説は、在留外国人の再入国は22条で憲法上保護された権利であるが、その性質上日本国民の帰国の自由と全く同じものとして憲法上保障されているわけではなく、日本の国益を侵害する明白かつ現在の危険が存在するような場合に限って再入国を許可しないことが可能であるとします。

98条説は、外国人の入国が憲法上の権利でない以上その再入国も憲法次元の問題とはなりえず、出国の自由と同様に条約もしくは国際慣習法によって決すべきであるとします。もっとも、再入国に新規入国とは異なる特別の配慮を加え日本の安全・国民の福祉に危害が及ぶ可能性といったものを考慮して最低限度の規制を行うことは許されるとします。

なお、98条説を採用すると国家の自由裁量的判断の余地が広く認められるおそれがありそうに見えますが、同説が根拠とする国際人権B規約12条4項の「自国に戻る」の定めは「定住国」に戻ることの保障を含むと解しうることなどから、定住外国人に関しては国家的裁量の余地について実質的には両説に差は生じないとされています。

森川キャサリーン事件

森川キャサリーン事件において最高裁は、外国人の再入国の自由について、我が国に在留する外国人は憲法上外国へ一時旅行する自由を保障されているものではないとしました。また、国際人権B規約12条4項の「自国」は「国籍国」のみを指すと判示しました。

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