明治憲法と日本国憲法における内閣制度

明治憲法の下では統治権は天皇が総攬し行政権は天皇が直接行使することが建前とされていました。国務大臣が内閣という合議体を形成するものとはされず国務各大臣による輔弼が予定されていたにすぎません。そのため内閣は憲法上の機関ではなく各国務大臣も天皇に対して責任を負うだけで議会に対して責任を一切負いませんでした。また作戦用兵の目的のために陸海軍を統括する統帥権も天皇が有しており国務大臣の輔弼の対象外とされ帝国議会は関与しえませんでした。

内閣は法律上の機関でさえなく天皇官制に基づく内閣官制すなわち勅令により定められていました。また内閣総理大臣には内閣官制により首班としての地位が認められてはいたものの憲法上はすべての大臣は平等という建前であったから首班とは同輩中の首席というにすぎないとされていました。

日本国憲法は内閣を憲法上の機関として設定するとともにそれを行政権の主体と位置付けました。さらに内閣総理大臣に首長という優越的地位を認めそれを裏付ける権限を与えることにより内閣の一体性と統一性を確保し内閣の国会に対する連帯責任の強化を図っています。

議院内閣制と大統領制

行政権の担い手が他の権力特に議会とどのような関係に置かれるかに関しては議院内閣制と大統領制が代表的なモデルです。議院内閣制はイギリスが代表例であり大統領制はアメリカが代表例です。

典型的な議院内閣制では首長は議会により選出されます。首相と内閣は議会の信任に依拠し議会に対し連帯責任を負います。解散制度があり大臣は議会に出席し発言する権利と義務があります。大臣は議員を兼ねることができます。政府の形態は集団的かつ合議体的であり権力分立との関係では緩やかな分離です。

典型的な大統領制では首長は国民の直接選挙により選出されます。大統領府は議会から独立し議会による不信任制度がありません。解散制度がなく大臣すなわち長官は議会での出席発言権がありません。大臣は議員を兼ねることができません。政府の形態は一人政府であり大統領内閣は助言者ないし助力者にすぎません。権力分立との関係では厳格な分離です。

議院内閣制の本質

議院内閣制といっても諸国の歴史的発展の違いから典型的な特徴をすべて備えているものではありません。そこで議院内閣制の本質とは何かが問題とされます。

わが国の学説はほぼ一致して議会と政府が一応分離していること及び政府が議会に対して連帯責任を負うことを議院内閣制の本質的要素として挙げます。争いがあるのはさらに内閣が議会の解散権を有することという要素を加えるか否かです。

A説は責任本質説です。議院内閣制は内閣の存立が議会の信任に依存している点に本質がありり内閣が議会の解散権を有することは議院内閣制の本質的要素ではないとします。民主主義の発展とともに生まれたさまざまな議院内閣制の形態に共通する本質的要素は政府の議会に対するそれを通じて国民に対する責任であることがその理由です。

B説は均衡本質説です。議院内閣制は両者が均衡するところに本質があり内閣が議会の解散権を有することは議院内閣制の本質的要素であるとします。議院内閣制は元来立憲君主制の下で君主と議会との権力の均衡をねらって成立した政治形態であることがその理由です。

日本国憲法と議院内閣制

日本国憲法は議院内閣制を採用しています。その根拠として内閣の連帯責任の原則、内閣不信任決議権、内閣総理大臣を国会が指名すること、内閣総理大臣及び他の国務大臣の過半数が国会議員であることが挙げられます。

行政権の意義

65条は行政権は内閣に属すると規定しています。本条は権力分立の原理を背景に国会が立法権の主体とされ裁判所が司法権の主体とされたのに対応して内閣を行政権の主体とする権限配分規定です。

形式的意味の行政と実質的意味の行政

本条が権限配分規定であることから本条にいう行政とは実質的意味の行政を指すとされています。

実質的意味の行政とは何かについて見解が分かれます。

A説は通説であり控除説です。すべての国家作用のうちから立法作用と司法作用を除いた残りの作用をいうとします。その理由として、さまざまな行政活動を包括的に捉えることができること、包括的な支配権のうちから立法権と執行権がまず分化しその執行権の内部で行政と司法が分けられたという国家作用の分化の歴史的沿革に適合することが挙げられます。

B説は積極説です。法の下に法の規制を受けながら国家目的の積極的な実現を目指して行われる全体として統一性をもった継続的な形成的活動をいうとします。現代福祉国家における行政概念としては控除説では消極に失するうらみがあり積極的に定義するべきであることがその理由です。これに対しては行政の特徴や傾向の大要を示すにとどまり必ずしも多様な行政活動のすべてを捉えきれていないとの批判があります。

行政権が内閣に属するの意味

行政権が内閣に属するとは行政事務のすべてを内閣が自ら行うということではありません。一般的には行政権は行政各部の機関が行使し内閣は総理大臣を通じて行政各部を指揮監督し総合調整することによって行政全体を統括する地位にあることを意味します。

ただし内閣がすべての行政について直接に指揮監督権を有することまで要求しているわけではありません。内閣から独立した行政作用であっても特に政治的な中立性の要求される行政について内閣の指揮監督から独立している機関がこれを担当し最終的に当該機関に対して国会のコントロールが直接及ぶのであれば例外的に65条に反しないと解されています。

権限行使の方式

憲法は内閣がその権限を行使するのに際して何ら依るべき手続等を規定していません。これは内閣の自主的判断に委ねるのが適当であると考えたためであり法律をもって内閣の自主的判断を制約する方式を定めることは許されません。

独立行政委員会の意義

独立行政委員会の制度は合議制の行政機関である点で通常の行政機関と異なり多かれ少なかれ内閣から独立して職務を遂行し通常は準立法権及び準司法権をも併有するという特徴を有する制度です。人事院、中央労働委員会、公正取引委員会、公害等調整委員会、国家公安委員会などがあります。なお国家公安委員会だけが準司法的権限を有しません。

独立行政委員会の趣旨は政治的中立性の要請される行政及び専門性と技術性の要請される行政について行政を円滑化し国民の権利実現を図ることにあります。

独立行政委員会と65条の関係

65条の属するが行政全体の統括を意味すると捉えると内閣から独立して職務を遂行する独立行政委員会が65条に反しないかが問題となります。反しないという結論については学説上異論がありませんがその根拠の説明につき対立があります。

A説は65条は一切の例外を認めていないとするアプローチです。通常は内閣が委員の任命権及び委員会の予算編成権を有することからかろうじて内閣のコントロール下にあるといえ独立行政委員会は65条に反しないとします。本条の文言の素直な理解であることがその理由です。これに対しては委員の任命には国会の同意が必要なこともあるし内閣の自由な予算編成に制限が課されていることもあるとの批判、任命権と予算編成権だけで内閣のコントロール下にあるといえるなら裁判所も内閣のコントロール下にあることになってしまうとの批判があります。

B説は65条は一定の例外を認めているとするアプローチです。本条はすべての実質的行政を内閣に帰属させることを要求するものではないから独立行政委員会は65条に反しないとします。その理由として、本条が76条1項と異なりすべて行政権はとは述べていないこと、権力分立との関係では行政権が内閣に属するというのは内閣に属することに積極的意味があるのではなくて立法権と司法権が内閣に属しないことに意味があるのであり内閣以外の行政機関が行政権を行使しても権力分立の目的に反するとまでいう必要はないこと、民主主義の観点からみれば独立行政委員会が内閣から独立に権限を行使してもその独立行政委員会を国会が直接コントロールしうる体制になっているかあるいは職務の性質上内閣及び国会のコントロール下に置くのが適切でない場合には内閣の責任を問えないとしても問題にする必要はないことが挙げられます。

判例は人事院は国家公務員法実施の責任を有し内閣に対して強度の独立性を有する行政官庁であるとしたうえで憲法65条の趣旨は憲法の基本原則に反せずかつ国家目的上必要のある場合には例外的に内閣以外の国家機関に行政権の一部を行わせることを禁ずるものではないとしました。

独立行政委員会と41条及び76条の関係

独立行政委員会が準立法権をも併有するという点が41条に反しないかが問題となります。この点につき立法権を事実上放棄するような委任すなわち包括的かつ白紙的委任でない限り独立行政委員会が規則制定という準立法作用を行うことは41条に反しません。

独立行政委員会が準司法権をも併有するという点が76条に反しないかが問題となります。この点につき前審としてであれば独立行政委員会が準司法作用を行うことは76条1項に反しません。

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