錯誤の意義
錯誤とは表意者の認識及び判断と現実との間に食い違いがあり、その食い違いを表意者が知らないことをいいます。
95条1項は意思表示は一定の錯誤に基づくものであってその錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは取り消すことができると定めています。錯誤に基づく意思表示を取り消すことができるとすることで表意者を保護する一方、意思表示が有効であると信頼した相手方の取引の安全を確保するために錯誤の主張が認められるための要件を限定し両者の調整を図っています。
錯誤の類型
錯誤には表示行為の錯誤と動機の錯誤があります。
表示行為の錯誤とは意思表示に対応する意思を欠く錯誤をいいます。表示行為の錯誤には表示上の錯誤すなわち表示行為自体を誤った場合と内容の錯誤すなわち効果意思と表示意思に食い違いがある場合の2種類があります。
動機の錯誤すなわち基礎事情の錯誤とは表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤のことをいいます。動機の錯誤においては内心的効果意思と表示に不一致はありません。
動機の錯誤の取扱い
動機の錯誤による意思表示の取消しはその事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限りすることができます。これは動機の表示により取引の相手方に不測の損害が生じるのを防止する趣旨です。
動機の錯誤による不利益は本来は表意者が負担すべきであるとの観点から、表意者が動機となった事情を相手方に一方的に明示又は黙示に表示しただけでは表示されていたとはいえないと解されています。この要件を満たすには動機となった事情が法律行為の内容になっていることすなわちその事情がなければその内容の意思表示の効力は否定されることについて相手方の了解があったことが必要と解されています。
判例は保証契約において主債務者の資力やその他の担保権等の存在に関する錯誤は動機の錯誤であり特段の事情のない限り当然には保証契約の内容とはならないとしています。また保証契約において主債務者が反社会的勢力でないことという動機はたとえ明示又は黙示に表示されていたとしても当事者の意思解釈上当然に保証契約の内容となっているということはできないとした判例があります。主債務者が反社会的勢力でないことは主債務者に関する事情の1つにすぎないためです。
さらに信用保証機関と銀行の間で締結された信用保証契約において融資先が企業としての実体を有しているという動機はそれが表示されていたとしても当事者の意思解釈上法律行為の内容となっているということはできないとした判例もあります。
錯誤の要件
意思表示が錯誤によって取り消しうるものとなるためには意思表示が錯誤に基づくこと及びその錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであることが必要です。動機の錯誤においてはその事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたことも要件となります。
錯誤に基づくとは表意者が錯誤に陥らなければその意思表示をしなかったといえることすなわち主観的因果関係をいいます。
重要な錯誤とは客観的に重要なものであることを意味し法律行為の類型と個別事情を考慮し通常一般人ならその錯誤がなければ意思表示をしないといえるかで判断されます。
表意者の重大な過失
錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には原則として錯誤による意思表示の取消しをすることができません。重大な過失とは普通の人なら注意義務を尽くして錯誤に陥ることはなかったのに著しく不注意であったために錯誤に陥ったことをいいます。重大な過失の立証責任は相手方にあります。
ただし表意者に重大な過失があったとしても相手方が表意者に錯誤があることを知り又は重大な過失によって知らなかったとき及び相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたときすなわち共通錯誤の場合には錯誤取消しが可能になります。
錯誤の効果
錯誤に基づく意思表示は取り消すことができます。錯誤によって取り消すことができる行為は瑕疵ある意思表示をした者又はその代理人若しくは承継人に限り取り消すことができます。
錯誤取消しと第三者保護
錯誤取消し前の第三者について錯誤取消しは善意でかつ過失がない第三者に対抗することができません。この規定における第三者とは当事者及びその包括承継人以外の者であって錯誤による意思表示によって生じた法律関係について新たに法律上の利害関係を有するに至った者をいいます。
95条4項の第三者として保護されるために権利保護資格要件としての登記を備える必要があるかが問題となります。錯誤に陥った表意者のほうが欺罔された表意者よりも帰責性が大きい点を考慮しつつ96条3項の第三者について不要説を採る場合には95条4項の第三者についても必然的に不要説を採ることになります。96条3項の第三者について必要説を採る場合であっても帰責性の点を重視すれば95条4項の第三者について不要説を採ることも可能と解されます。一方帰責性の点は錯誤取消しの要件のレベルで既に考慮されていると捉えれば96条3項の第三者の場合と同じく95条4項の第三者についても必要説を採ることになると解されます。
錯誤取消し後の第三者については詐欺取消後の第三者保護の場合と同様に対抗問題として処理することになります。
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