身分の意義

身分とは男女の性別、内外国人の別、親族の関係及び公務員たるの資格のような関係のみに限らずすべて一定の犯罪行為に関する犯人の人的関係である特殊の地位又は状態をいいます。行為者の一定の身分が犯罪の成立要素となるものを構成的身分といい行為者の一定の身分が刑の加重又は減軽の要素となるものを加減的身分といいます。なお身分が行為の違法性の要素となっている場合を違法身分、身分が行為の責任の要素となっている場合を責任身分と呼ぶことがあります。

目的犯の目的と身分

目的犯の目的が身分に当たるかについては争いがありますが当たるとするのが判例の立場です。判例は麻薬輸入罪の営利の目的は65条2項にいう身分に当たるとしています。

身分犯

身分犯とは構成要件上行為者に一定の身分のあることが必要とされる犯罪をいいます。

真正身分犯すなわち構成的身分犯とは行為者が一定の身分を有することによってはじめて犯罪が成立する身分犯をいいます。判例が真正身分犯とした例として収賄罪における公務員、偽証罪における法律により宣誓した証人、横領罪における他人の物の占有者、背任罪における他人のためにその事務を処理する者、虚偽公文書作成罪における公務員及び事後強盗罪における窃盗犯人があります。

不真正身分犯すなわち加減的身分犯とは身分がなくても犯罪自体は成立するが身分があることにより刑が加重又は軽減される身分犯をいいます。判例が不真正身分犯とした例として常習賭博罪における賭博の常習者、業務上堕胎罪における医師、業務上失火罪における業務上の失火者、保護責任者遺棄罪における保護責任者及び特別公務員職権濫用罪における特別公務員があります。

なお業務上横領罪における業務上の他人の物の占有者は非占有者との関係では真正身分犯であり単なる占有者との関係では不真正身分犯です。

65条1項と2項の関係

65条1項は犯人の身分によって構成すべき犯罪行為に加功したときは身分のない者であっても共犯とすると規定し身分の連帯的又は従属的作用を定めています。他方で65条2項は身分によって特に刑の軽重があるときは身分のない者には通常の刑を科すると規定し身分の個別的作用を定めています。一見矛盾した内容をもつように見える65条の解釈が問題となります。

甲説は判例の立場であり1項は真正身分犯の成立と科刑に2項は不真正身分犯の成立と科刑にそれぞれ適用されるとする見解です。2つの身分犯の区別に応じて1項と2項をそれぞれ適用するものであり適用上明快であること及び1項の犯人の身分によって構成すべき犯罪行為及び2項の身分によって特に刑の軽重があるときとの規定に忠実な解釈であることを根拠とします。甲説に対しては不真正身分犯も犯人の身分によって構成すべき犯罪に他ならないこと及び65条の一見矛盾した取扱いの実質的根拠を明らかにしていないことが批判されています。

乙説は1項は真正及び不真正の両身分犯の成立に2項は不真正身分犯の科刑にそれぞれ適用されるとする見解です。正犯と共犯は常に同じ罪が成立するとすることで共犯従属性説を徹底することができ1項と2項の矛盾を解消できること及び1項の共犯とする及び2項の通常の刑を科するとの規定に素直な解釈であることを根拠とします。乙説に対しては犯罪の成立と科刑を分離するのは妥当ではないこと及び共犯が正犯の罪名にまで従属する必然性はないことが批判されています。

丙説は1項は違法身分の成立と科刑に2項は責任身分の成立と科刑にそれぞれ適用されるとする見解です。1項が連帯的取扱いをするのは共犯者間で連帯するはずの違法身分だからであり2項が個別的取扱いをするのは共犯者ごとの固有の問題である責任身分に関するものだからであること及び制限従属性説に合致することを根拠とします。丙説に対しては65条の文言に反すること及び違法身分と責任身分とを明確に区別することは困難であることが批判されています。

65条1項の共犯に共同正犯は含まれるか

65条1項にいう共犯に共同正犯も含むかそれとも狭義の共犯すなわち教唆犯及び幇助犯しか含まないかが問題となります。

判例は共犯には狭義の共犯のみならず共同正犯も含まれるとしています。非身分者であっても身分者と共同して身分犯の保護法益を侵害することは可能であること及び65条は60条とともに共犯の章にあり65条1項も単に共犯としていることから共同正犯も当然に含まれることを根拠とします。

不真正身分犯における身分者による非身分者への加功

不真正身分犯について身分者が非身分者の行為に加功した場合に65条2項が適用されるかが問題となります。

65条2項適用肯定説は65条2項は関与者それぞれの個別的事情に相応した犯罪を適用するための規定と解すべきであること及び身分を有する者にはその身分に応じて加重処罰を認めることが実質的に妥当であることを根拠として身分者には身分犯の教唆犯が成立するとします。肯定説に対しては正犯に身分犯についての構成要件該当性がないにもかかわらず共犯には身分犯の成立が認められているので正犯なき共犯を認めることになると批判されています。

65条2項適用否定説は共犯従属性の原則によれば共犯の罪名は正犯のそれに従属するから正犯者が非身分犯の正犯として処罰されるのであれば共犯者も非身分犯の共犯として処罰されるべきであること及び65条2項は身分のない者には通常の刑を科するとしているのであり身分のある者には身分犯の刑を科するとは規定していないことを根拠とします。

賭博罪の問題

賭博常習者でない者が賭博常習者に賭博を教唆した場合に65条が適用されるかすなわち常習賭博罪の常習性が65条にいう身分に当たるかが問題となります。

65条適用肯定説は判例の立場であり常習賭博罪の常習性は65条にいう不真正身分であるとして教唆者には65条2項により単純賭博罪の教唆犯が成立し単純賭博罪の刑で処断されるとします。

65条適用否定説は常習賭博罪の常習性は65条にいう身分ではないとして教唆者には単純賭博罪の教唆犯が成立するにとどまるとします。常習犯という身分は行為定型の要素ではなく行為者定型の要素であって厳密にいえば常習犯はあっても常習犯というものはないことを根拠とします。

横領罪の場合

業務性を欠き占有もない者が業務上横領罪に加功した場合に非身分者がいかなる取扱いを受けるかが問題となります。業務上横領罪は物の占有者という身分によって構成される横領罪が業務者という身分によって加重されている複合的性格を有しているので65条がいかに適用されるかが問題です。

非身分者を業務上横領罪の共犯として処罰する立場は業務上横領罪は非占有者との関係では真正身分犯であること及び物の非占有者は単独ではおよそ単純横領罪を犯しえないのでこうした者が業務上横領に関与した場合に通常の刑は存在しないことを根拠とします。この立場に対しては業務上占有者に単なる占有者が加功した場合には2項により単純横領罪で処罰されることと比べて不均衡であると批判されています。

非身分者を単純横領罪の共犯として処罰する立場のうち甲説は業務上横領罪は他人の物の占有者という真正身分と業務者という不真正身分の組み合わさった複合的身分犯であり真正身分たる占有者の限度で65条1項が適用され単純横領罪の共犯が成立するとします。

乙説は同様に複合的身分犯と捉えつつ65条1項は真正及び不真正身分犯の成立に適用され65条2項は不真正身分犯の科刑に適用されるとして65条1項により業務上横領罪の共犯が成立し同2項により単純横領罪の刑が科されるとします。

丙説は業務上横領罪は他人の物の占有者という違法身分と業務者という責任身分の組み合わさった複合的身分犯であり違法身分たる占有者の限度で65条1項が適用され単純横領罪の共犯が成立するとします。

判例は業務性を欠き占有もない者が業務上横領罪に加功した場合について65条1項により業務上横領罪の共同正犯が成立するが65条2項により通常の横領罪の刑を科すべきものであるとしています。その根拠として65条1項は真正身分犯について身分の連帯的作用を65条2項は不真正身分犯について身分の個別的作用を規定したものであり真正身分犯の共犯には65条1項が適用されること及び業務上横領罪は非占有者との関係では真正身分犯にほかならないが業務者ではない単なる占有者が業務上横領に加功した場合との刑の均衡を考慮する必要があることを挙げています。

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