違憲判決の効力に関する諸見解
最高裁判所が法律を違憲であると判断した場合に違憲とされた当該法律の効力がどうなるかという違憲判決の効力が問題となります。
個別的効力説は通説であり、最高裁判所が違憲と判断した法律の条項は当該訴訟事件についてのみ効力が否定されるにとどまり当該条項の存立や効力には影響がないとします。制定権者である国会が改廃措置を採ることによってはじめて法律は一般的かつ対世的に効力が否定されます。付随的審査制の下では具体的な争訟事件を解決するために法令の合憲性を判断するのであるから違憲判決の効力は通常の具体的な訴訟事件の裁判の場合と同じくその具体的事件についてのみ及ぶこと、一般的に法律の効力を失わせることは消極的立法作用を意味し国会を唯一の立法機関とする41条に反すること及び具体的な訴訟事件においてのみ違憲審査権が行使されると解しながらその判決の効力については一般的効力を認めるというのであればそのためには憲法に明文の規定が設けられていなければならないことがその根拠です。
一般的効力説は最高裁判所が違憲と判断した法律の条項はそれによって確定的かつ一般的に無効となり制定権者である国会の改廃措置をまたずに効力を失うとします。98条1項により憲法に反する法律は効力をもたず最高裁判所が違憲であると確認した法律は当然に無効となること、判決が個別的効力しか有しないとすると法律の一般的性格に反し法的安定性や予見可能性を欠き平等原則にも反することになるうえ裁判所が違憲と判断した法律についても内閣は誠実に執行すべき義務を負うという不合理な結果がもたらされること及び一般的効力の承認は必ずしも一種の立法作用になるとは限らないことがその根拠です。
法律委任説は個別的効力と一般的効力のいずれになるかは憲法からは一義的に明確には導き出すことができないため法律の定めるところに委ねられるとします。判決の効力は法治国家原則の手続的内容の問題にすぎないから憲法的に確定されるべきものではなく立法裁量に委ねられているとするのがその根拠です。
近時は個別的効力説と一般的効力説の接近化傾向がみられます。すなわち個別的効力説から当該法律規定については合憲性推定原則が排除されるとしたり法の支配の原則から国会における速やかな改廃措置や行政機関の執行差控えが当然に要求されているとして国会や行政機関を媒介とした間接的な一般的効力を認めようとしたりする立場があります。他方で一般的効力説からも一般的遡及効に関して一定の譲歩が行われるようになっています。
違憲審査権の法的性質と違憲判決の効力との関係
付随的審査制説に立つと具体的な争訟事件を解決するために法令の合憲性や違憲性を判断するのであるから通常は個別的効力説を採ることになります。抽象的審査制説に立つと具体的事件性を問題としないので違憲判決に一般的効力を認めるのが論理的といえます。
ただし付随的審査制を前提としながらも98条1項が憲法に反する法令は無効とし81条において最高裁判所がそのことを決定するとされていること等を理由に一般的効力説を採る立場もあります。また法律委任説を採る立場もあります。
法令の一部違憲と三権分立
法令の一部無効により残部の効力を拡張することは国会の立法権の侵害になるのではないかという問題があります。
国籍法違憲判決において判例は国籍法3条1項につき同項を全体として無効とすることなく過剰な要件を設けることにより差別を生じさせている部分のみを除いて合理的に解釈しました。この解釈をもって裁判所が法律にない新たな国籍取得の要件を創設するものであって国会の本来的な機能である立法作用を行うものとして許されないと評価することは国籍取得の要件に関する他の立法上の合理的な選択肢の存在の可能性を考慮したとしても当を得ないとされました。
これに対し非準正子が届出により日本国籍を取得できないのはこれを認める規定がないからであって国籍法3条1項の有無にかかわるものではないとする反対意見や多数意見の採用する解釈は法律にない新たな国籍取得の要件を創設するものであって実質的には司法による立法に等しいとする反対意見があります。
違憲判決の遡及効
最高裁判所の違憲判決は過去及び将来に対していかなる効力をもつかが問題となります。
個別的効力説を徹底すると法令違憲の判決の効力が当該事件を離れて当事者以外の者に遡及することはないようにも思えます。しかし個別的効力説から出発しつつ法令違憲の判決には他の国家機関に対する事実上の一般的効力が認められるとして実質的に一般的効力説に近いものを求めようとする通説的な見解に立てば遡及効の範囲の問題が生じます。遡及効の範囲の問題は法的安定性を確保する必要性と平等原則の要請とをどのようにして調和するかという問題です。
遡及効の範囲に関する学説としてはまず法令違憲の判決の効力は過去に向かって一般的に遡及するとするA説があります。次に事件当事者には法令違憲の判決の効力が及ぶが過去に向かって一般的には遡及しないとするB説があります。B説に立ちつつ国民の権利や自由の保護にとって必要とみなされる場合には違憲無効の効果が一般的に遡及することもありうるとしたうえで民事法や行政法の領域では一般的に遡及しないが刑事法の領域では原則として一般的に遡及するとする見解もあります。
婚外子差別規定違憲決定における遡及効
婚外子差別規定違憲決定において判例は憲法に違反する法律は原則として無効でありその法律に基づいてされた行為の効力も否定されるべきものであることからすると当該規定は本決定により遅くとも平成13年7月当時において14条1項に違反していたと判断される以上本決定の先例としての事実上の拘束性により上記当時以降は無効であることとなりまた当該規定に基づいてされた裁判や合意の効力等も否定されることになろうとしました。
しかしながら当該規定は国民生活や身分関係の基本法である民法の一部を構成し相続という日常的な現象を規律する規定であって平成13年7月から既に約12年もの期間が経過していることからするとその間に当該規定の合憲性を前提として多くの遺産の分割が行われ更にそれを基に新たな権利関係が形成される事態が広く生じてきていることが容易に推測されるとしました。そして本決定の違憲判断が先例としての事実上の拘束性という形で既に行われた遺産の分割等の効力にも影響しいわば解決済みの事案にも効果が及ぶとすることは著しく法的安定性を害することになるとしました。
以上の観点から既に関係者間において裁判や合意等により確定的なものとなったといえる法律関係までをも現時点で覆すことは相当ではないが関係者間の法律関係がそのような段階に至っていない事案であれば本決定により違憲無効とされた規定の適用を排除したうえで法律関係を確定的なものとするのが相当であるとされました。
本決定は違憲判断が一般的に遡及することを認めつつ著しく法的安定性を害する場合には違憲判断の遡及効の制限も認めている点で極めて大きな意義があるとされています。その理論的根拠については判例上特に判示されていませんが学説では違憲審査権には法的安定性が著しく害され社会生活上看過しがたい混乱が生じないように行使しなければならないという内在的制約があり遡及効の制限も違憲審査権に課せられた内在的制約から認められるとする見解や、98条1項は違憲の法律等について効力を有しないとする一方でどの限度で効力を有しないとするかについては憲法に何ら定めがなく81条が包括的に最高裁に違憲審査権を認めていることから違憲審査権に付随する権限として最高裁に違憲判断の遡及効の範囲に関する判断が委ねられているとする見解等があります。
違憲判決の効力と再審
郵便法の規定を根拠に請求が棄却された確定判決について後に最高裁で当該規定の違憲判決が出た場合に再審による救済が可能かが問題となった事件において判例は81条は法の執行機関に対し既存の法制度の枠内において違憲判断の趣旨に従って必要な対応を義務付けているものと解するのが相当であるとしました。そのうえで裁判所だけが違憲判断に対する対応に無関心でよいとすることはできないとして再審制度の規定の解釈を通じた対応が可能と解されるのであればその対応をとることが81条の趣旨に適うとしました。そして確定判決の根拠となった法律の規定が違憲判断によって通用力を失った場合と類似の場合について民事訴訟法が再審による救済を予定していたものとみることができるとして再審の訴えを提起することができるとしました。
将来効判決
将来効判決とは法律を違憲無効とは判断するが無効の効力の発生は将来の一定時期以降にするという判決方法をいいます。選挙無効請求の訴えにおいて再選挙を執行することが事実上不可能であることや事情判決を繰り返すことにより生じる弊害に対処しようとするものであり国会の立法措置を促す間接的効果が強いとされます。
行政事件訴訟法31条の定める事情判決の法理すなわち行政処分が違法であってもそれを取り消すことが公共の福祉に適合しないと認められるときに違法を宣言して請求を棄却する判決の法理を一般的な法の基本原則に基づくものとして適用した衆議院議員定数配分規定違憲判決は一種の将来効判決といえます。
なお最高裁判所の違憲判決の効力については法律上も規則上も規定がありません。しかし違憲判決がなされた場合の事務的処理に関しては最高裁判所事務処理規則14条において違憲判決要旨の官報による公告及び内閣への裁判書正本の送付が規定されており法律に対する違憲判決の場合は内閣のみならず国会にも裁判書正本が送付されます。
裁判公開の原則
82条1項は裁判の対審及び判決は公開法廷でこれを行うと定めています。裁判の公正とそれに対する国民の信頼を確保する趣旨であり国民の知る権利保障の観点からも重要な意義をもちます。ここにいう公開とは訴訟関係人に審理に立ち会う権利と機会を与えるといういわゆる当事者公開ではなく国民に公開されるという一般公開をいいます。具体的には国民一般の傍聴の自由及び裁判報道の自由を意味します。
傍聴の自由
裁判を公開するとは国民に裁判の傍聴を認めるということです。裁判の公開のために各裁判所の法廷には必ず傍聴席が設けられており国民はいつでも自由に裁判を傍聴できる建前になっています。
傍聴の自由については21条1項の知る権利を具体化したものであるなどとして具体的な権利性を認めるのが学説の大勢です。しかし判例は裁判の公開を制度的保障として捉え傍聴をその反射的利益にすぎないとみてその権利性を否定しています。
レペタ事件において判例は82条は裁判を一般に公開して裁判が公正に行われることを制度として保障するものであるが各人が裁判所に対して傍聴することを権利として要求できることまでを認めたものではなくまた傍聴人に対して法廷においてメモを取ることを権利として保障しているものでもないとしたうえでメモを取る自由には合理的な制限を加えることができるとしました。傍聴の自由の権利性を認める学説からはメモを取る自由に対する制限については目的と手段が厳格に審査されなければならないとの批判が加えられています。
また判例は82条は刑事確定訴訟記録の閲覧を権利として要求できることまでを認めたものでないとしています。
傍聴には諸種の制約が認められます。傍聴席の数は物理的に限られているため傍聴券を発行してその所持者に限り傍聴を許すことができます。また裁判長が法廷の秩序を維持するため必要と認めたときは一定の制約を加えることができます。
ビデオリンク方式と遮へい措置
ビデオリンク方式や遮へい措置を定めた刑事訴訟法の規定について判例はそれらの措置が採られても審理が公開されていることに変わりはないから82条1項及び37条1項に違反しないとしました。また遮へい措置が採られた場合でも被告人は証人の供述を聞くことができ自ら尋問することもでき弁護人による証人の供述態度等の観察は妨げられないのであるから被告人の証人審問権は侵害されていないとされました。さらにビデオリンク方式による場合も映像と音声の送受信を通じて証人の姿を見ながら供述を聞き自ら尋問することができるのであるから証人審問権は侵害されていないとされました。
裁判報道の自由
傍聴の自由は裁判についての報道の自由を含みます。ただし裁判報道の自由も法廷秩序の維持や訴訟当事者及び関係人の名誉保護の観点からの制約は免れません。刑事訴訟では写真撮影や録音及び放送について裁判所の許可を得なければなりません。民事訴訟では写真撮影、録音、録画、放送及び速記につき裁判長の許可を得なければなりません。
公開の範囲
82条1項によって公開を要するのは裁判の対審及び判決です。対審とは裁判官の目前で当事者が口頭でそれぞれの主張を述べることをいい民事訴訟における口頭弁論手続や刑事訴訟における公判手続を指します。判決とは原告又は検察官の申立てに対し対審に基づいて裁判所が与える終局的判断をいいます。
口頭弁論期日外に行われた本人への尋問の手続を非公開で行ったとしても裁判公開原則には反しません。また家庭裁判所における少年保護事件は刑事手続ではなく保護処分を行うものとして訴訟事件に属しないため審判を非公開とすることは裁判公開原則に反しません。
公開原則の例外
82条2項は対審のみについて公開原則の例外を定めています。裁判所が裁判官の全員一致で公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあると決した場合には対審は公開しないで行うことができます。ただし判決は常に公開されなければなりません。
絶対的公開
82条2項ただし書は対審の公開により公序良俗を害するおそれがあっても公開されなければならない場合を定めています。
政治犯罪については支配権力の秩序を侵害する犯罪には不公正な裁判が行われるおそれが特に強いため絶対的に公開されなければなりません。出版に関する犯罪については出版は表現の自由の重要な手段であるため特に公正な裁判を確保すべきことが要請されます。憲法第3章で保障する国民の権利が問題となっている事件については国民の憲法上の権利の重要性に鑑み特に裁判の公正を確保する必要が大きいため絶対的に公開されなければなりません。ここにいう国民の権利が問題となっている事件とは憲法が保障する国民の権利に対して法律が制限を加えておりその制限に違反したことが犯罪として問責されている刑事事件のことをいうと解されています。
公開を要する裁判の意義
82条で公開を要する裁判とは実体的権利義務の有無を争う性質上純然たる訴訟事件をいい家事審判手続や非訟事件は含まれません。
民事上の秩序罰としての過料を科する作用はその実質において一種の行政処分としての性質を有するものであるから法律上裁判所がこれを科することにしている場合でも公開の法廷における対審と判決によって行わなければならないものではなく非公開で過料の制裁を課したことは違憲ではないとされています。
裁判官の懲戒は裁判所が裁判という形式をとるが一般の公務員に対する懲戒と同様その実質においては裁判官に対する行政処分です。したがって純然たる訴訟事件の裁判には当たらないので懲戒の裁判を非公開にしても82条違反ではないとされています。
アプリの紹介
過去問を一文一問形式で解けるアプリを開発しました。
