事実の錯誤と法律の錯誤

事実の錯誤とは行為者が認識していた犯罪事実と現実に実現した犯罪事実との間に不一致があることをいいます。法律の錯誤とは犯罪事実は正しく認識しているが実現した事実に対する行為者の主観的な違法評価と客観的な違法評価との間に不一致があることをいい違法性の錯誤ともいいます。

すなわち事実の面での不一致が事実の錯誤であり犯罪事実は正しく認識したうえでその事実に対する評価の面での不一致が法律の錯誤です。事実の錯誤は自己の行為の違法性を意識し反対動機を形成する機会が与えられないので故意が阻却されることが多いのに対し法律の錯誤は事実を正しく認識しているので反対動機を形成する機会は十分に与えられており原則として故意は阻却されないという違いがあります。

構成要件的事実の錯誤の分類

具体的事実の錯誤とは事実とその認識との間の齟齬が同一構成要件内で生じている場合をいいます。抽象的事実の錯誤とは事実とその認識との間の齟齬が異なる構成要件にまたがって生じている場合をいいます。

事実の錯誤の態様

事実の錯誤は客体の錯誤、方法の錯誤及び因果関係の錯誤の3つの態様に分けられます。

客体の錯誤とは行為者が認識した客体に結果を発生させたがその客体は行為者の意図した客体ではなかった場合をいいます。方法の錯誤とは認識した客体と異なる客体に侵害が生じた場合をいいます。因果関係の錯誤とは認識した客体に侵害が生じたが因果経過が予見したものと異なる場合をいいます。

客体の錯誤

客体の錯誤の処理については具体的符合説と法定的符合説が対立しますがいずれの見解によっても結論は同じです。

具体的符合説からは行為者は狙ったその人を殺害する意思でその人を殺害したのであるから一定の具体性をもった殺害対象についての錯誤はないとして故意が認められます。法定的符合説からはおよそ人を殺そうとして人を死亡させており錯誤は構成要件の範囲内にとどまるとして故意が認められます。

したがって客体の錯誤の場合にはいずれの見解からも故意責任を問うことができます。

具体的事実の錯誤における学説の対立

具体的事実の錯誤の処理に関しては具体的符合説と法定的符合説が対立します。

具体的符合説は故意は構成要件該当事実の認識及び予見であるから存在する構成要件ごとにその存否を問題とすべきであるとし被害法益は重要な事実であるからそれが異なれば構成要件該当事実も異なるとする見解です。具体的符合説に対しては軽微な錯誤までもいちいち問題とするため故意を認める範囲が狭すぎ実際に適合しないこと、故意の阻却の可否につき結論を異にする客体の錯誤と方法の錯誤を区別するのは実質上困難であること及び未遂処罰や過失処罰の規定を欠く犯罪類型の場合に刑の不均衡が生じることが批判されています。

法定的符合説は法定的構成要件のうえで同一の評価を受ける事実を認識すれば行為者は規範の問題に直面するとし行為者の認識した内容と現実に発生した事実とが構成要件の範囲内で一致する限り故意は阻却しないとする見解です。法定的符合説はさらに数故意犯説と一故意犯説に分かれます。

数故意犯説は判例の立場であり認識した事実と発生した事実のそれぞれについて故意犯の成立を認める見解です。数故意犯説は刑法が観念的競合を科刑上一罪としているのは一罪の意思をもってした場合にも数罪の成立を認める趣旨を含むものであるとしています。数故意犯説に対しては行為者に1個の故意しかないのに2個の故意犯の成立を認めることは故意の無限定の拡大を認めることになり責任主義に反すること及び観念的競合は故意犯か過失犯かが決まった後に科刑上一罪として取り扱うものであるから観念的競合となることを理由に故意犯の成立を認めるのは本末転倒であることが批判されています。

一故意犯説は故意行為が予想通り実現された場合以上の故意犯の成立を認めるべきではないとする見解です。一故意犯説に対しては事後の事実の変化により故意の有無が変わることになるのは不当であることが批判されています。

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