不能犯の意義

不能犯とは行為者の認識においては実行の着手があり未遂犯が成立するようにみえるが結果発生が不可能なので未遂犯の成立に必要な危険性が認められないため未遂犯が成立しないことをいいます。

不能犯の種類

方法の不能とは方法が性質上結果を発生させることの不可能な場合をいいます。

客体の不能とは行為の客体が存在しないために結果の発生が不可能な場合をいいます。

主体の不能とは行為の主体を欠くために結果の発生が不可能な場合をいいます。

不能犯と未遂犯の区別

不能犯は犯罪の完成に至るべき危険性を含まない行為であるために不可罰とされます。そこでいかなる場合に危険性がないといえるのか可罰的な未遂との区別基準が問題となります。

具体的危険説

具体的危険説は行為時に一般人が認識し得た事実及び行為者が特に認識していた事実を基礎に一般人の危険感を基準に危険性の有無を判断する見解です。

行為無価値論によれば違法性の本質は行為が社会倫理規範に違反することであるので違法かどうかは行為時における一般人の立場から判断されるところ未遂犯の違法性を基礎づける危険性の有無の判断についてもその行為時における一般人の立場からなされるべきであること及び行為無価値論の立場からは違法性を判断する際に行為者の主観的事情を考慮するので行為者が特に認識していた事実も考慮に入れることができることを根拠とします。

具体的危険説に対しては危険性の基礎となる事実が過度に抽象化されてしまい現実的危険性が認められない場合にまで未遂犯の成立が肯定されてしまうこと、一般人の危険感という基準が曖昧であること及び行為者の認識により危険性の有無が異なるのは妥当ではないことが批判されています。

客観的危険説

客観的危険説は行為時に存在した全ての事実を基礎に科学的見地から危険性の有無を判断する見解です。行為後に判明した事実も含めて判断します。

結果無価値論によれば違法性の本質は法益侵害又はその危険を惹起したことであるので客観的に存在した全事情を基礎として科学的な事後判断により違法かどうかが判断されるところ未遂犯の違法性を基礎づける危険性についても科学的な事後判断がなされるべきであることを根拠とします。

客観的危険説に対しては客観的に存在した全事情を基礎として科学的な事後判断を行うと結果の不発生はいわば必然であり未遂犯の全てが不能犯となってしまい未遂犯の処罰がありえなくなる点で43条に抵触すると批判されています。

修正された客観的危険説

修正された客観的危険説は結果が発生しなかった原因を解明しどのような事実があれば結果が発生し得たかを科学的に明らかにしたうえで結果の発生をもたらす仮定的事実が存在し得たかを一般人の立場から事後的に判断した結果仮定的事実が存在し得たと一般人が判断する場合には危険性があるとする見解です。

科学的な事後判断を行うと未遂犯は全て不能犯になってしまう点で未遂処罰規定である43条と抵触することから事実をある程度抽象化する必要性が生じたことを根拠とします。

修正された客観的危険説に対しては結果発生の現実的危険性は構成要件該当性の問題として社会一般の目から見た類型的な危険性を意味するというべきであり科学的な危険性を中心に考えるのは不当であると批判されています。

各学説の整理

各学説の判断方法を整理すると具体的危険説は判断資料として一般人が認識し得た事実と行為者が認識していた事実を用い行為時に一般人の立場から判断します。客観的危険説は判断資料として行為後の事情を含めた客観的全事情を用い事後的に科学的見地から判断します。修正された客観的危険説は判断資料として行為時に存在した客観的全事情を用い行為時に裁判官が科学的一般人の視点で判断します。

判例の立場

判例の立場は必ずしも明らかではありませんが結果が発生する可能性を科学的に分析しそれが絶対に発生しない場合すなわち絶対不能か結果発生が相対的に不能であった場合すなわち相対不能かという基準によって未遂犯の成否を判断しているとする学説があります。

不能犯とされた判例

判例は硫黄の粉末を飲食物に混入して人に服用させて毒殺しようとした事案について硫黄粉末で人を殺すことは絶対に不能であるとして殺人未遂罪の成立を否定し傷害罪の成立を認めています。具体的危険説の立場から一般人の危険感を基準とすると硫黄の粉末を飲食物に混入して人に服用させる行為は一般的に危険だと判断されるはずであるので殺人未遂罪の成立が肯定されうるが判例はこれを否定しているので修正された客観的危険説の立場に親和的であるとされています。

未遂犯とされた判例

判例は殺害目的で致死量以下の空気の静脈注射をすれば被注射者の身体的条件その他の事情の如何によっては死の結果発生の危険が絶対にないとはいえないから不能犯とはいえず殺人未遂罪が成立するとしています。

裁判例は既に銃撃を受けて倒れていた者にとどめを刺そうと思い日本刀を突き刺した事案について被害者が突き刺した時点で医学的には既に死亡していたとしても犯人だけでなく一般人もその当時死亡の事実を知り得なかったことからすれば加害行為により被害者が死亡するであろうとの危険を感ずるので不能犯とはいえず殺人未遂罪が成立するとしています。

また裁判例は被告人が室内に充満させた都市ガスは人体に無害であるがガス爆発事故や酸素欠乏症により人の死の結果発生の危険が生じうるものであること及び社会通念上は人を死に致すに足りる危険な行為であると評価されていることから不能犯とはいえず殺人未遂罪が成立するとしています。

振り込め詐欺と不能犯

裁判例は振り込め詐欺において被害者が騙された振り作戦を展開した後に共犯関係に入った者の詐欺罪の成否が問題となった事案について不能犯の考え方は単独犯だけでなく共犯の場合にも同じような判断方法を用いることが肯定されるとしています。そして実際には結果発生が不可能であっても行為時の結果発生の可能性の判断に当たっては一般人が認識し得た事情及び行為者が特に認識していた事情を基礎とすべきであるとし被害者が警察に相談して模擬現金入りの荷物を発送したという事実は行為者らは認識していなかったし一般人が認識し得たともいえないからこの事実は詐欺既遂の結果発生の現実的危険の有無の判断に当たっての基礎事情とすることはできないとしています。

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