横領の意義
横領の意義については越権行為説と領得行為説の対立があります。越権行為説は信義誠実違背の側面を重視し受託者が委託の趣旨に反し占有物に対しその権限を越えた行為をすれば全て横領となるとします。領得行為説は財産権侵害の側面を重視し不法領得の意思を発現する行為であるとします。判例及び通説は領得行為説に立っています。
不法領得の意思の内容
領得行為説からは不法領得の意思が必要とされます。判例は横領罪における不法領得の意思を他人の物の占有者が委託の任務に背いてその物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思と定義しています。
これに対し横領罪は単なる毀棄罪ではなく利欲犯であるとの立場から利用処分意思を要件とすべきであるとして他人の物の占有者が委託の趣旨に背いてその物につき権限がないのにその物の経済的用法に従って所有者でなければできないような処分をする意思と定義する見解もあります。
毀棄及び隠匿行為と横領
判例の立場からは毀棄や隠匿行為はまさに所有者でなければできない行為であるといえるから横領罪の成立が肯定されます。
一時使用と横領
判例の立場からは自己の占有する他人の物を一時的に使用する場合についてはそれが所有者の許容する態様や程度を大きく超えない限り所有者でなければできないような処分をする意思を欠き横領罪の成立は否定されます。
本人のためにする越権行為
判例の立場からは専ら本人のためにする意思であった場合には自己の所有物であるかのように処分する意思はないため不法領得の意思を欠き横領罪の成立は否定されます。もっとも会社を防衛するために違法な支出をしさらにその問題化を防ぐ目的で自らの保身を図る意図を含みつつ違法な支出を続けた場合には専ら本人のためにする意思はなかったとして不法領得の意思を肯定し業務上横領罪の成立を認めた判例があります。この事案では違法目的であることから直ちに本人のためにする意思が否定されるかどうかについても問題とされましたが行為の客観的性質の問題と行為者の主観の問題は別異のものであるとしてこれを否定しています。
第三者に取得させる意思
自ら取得する場合のみならず第三者に取得させる意思も不法領得の意思に含まれます。
横領行為の具体例
判例が認めた横領行為の態様としては売却、贈与、交換、質入、抵当権の設定、譲渡担保の設定、毀棄や隠匿などがあります。
占有する他人の物の売却を第三者に持ちかけた場合にはその時点で不法領得の意思が外部的に発現したといえるから相手方が買受けの意思表示をしなくても横領罪が成立します。
返還する意思を失い返還期日経過後も継続して物を使用し所有者から強く要求されたにもかかわらず返還を拒否して使用し続けた場合にも横領罪が成立します。一方で借り受けた物を過失により滅失させそのまま放置した場合には横領罪は成立しません。
集金業務に従事する者が横領した金銭の穴を埋めるために自己が占有する金銭を順次充当するいわゆる穴埋め横領の場合にも充当される金銭についても横領罪が成立します。
委託を受けた不動産に不実の仮登記を経由した場合にも仮登記に基づいて本登記を経由することによって仮登記の後に登記された権利の変動に対し当該仮登記に係る権利を優先して主張することができるようになるので不法領得の意思を実現する行為として十分であり横領罪が成立するとされています。
不動産の二重譲渡と横領
不動産の二重譲渡とは売主がいったん不動産を第1の買主に売却した後所有権移転登記がまだ完了していないのを奇貨としてさらに第2の買主にその不動産を売却することをいいます。
売主に横領罪が成立するためには第1売買の買主に保護されるべき所有権の実質が存在することが必要であり代金の完済又は大部分の支払が済んでいることが必要です。売主には法律上の支配としての占有が登記名義によって認められ売買契約上の移転登記協力義務及び保管義務に基づき委託信任関係が認められます。売主の第2の買主に対する譲渡は第1の買主に対する委託の趣旨に反し所有者でなければできない処分行為にあたるので横領行為にあたります。所有権移転登記がなされた段階で既遂となりこのことは第2の買主が第1の買主に対して所有権を対抗することができるか否かによる影響を受けません。
売主が当初から二重譲渡をする意思であった場合には取得した売買代金について第1の買主に対する詐欺罪が成立すると解されています。一方で第2の買主に対する詐欺罪については第2の買主が第1売買の事実を知っていれば目的物を購入することは絶対になかったという特段の事情がない限り詐欺罪の成立を否定すべきであると解されています。第2の買主は対抗要件を具備することにより所有権を取得できる以上詐欺罪の要件である錯誤及びそれに向けた欺罔行為が認められないからです。
第2の買主が二重譲渡について善意である場合は横領罪の故意がない以上横領罪の共犯が成立する余地はありません。第2の買主が単純悪意者にとどまる場合には判例は横領罪の共犯は成立しないとしています。民法177条によれば不動産登記を取得した第2の買主が単純悪意者にとどまる場合には自由競争の原理からその所有権を第1の買主に対抗できる以上有効に所有権を取得できるという意味において民法上許容された行為を刑法上処罰するのは刑法の謙抑性に反するからです。他方で第2の買主が背信的悪意者である場合には横領罪の共犯が成立するとされています。背信的悪意者は民法177条の第三者にあたらず民法上所有権を対抗できる地位にないので第2の買主を不処罰とすべき理由はないからです。
横領後の横領
委託を受けて他人の不動産を占有していた者がほしいままに当該不動産に抵当権を設定してその旨の登記をした後当該不動産を売却するなどして所有権移転行為を行いその旨の登記をした場合について先行の抵当権設定行為により横領罪が成立した後の所有権移転行為の構成要件該当性が問題となります。
判例は委託を受けて他人の不動産を占有する者がこれにほしいままに抵当権を設定してその旨の登記を了した後においてもその不動産は他人の物であり受託者がこれを占有していることに変わりはなく委託信任関係は未だ存続しているとしています。そして受託者がその後その不動産につきほしいままに売却等による所有権移転行為を行いその旨の登記を了したときは委託の任務に背いてその物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をしたものにほかならないとして後行の所有権移転行為についても横領罪の構成要件該当性を肯定しています。
また先行の抵当権設定行為が存在することは後行の所有権移転行為について犯罪の成立自体を妨げる事情にはならないとして不可罰的事後行為の論理を否定しています。
罪数については多数説は被害客体と委託関係の同一性及び1個の物は1回しか領得できないという横領罪の罪質の特殊性などを根拠に2個の横領を包括一罪とします。
委託物が金銭の場合の他人性
金銭については所有と占有とは常に一致するのが民法上の原則です。そこで委託物が金銭であった場合には金銭の所有権が委託を受けた者に移転する結果金銭の他人性が否定されて横領罪が成立しないのではないかが問題となります。
判例は使途を定めて寄託された金銭の受託者は特別の事情のない限り他人の物を占有する者と解すべきであるとしています。他人の物にあたる場合としては使途を定めて寄託された金銭、債権の取立てを委任された者が取立受領をした金銭及び物品販売ないし売却依頼を受けた者が代金として受領した金銭があります。一方で銀行預金契約のような消費寄託契約に基づいて寄託された金銭は消費寄託契約はその性質上寄託された金銭を消費することが許されるため他人の物にはあたりません。
金銭の一時流用
他人から使途を定めて寄託された不特定物としての金銭を後に補填する意思で一時的に流用した場合に横領罪が成立するかが問題となります。
判例は不法領得の意思は必ずしも占有者が自己の利益の取得を意図することを要するものではないので後日に補填する意思があったとしても横領罪が成立するとしています。他方で学説上は確実な補填の意思と能力がある場合には不法領得の意思が認められないとして横領罪の成立を否定する見解や価値としての金銭に対する所有権を侵害したとはいえない以上領得行為にはあたらないことを理由として横領罪の成立を否定する見解があります。
不法原因給付と横領罪
民法708条は不法原因給付をした者にその給付物の返還請求権を認めていません。そこで不法原因給付物が他人の物にあたるかが問題となります。
判例は賄賂のための資金を費消したという事案において横領罪の成立を認めています。判例の結論を支持する見解は所有権者でなくても他人からの委託信任関係それ自体を保護すべきであるので他人は所有権者でなくてもよいこと及び使途を定めて委託された金銭の所有権は受託者に移転しないからたとえ使途も不法な目的であってもその金銭の所有権は委託者にあることを理由として横領罪の成立を認めています。これに対しては受託者が民法708条に基づいて委託者からの返還請求を拒む行為にも横領罪が成立することになりかねず刑法の謙抑性に反するとの批判がなされています。
一方で後の民事判例は民法708条が不法原因給付物について給付者の返還請求権を認めていないことの反射的効果として不法原因給付物の所有権は受託者にあるとしていることから不法原因給付物は他人の物にはあたらずこれを領得しても横領罪は成立しないとの見解が現在の多数説とされています。もっともこの見解に立っても民法708条ただし書にあたる場合や受益者の不法性と比べて給付者の不法性が小さい場合には同条本文の適用はなく所有権はなお委託者にあるからその限りで横領罪が成立します。
盗品の保管又は売却の委託と横領
盗品の保管を委託された者がその盗品を領得した場合について盗品であることの情を知っていたときは盗品等保管罪が成立します。盗品の保管が盗品等保管罪を構成する以上その委託は保護に値しないので委託信任関係が否定される結果遺失物等横領罪が成立しうるもののより重い盗品等保管罪のみが成立すると解する見解が有力です。判例も窃盗犯人は所有者ではなく不法原因給付として返還請求権を有しないから横領罪は成立しないとしています。
盗品であることを知らずに保管を委託された者がその盗品を領得した場合については盗品の保管の委託は保護に値しないとして横領罪の成立を否定する見解が有力に主張される一方たとえ窃盗犯人からの委託信任関係であっても保護すべきであるとして横領罪の成立を肯定する見解が対立しています。判例はこのような事案において横領罪の成立を認めています。
盗品の売却を委託された者がその売却代金を領得した場合については委託された行為に基づいて取得した金銭の所有権は委託者に帰属しますが盗品の処分に関する委託は違法行為の委託である以上保護に値しないとして横領罪の成立を否定する見解が有力に主張される一方たとえ窃盗犯人からの委託信任関係であっても保護すべきであるとして横領罪の成立を肯定する見解が対立しています。判例は盗品等有償処分あっせん罪と横領罪の併合罪が成立するとしています。
横領罪の身分犯性
横領罪は真正身分犯です。本罪の主体は他人の物を占有する者又は公務所の命令によって物を保管する者でなければならないからです。
横領行為と詐欺的手段
横領行為を実現する手段として詐欺的手段を用いた場合の取扱いについては争いがありますが当該手段は横領行為を完成させる手段にすぎずかつ詐欺罪における財産的処分行為も認められないことを理由に横領罪の成立のみを認めるのが通説です。
また会社から集金業務を委託された者が自己の用途に費消し会社に入金するつもりがないのにこれを秘して集金しても当該集金は会社に対して有効な支払となりこれを費消した場合には業務上横領罪が成立し集金行為は詐欺罪にあたらないとされています。
質物の返還と横領
質権者から質物の保管を委託された者がこれを質権者に無断で所有者に返還した場合には所有権の侵害にあたらないから背任罪は格別横領罪は成立しないとされています。
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