選挙運動の自由の意義
自由選挙の原則には、選挙人が自らの意思に基づいて候補者や政党等に投票する自由すなわち自由投票と、候補者や市民が選挙運動を行う自由すなわち選挙運動の自由の2つがあるとされています。
選挙運動は表現活動の一形態として21条1項により保障されていると解するのが判例及び通説です。そして選挙運動は民主主義制度の根幹に関わる活動であり、本来最も自由が尊重されるべき表現活動といえます。しかし、公職選挙法は選挙運動に対して広く制約を課しており、判例も選挙の公正を重視し一貫して合憲判断を下しています。
文書・図画の頒布等の禁止
公職選挙法は選挙期間中の文書や図画の頒布等を禁止しています。この規定が憲法21条1項に反しないかについて、判例は、公職の選挙につき文書図画の無制限の頒布や掲示を認めるときは選挙運動に不当の競争を招き、これがため却って選挙の自由公正を害しその公明を保持し難い結果を来たすおそれがあると認めて、かかる弊害を防止するため選挙運動期間中を限り文書図画の頒布や掲示につき一定の規制をしたのであって、この程度の規制は公共の福祉のため憲法上許された必要かつ合理的な制限と解することができるとして合憲判断を示しました。
事前運動の禁止
公職選挙法は選挙運動期間を法定した上で、選挙運動は公職の候補者の届出のあった日から当該選挙の期日の前日まででなければすることができないと定めて一切の事前運動を禁止しています。
この規定について、判例は、公職の選挙につき常時選挙運動を行なうことを許容するときはその間不当で無用な競争を招き選挙の公正を害するにいたるおそれがあるのみならず徒らに経費や労力がかさみ経済力の差による不公平が生ずる結果となりひいては選挙の腐敗をも招来するおそれがあるとし、このような弊害を防止して選挙の公正を確保するために選挙運動をすることができる期間を規制し事前運動を禁止することは憲法の保障する表現の自由に対し許された必要かつ合理的な制限であるとして合憲判断を示しました。
戸別訪問の禁止
公職選挙法は何人も選挙に関し投票を得若しくは得しめ又は得しめない目的をもって戸別訪問をすることができないと定めて全ての者に対して戸別訪問を禁止しています。
判例は、戸別訪問の禁止は意見表明そのものの制約を目的とするものではなく意見表明の手段方法のもたらす弊害、すなわち戸別訪問が買収や利害誘導等の温床になりやすく選挙人の生活の平穏を害するほかこれが放任されれば候補者側も訪問回数等を競う煩に耐えられなくなる上に多額の出費を余儀なくされ投票も情実に支配されやすくなるなどの弊害を防止しもって選挙の自由と公正を確保することを目的としているとしました。この目的は正当でありそれらの弊害を総体としてみるときには戸別訪問を一律に禁止することと禁止目的との間に合理的な関連性があるとしました。
そして、戸別訪問の禁止によって失われる利益はそれにより戸別訪問という手段方法による意見表明の自由が制約されることではあるがそれはもとより戸別訪問以外の手段方法による意見表明の自由を制約するものではなく単に手段方法の禁止に伴う限度での間接的かつ付随的な制約にすぎない反面、禁止により得られる利益は戸別訪問という手段方法のもたらす弊害を防止することによる選挙の自由と公正の確保であるから得られる利益は失われる利益に比してはるかに大きいとしました。したがって、戸別訪問を一律に禁止する規定は合理的で必要やむを得ない限度を超えるものとは認められず憲法21条に違反するものではないとしました。
選挙ルール論
戸別訪問禁止を合憲とした判例の補足意見は、いわゆる選挙ルール論と呼ばれる考え方を述べています。すなわち、選挙運動においては各候補者のもつ政治的意見が選挙人に対して自由に提示されなければならないのではあるが、それはあらゆる言論が必要最少限度の制約のもとに自由に競いあう場ではなく各候補者は選挙の公正を確保するために定められたルールに従って運動するものと考えるべきであるとし、法の定めたルールを各候補者が守ることによって公正な選挙が行われるとしました。そして、このルールの内容をどのようなものとするかについては立法政策に委ねられている範囲が広いとし、憲法47条の規定は選挙運動のルールについて国会の立法の裁量の余地の広いという趣旨を含んでいるため、戸別訪問の禁止は立法の裁量権の範囲を逸脱し憲法に違反すると判断すべきものとは考えられないとしました。
もっとも、選挙ルール論に対しては、そもそも選挙運動の自由を立法者の制度形成に依存する権利とみるべきかは疑問であるとの批判や、47条から直ちに広い立法裁量を導くことはできないとの批判がなされています。
候補者届出政党と政見放送
公職選挙法は候補者届出政党はテレビで政見放送を放送でき各候補者を紹介できるのに対し、候補者届出政党に所属しない小選挙区候補者に政見放送を認めないと定めています。
判例は、選挙制度の仕組みの具体的決定は国会の広い裁量にゆだねられており選挙運動をいかなる者にいかなる態様で認めるかは選挙制度の仕組みの一部を成すとした上で、衆議院小選挙区選挙について候補者届出政党にのみ政見放送を認め候補者を含むそれ以外の者には政見放送を認めないものとした規定は政見放送という手段に限ってみれば候補者届出政党に所属する候補者とこれに所属しない候補者との間に単なる程度の違いを超える差異を設ける結果となるものではあるが、政見放送は選挙運動の一部を成すにすぎずその余の選挙運動については候補者届出政党に所属しない候補者も十分に行うことができるのであってその政見等を選挙人に訴えるのに不十分とはいえないことに照らせば、政見放送が認められないことの一事をもって選挙運動に関する規定における候補者間の差異が合理性を有するとは到底考えられない程度に達しているとまではいえず国会の合理的裁量の限界を超えているということはできないため憲法14条1項に違反するとはいえないとしました。
報道・評論の規制
公職選挙法は選挙運動の期間中及び選挙の当日に限り選挙に関する報道や評論の自由が認められる新聞紙又は雑誌に一定以上の頻度での発行などの要件を課しており、不定期に無償頒布される新聞紙や雑誌による選挙に関する報道や論評を規制するものといえます。
判例は、この規定は選挙目当ての新聞紙や雑誌が選挙の公正を害し特定の候補者と結びつく弊害を除去するためやむを得ず設けられた規定であって公正な選挙を確保するために脱法行為を防止する趣旨のものであるとし、かかる立法の趣旨や目的からすると罰則規定にいう報道又は評論とは当該選挙に関する一切の報道や評論を指すのではなく特定の候補者の得票について有利又は不利に働くおそれがある報道や評論をいうとして合憲限定解釈しました。その上で、この規定の構成要件に形式的に該当する場合であっても、もしその新聞紙や雑誌が真に公正な報道や評論を掲載したものであればその行為の違法性が阻却されるとして個別的に違法性を阻却する可能性を認め、この規定は憲法21条1項に違反しないとしました。
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