法治主義
法治主義の意義
法治主義とは、司法は独立した裁判所により法律を適用して行われ、行政は法律に基づき法律を適用して行われるという原理です。大陸法系の国で発達しました。国民の権利や自由の保障を目的としているという点では、法の支配と共通しています。
法治主義の分類
法治主義には3つの類型があります。
第一に、本来的意味の法治主義があります。これは19世紀のフランスで発達したもので、国民の権利を奪い義務を課す場合には法律上の根拠が必要であるということを意味します。この考え方は権力分立を前提としています。
第二に、形式的法治主義があります。これは19世紀後半のドイツや日本で採用されたものです。形式的法治主義のもとでは、法治国家とは「法律による行政」が実現された国家のことですが、法律が自由を保障する内容を伴っているかどうかは法治国家の問題ではないと考えます。つまり、法律さえあれば国民の権利を自由に制限することも可能となります。
第三に、実質的法治主義があります。これは現在のドイツで採用されているものです。実質的法治主義は、形式的法治主義とは異なり、法律が自由を保障する内容をも伴っていなければならないと考えます。形式的には法治国家の統治原理を維持しつつも、法律の内容の正当性を要求し、不当な内容の法律を憲法に照らして排除するという憲法裁判所型の違憲審査制が採用されています。この実質的法治主義は、法の支配の原理とほぼ同じ意味を持つものと解されています。
法の支配
法の支配の歴史と意義
法の支配は、17世紀前半のイギリスにおける絶対王政への抵抗を通じて確立したものとされています。17世紀のイギリスでは、国会と国王との抗争を経て、国会が主権を有するという議会主権の原理が確立しました。
ここでいう「議会主権」は無限定な立法権を主張するものであったため、議会と裁判所との関係では議会が上に立ち、制定法が判例法すなわちコモン・ローに優位するとされました。そのため、議会主権は理論的には法の支配と緊張関係にあるものとされていました。
その後、「法」とは自由を保護する規範であると理解されるようになり、20世紀までにイギリスで成立した法の支配は、制定法とコモン・ローを中心とした「正規の法」による支配を意味するものとされました。憲法学者ダイシーは法の支配の内容について、政府は恣意的に権限を行使してはならず判例法を含む「正規の法」に拘束されること、行政権も一般人と同じ法に服し通常の裁判所の管轄権に服すること、憲法の原則としての人々の権利の保障は裁判所が現実に法を適用してなされた判決の結果であること、の3点に整理しています。
このように、法の支配とは、「人による支配」すなわち専断的な国家権力の支配を排斥し、権力を「法」で拘束することによって国民の権利や自由を保障することを目的とする原理です。
法の支配の内容
法の支配の内容としては4つの要素が挙げられます。
第一に、個人の人権保障です。法の支配を採用した目的は、国家権力の権限濫用から国民を守り、個人の尊厳を確保することにあります。
第二に、憲法の最高法規性の承認です。憲法は行政権のみならず立法権をも拘束します。仮に憲法に優先する法が認められるならば、憲法による支配を行うことができなくなるからです。
第三に、適正手続の保障です。法の支配は手続の適正を要求します。
第四に、裁判所の役割の重視です。憲法の最高法規性を担保するために、裁判所の役割が重視されます。行政が法律に従っているかどうかは、イギリスでもアメリカでも裁判所がチェックします。一方、議会が正しい法に従っているかどうかについては、イギリスでは議会自らがチェックするのに対し、法の支配をより徹底したアメリカでは裁判所がチェックする仕組みとなっています。
法の支配と法治主義の比較
大陸法系と英米法系では、法の支配と法治主義の在り方に違いがあります。
大陸法系のドイツやフランスでは、議会への信頼を背景として法治主義が発達しました。近代立憲主義のもとでは、法は行政権と司法権を拘束するものの議会は拘束しないとされ、法の内容の適正は問われませんでした。これが形式的法治主義です。現代では、ドイツでは憲法裁判所が、フランスでは憲法院が法律の内容の適正性を判断する実質的法治主義へと移行しています。
英米法系のイギリスやアメリカでは、裁判所への信頼を背景として法の支配が発達しました。法は行政権のみならず議会をも拘束し、法の内容の適正が要求されます。行政権に対しては裁判所がチェックを行いますが、立法権に対するチェックの在り方には違いがあります。イギリスでは議会自身がチェックを行うため法の支配という点ではやや不徹底ですが、アメリカでは裁判所が違憲法令審査権を行使するため、法の支配が徹底されています。
日本国憲法における法の支配
日本国憲法における法の支配は、「正しい法=憲法」、すなわち「法の支配=憲法による支配」を意味します。日本国憲法には法の支配の具体的な現れが複数見られます。
まず、個人の人権保障です。国政における人権の尊重とその強度の保障は法の支配の核心です。国家権力の行使を抑制する機能を持つ個人の自由権を中心に据えた人権規定の構造は、自由主義を前提とした法の支配の理念の存在を示しています。また、人権保障規定は「法律の留保」を認めず、立法権をも拘束します。なお、「法律の留保」という言葉には2つの意味があります。本来的意味では、行政権は国民代表議会の立法権に基づく法律に基づかなければ国民の権利を制限できないことを意味します。形式的意味では、立法権は法律によりさえすれば国民の権利や自由を制限できることを意味します。日本国憲法は、この形式的意味の「法律の留保」を否定しています。
次に、憲法の最高法規性の承認です。97条は憲法の実質的最高法規性を定め、基本的人権の永久性と不可侵性を確認するものであり、法の支配の核心です。98条1項は憲法の形式的最高法規性を定め、憲法に反するすべての国家行為を無効とし、権力作用がすべて憲法に従うべきことを示しています。これは法優位の思想を基礎としています。99条は憲法尊重擁護義務を定め、国家権力の行使者が憲法に従うべき義務を持つこと、法の支配の名宛人は権力行使者すなわち統治者であることを示しています。
さらに、適正手続の保障があります。31条は、規制が適正な手続のもとに行われること、特に司法手続としての刑事手続が適正であることを要請しています。現代においては行政手続にも適正手続の保障が及ぼされるべきとされています。また、法の規制の実体が適正であるという法の内容の適正も憲法上の要請です。
最後に、裁判所の役割の重視があります。司法権は、民事や刑事の裁判のほか行政事件を含むあらゆる種類の「法律上の争訟」を裁判する権限を持ちます。特別裁判所の禁止や行政機関による終審裁判の禁止、裁判所の規則制定権、裁判官の懲戒処分に立法機関や行政機関が関与しないことなどの規定により、裁判所の役割が重視されています。とりわけ81条の違憲審査権は、法の支配の最も徹底した表現です。
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