小売市場事件
小売市場事件は、小売市場と小売市場の間に適当な距離を置かなければならない旨定めている法律の規定に反し起訴された者が、同法の距離制限は営業の自由を侵害すると争った事案です。
最高裁は、個人の経済活動に対する法的規制は、個人の自由な経済活動からもたらされる諸々の弊害が社会公共の安全と秩序の維持の見地から看過することができないような場合に消極的にかような弊害を除去ないし緩和するために必要かつ合理的な規制である限りにおいて許されるべきことはいうまでもないとしました。のみならず、憲法は全体として福祉国家的理想のもとに社会経済の均衡のとれた調和的発展を企図しており、その見地からすべての国民にいわゆる生存権を保障しその一環として国民の勤労権を保障する等経済的劣位に立つ者に対する適切な保護政策を要請していることは明らかであるとしました。
このような点を総合的に考察すると、憲法は国の責務として積極的な社会経済政策の実施を予定しているものということができ、個人の経済活動の自由に関する限り個人の精神的自由等に関する場合と異なって社会経済政策の実施の一手段としてこれに一定の合理的規制措置を講ずることはもともと憲法が予定しかつ許容するところと解するのが相当であるとしました。
そして、法的規制措置の必要の有無や法的規制措置の対象・手段・態様などを判断するにあたっては、相互に関連する諸条件についての適正な評価と判断が必要であり、このような評価と判断の機能はまさに立法府の使命とするところであるとしました。よって、個人の経済活動に対する法的規制措置については、立法府の政策的技術的な裁量に委ねるほかはなく、裁判所は立法府の裁量的判断を尊重するのを建前とし、ただ立法府がその裁量権を逸脱し当該法的規制措置が著しく不合理であることの明白である場合に限ってこれを違憲としてその効力を否定することができるものと解するのが相当であるとしたのです。これが「明白性の原則」です。
薬事法違憲判決の事案
薬事法違憲判決は、薬局を開設しようとした者が知事に開設の申請を行ったところ薬局開設の距離制限規定に抵触するとして不許可処分を受けたのでその取消しを求めた事案です。
薬事法違憲判決の判旨
最高裁は、職業は本質的に社会的な、しかも主として経済的な活動であってその性質上社会的相互関連性が大きいものであるから、職業の自由はそれ以外の憲法の保障する自由殊にいわゆる精神的自由に比較して公権力による規制の要請がつよいとしました。職業はそれ自身のうちになんらかの制約の必要性が内在する社会的活動であるが、その種類、性質、内容、社会的意義及び影響がきわめて多種多様であるため、その規制を要求する社会的理由ないし目的も、国民経済の円滑な発展や社会公共の便宜の促進、経済的弱者の保護等の社会政策及び経済政策上の積極的なものから、社会生活における安全の保障や秩序の維持等の消極的なものに至るまで千差万別であるとしました。
したがって、これらの規制措置が公共の福祉のために要求されるものとして是認されるかどうかは、これを一律に論ずることができず、具体的な規制措置について規制の目的、必要性、内容、これによって制限される職業の自由の性質、内容及び制限の程度を検討しこれらを比較考量したうえで慎重に決定されなければならないとしました。
許可制の合憲性判断
一般に許可制は、単なる職業活動の内容及び態様に対する規制を超えて狭義における職業の選択の自由そのものに制約を課するもので職業の自由に対する強力な制限であるから、その合憲性を肯定し得るためには、原則として重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要するとしました。
また、それが社会政策ないしは経済政策上の積極的な目的のための措置ではなく、自由な職業活動が社会公共に対してもたらす弊害を防止するための消極的、警察的措置である場合には、許可制に比べて職業の自由に対するよりゆるやかな制限である職業活動の内容及び態様に対する規制によっては目的を十分に達成することができないと認められることを要するとしたのです。これはいわゆるLRAの基準の趣旨に沿うものです。
そして、この要件は許可制そのものについてのみならずその内容についても要求されるのであって、許可制の採用自体が是認される場合であっても、個々の許可条件については更に個別的にこの要件に照らしてその適否を判断しなければならないとしました。
薬事法違憲判決の具体的適用
薬局開設について許可制を採用したこと自体は公共の福祉に適合する目的のための必要かつ合理的措置であるとしました。また、距離制限を掲げる適正配置規制を定めた許可条件の目的は、主として国民の生命及び健康に対する危険の防止という消極的・警察的目的のための規制措置であり、重要な公共の利益といえるとしました。
もっとも、この目的達成のための手段は設置場所の制限であるところ、薬局等の乱立により生じる競争の激化から経営の不安定へ、そして法規違反という因果関係に立つ不良医薬品の供給の危険が、薬局等の段階において相当程度の規模で発生する可能性があるということは、単なる観念上の想定にすぎず確実な根拠に基づく合理的な判断とは認めがたいとしました。
したがって、設置場所の地域的制限のような強力な職業の自由の制限措置をとることは目的と手段の均衡を著しく失するものであってとうていその合理性を認めることができないとし、適正配置規制を定めた許可条件は22条1項に違反するとしたのです。
小売市場事件と薬事法違憲判決の比較
小売市場事件は、積極的な社会経済政策としての距離制限について明白性の原則を適用し合憲としたものです。一方、薬事法違憲判決は、消極目的としての薬局の距離制限について厳格な合理性の基準を適用し、目的と手段の実質的関連性を事実に即して検討した結果違憲としたものです。両判決は、規制目的二分論のリーディングケースとして対比して理解されています。
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