歳費受領権

49条は両議院の議員は法律の定めるところにより国庫から相当額の歳費を受けると規定しています。本条は普通選挙の普及に伴い財産のない一般大衆が議員となった場合でも議員としての活動能力を保障するために定められたものです。

歳費受領権は国民の代表として国政を託され国権の最高機関たる国会での自主的な活動が期待される国会議員に憲法上与えられている特権の1つです。このような特権として他に不逮捕特権と免責特権があります。

なお議員の歳費額は法律事項であり裁判官におけるような報酬保障規定はないので減額されないことは憲法上保障されていません。歳費の額は一般職の国家公務員の最高額より少なくない額とされていますが、これは憲法上の要請というわけではありません。

兼職禁止の例外

憲法が議院内閣制を採用していることから、内閣総理大臣その他の国務大臣及び通常の行政執行には当たらない政務官である内閣官房副長官、内閣総理大臣補佐官、副大臣及び大臣政務官等については兼職禁止が解かれています。また特に法律で定められた職についても兼職が認められます。

不逮捕特権の趣旨

50条は前段で会期中の不逮捕特権について後段で会期前に逮捕された議員の会期中釈放の要求について規定しています。これは免責特権とともに議会制発達史の中で行政権とりわけ君主権力による妨害から議員の職務遂行の自由を守るための制度として重要な役割を果たしてきたものであり近代議会制の通則に属します。

明治憲法も不逮捕特権を規定していましたが日本国憲法とは異なり内乱外患に関する罪は除外されていたこと及び議院の釈放要求権については規定がなく実例上も否定されていたことが相違点です。

会期中の不逮捕

両議院の議員は法律の定める場合を除いては国会の会期中逮捕されません。会期中とは国会の開会中を意味します。会期外すなわち閉会中の場合にはこの不逮捕特権は認められません。閉会中であれば委員会で継続審議されていても不逮捕特権は及びません。他方で休会していても会期中であるから不逮捕特権が及びます。参議院の緊急集会は会期中と同様に扱われます。

逮捕とは広く公権力による身体の拘束を意味します。司法的な逮捕、勾引、勾留のほか行政的な拘束も含まれます。この特権は訴追されない特権ではありません。

不逮捕特権の法律による除外例

憲法上の特例として議員の逮捕が認められる法律の定める場合として国会法33条があります。第一に院外における現行犯罪の場合です。犯罪事実が明白で不当逮捕のおそれがないことがその理由です。院内における現行犯罪は院の自律性を尊重すべきであるので例外には含まれません。第二に議員の所属する議院の許諾がある場合です。

会期前逮捕における議院の釈放要求

会期前に逮捕された議員についてその所属する議院の要求があれば会期中これを釈放しなければなりません。不逮捕特権は会期中に限られ閉会中の逮捕には及びませんが、閉会中に議員が逮捕され会期が始まった後にもその身体が拘束されるならば不逮捕特権の趣旨が失われるためです。

議院の許諾の判断基準

議院の許諾がある場合には議員の不逮捕特権は認められませんが許諾の判断基準については不逮捕特権の目的をどのように捉えるかに関連して見解の対立があります。

A説は議員の身体的自由保障説であり不逮捕特権の目的は政府の権力により議員の職務遂行が妨げられないよう身体的自由を保障することにあるとし、議員の逮捕に正当な理由がある場合か否かが判断基準となるとします。

B説は議院の活動確保説であり不逮捕特権の目的は議院の正常な活動の保障にあるとし、逮捕請求を受けた議員が議院の活動にとって特に必要か否かが判断基準となるとします。

なお不逮捕特権の目的を行政権や司法権による逮捕権の濫用から議員の自由な活動を保障しもって議院の自主性を確保しようとするものと捉える見解も存します。

許諾に条件や期限を付けることの可否

議員の身体的自由保障説からは許諾についての裁量権を有する以上具体的当否は別として条件等を付しうるとされます。

議院の活動確保説からは2つの見解に分かれます。1つは逮捕を許諾しながらその期間を制限するのは逮捕許諾権の本質を無視し刑事司法の適正を害するため条件等を付けることはできないとする見解です。もう1つは国会の運営や審議の必要の有無について考えうる以上許諾につき必要に応じて条件等を付けることも認められてよいとする見解です。

判例は議院の逮捕許諾権は議員に対する逮捕の適法性及び必要性を判断して不当不必要な逮捕を拒否し得る権能であるとしたうえで、議院が適法にして且必要な逮捕と認める限り逮捕の許諾は無条件でなければならないとしました。

いったん与えた許諾を取り消すことの可否

議院はいったん与えた逮捕の許諾を取り消すことができるかについては不逮捕特権の目的の理解を問わず肯定説と否定説に分かれます。

肯定説は議員の身体的自由保障説からは身体の拘束が不当に長くなれば許諾を取り消すことが必要になることを理由とし、議院の活動確保説からは議院の審議状況の変動によっては取り消すことが必要となることを理由とします。

否定説は安易に取消しを認めれば刑事手続の安定を害することを理由とします。

許諾の手続

各議院の議員の逮捕につきその院の許諾を求めるには所轄裁判所又は裁判官は令状を発する前に内閣に要求書を提出し、内閣はその受理後速やかにその要求書の写しを添えて当該議院にこれを求めなければなりません。議員の逮捕状の請求を受けた裁判官は事前に議院の許諾がなければ逮捕状を発付できません。

免責特権の趣旨

51条は両議院の議員は議院で行った演説、討論又は表決について院外で責任を問われないと規定しています。本条は議院における議員の自由な発言及び表決を保障し審議体としての機能を確保することを目的とします。

免責特権の趣旨の捉え方については争いがあります。A説は議員の免責特権を国会の在り方やその活動面すなわち自律権に完全に解消して捉えます。その理由として免責特権は他の機関との関連で議院の十分な活動を保障するために国会議員に与えられたものであること及び議員の言論活動への萎縮的効果をできるだけ排除し院内の言論の自由を保障すべきであることが挙げられます。

B説は議員の免責特権を国会の在り方やその活動の保障という観点から手段的に政策的に創設された議員の特権と捉えます。その理由として国会が国民代表機関として国政の中心にあって審議の原理を満足させるためには議院の自律権等が必要とされるがそうした工夫の1つとして議員の免責特権を位置付けることができることが挙げられます。B説はさらに免責特権を議員の絶対的な特権を規定したものと捉える見解と、免責特権は憲法の全体構造ないし他の規定との関係からその具体的な妥当範囲について議論の余地を残すとみる見解とに分かれます。後者は免責特権は議院の自律権に付随して国民の福利のために平等原則を部分的に犠牲にして政策的に認められるものである以上限定的に理解すべきであること及び国民の名誉やプライバシー等国民の権利を守る必要があることを根拠としています。

免責特権の人的範囲

免責特権は国会議員の職務遂行の保障に仕えるものである点でその保障は国会議員にのみ及び国務大臣には及ばないと解されています。国務大臣が国会議員でもある場合には議員としての発言については免責特権の保障が及びますが国務大臣として行った発言については免責の対象とはなりません。

免責特権は国会議員にのみ認められるものであり地方議会の議員には認められません。

免責特権の行為の範囲

議院で行ったとは議院の活動の場面で議員としての職務を行うに際してなされたものという意味です。議院の活動といえるものであれば国会の会期中であるか否か議事堂内で行われたものか否かを問いません。参議院の緊急集会、委員会における継続審査、地方公聴会も含まれます。

議員が院内の発言を院外において刊行したような場合はもはや議院で行った発言とはいえず一般の法律によって律せられると解されています。もっとも議院の会議は公開であり会議録が公表されることを理由に会議録をそのまま引用する形での刊行など一定の場合には免責特権が及ぶと解する説も有力です。

免責の対象となる行為の範囲

本条により免責されるべき行為は演説、討論、表決に限られるのかについては争いがあります。

A説は免責の対象となる行為は演説、討論又は表決に限られるとします。法的平等の見地から憲法の根拠なしに免責される行為をむやみに拡張すべきではないことがその理由です。

B説は免責の対象となる行為は演説、討論又は表決に限らず国会議員の職務遂行に付随する行為も広く含むとします。免責特権の趣旨は議員の職務遂行の自由を保障することにあることがその理由です。判例もこの立場をとっています。もっともこの立場に立っても私語、野次、暴力行為等は議員の職務に付随する行為とはみられません。

地位喪失後の責任

本条の趣旨が在任中の自由な発言及び表決の保障に尽きるとすれば議員たる地位の喪失後には理論上在任中の言動への責任追及が可能となりうります。しかしこれを貫くと地位を喪失した後に備えて議員自身が自ら言論活動を自粛する危険があり本条の趣旨が没却されます。そこで議員の地位を喪失した場合も在任中の言動につき免責特権は及び責任追及は否定されます。

免責の内容

国会議員が院外で問われない責任とは一般国民であれば負うべき民事上及び刑事上の法的責任をいいます。議院内で他人の名誉を毀損する演説をした場合には院内でその責任を問われ場合によっては懲罰事犯となり除名処分を行うことも許されます。

本条にいう院外の責任には議員が公務員や弁護士等特殊な法律関係に属する立場を兼ねている場合の懲戒責任も含まれます。

免責特権と国民の名誉やプライバシーの保護

今日会議における発言は直ちにマスメディアを通じて広く流布される状況にあります。このような状況下において一般国民が議員の発言により著しく名誉を毀損されたという場合に法的に全く救済されないことになるのかが問題となります。具体的には国会議員が国会質疑等で人の名誉を侵害する発言を行った場合に当該議員個人に法的責任を問うことができるか、及びその場合に国家賠償責任は生じるかが問題となります。

議員に対する直接請求の可否について、A説は免責特権の性格を絶対的なものと捉えて否定します。B説は免責特権の性格を相対的なものと捉えて肯定します。もっとも訴訟が国会議員の活動を不当に妨げることのないよう最善の注意を払う必要があるとして、議会外の一般市民に対する民事上の救済に限定し議員が表現内容を虚偽と知りつつあるいは虚偽か否かを不遜にも顧慮せずに表現行為に及んだことを被害者の側で立証した場合にのみ請求を認めるべきといった限定付けがなされています。

国家賠償請求の可否について、A説は絶対的免責特権説を前提に国会議員の院内での発言等の行為について国家賠償法上の賠償請求も否定します。その理由として免責特権の相対化や制限を図ることは免責特権と国民の権利利益の救済という価値を比較して免責特権に特別な重要性を認め保障を図ろうとした趣旨を没却すること、国家賠償請求という形にせよ議員の議院での発言について出訴の途を開くことは政敵を攻撃し自らの利益を図ろうとする勢力にそのための手段を与えることになりかねないことが挙げられます。

B説は国家賠償法上の賠償請求を肯定します。その理由として本条の規定は国会議員の発言等の行為を適法とするものではなく一般国民であれば負うべき責任すなわち刑事上及び民事上の責任を免除することを意味するにとどまりたとえそれが絶対的免責を定めたものだとしてもそのことを理由に国が国家賠償法上の賠償責任を負わなくてよいことにはならないこと、国の賠償責任が肯定されたとしても国家賠償法1条2項に基づく求償権の行使が否定されれば51条の趣旨は害されないことが挙げられます。

免責特権と国家賠償に関する判例

判例は、国会議員の発言が国会議員としての職務を行うにつきされたものであることが明らかである場合には仮に違法な行為であるとしても国が賠償責任を負うことがあるのは格別公務員である議員個人はその責任を負わないと解すべきであるとしました。

国家賠償責任については、国会議員は立法に関しては原則として国民全体に対する関係で政治的責任を負うにとどまり個別の国民の権利に対応した関係での法的義務を負うものではないとしました。この理は立法行為のみならず条約締結の承認や財政の監督に関する議決など多数決原理により統一的な国家意思を形成する行為一般に妥当するとしました。

質疑等については多数決原理により国家意思を形成する行為そのものではなく国家意思の形成に向けられた行為であるとし、質疑等の場面においては国会議員が個別の国民の権利に対応した関係での法的義務を負うこともあり得ないではないとしました。しかしながら質疑等は多数決原理による統一的な国家意思の形成に密接に関連しこれに影響を及ぼすべきものであり国民の間に存在する多元的な意見及び諸々の利益を反映させるべくあらゆる面から質疑等を尽くすことも国会議員の職務ないし使命に属するものであるから質疑等においてどのような問題を取り上げどのような形でこれを行うかは国会議員の政治的判断を含む広範な裁量にゆだねられている事柄とみるべきであるとしました。

そのうえで国会議員が国会で行った質疑等において個別の国民の名誉や信用を低下させる発言があったとしてもこれによって当然に国家賠償法1条1項の規定にいう違法な行為があったものとして国の賠償責任が生ずるものではなく、当該国会議員がその職務とはかかわりなく違法又は不当な目的をもって事実を摘示しあるいは虚偽であることを知りながらあえてその事実を摘示するなど国会議員がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情があることを必要とするとしました。

アプリの紹介

過去問を一文一問形式で解けるアプリを開発しました。

司法試験 短答式試験 過去問 問題集

司法試験 短答式試験 過去問 問題集

司法予備試験の過去問を1問1答形式でアプリにしました。 効率的な学習をサポートする独自の機能があります。 1. 一問一答形式:テンポよく学習を進められます 2. 音声読み上げ機能:問題文と解説を聴いて学習効率アップ 3. 学習記録の自動管理:復習日、回数、正解率を簡単チェック 通勤中や隙間時間を有効活用し、効果的に試験対策ができます。 司法予備試験合格への第一歩、今すぐダウンロード! 利用規約 https://www.apple.com/legal/internet-services/itunes/dev/stdeula/

App StoreGoogle Play