保護法益
住居侵入罪の保護法益について立法者は本罪を社会的法益に対する罪と考えていたと推測されますが今日では住居侵入罪は個人的法益に対する罪と理解されています。もっともその保護法益の内容については争いがあります。
平穏説は事実上の住居の平穏を保護法益とします。これに対しては平穏の内容は抽象的であるため社会の平穏に結び付きやすいこと、平穏の内容が不明確であること及び侵入目的を重視し平穏侵害の有無が行為者の主観に依存することを認めるならばなおさら不明確となることが批判されています。
新住居権説は自己の住居への他人の立入りを認めるか否かの自由を保護法益とします。これに対しては住居権の内容は必ずしも明らかでなく誰が住居権者かの問題も解決困難であること及び公共の建造物の場合に管理権者の意思を過度に強調すると平穏説よりも不当に処罰範囲を拡大することになることが批判されています。
住居侵入罪
130条前段は正当な理由がないのに人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入した者は3年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金に処すると定めています。
人の住居
人の住居とは人の起臥寝食に使用される場所をいいます。住居は現に日常生活の用に使用されている限り居住者が常に現在していることを必要としません。1つの建物の中の区画された部屋もそれぞれ独立に住居たりえます。住居は部屋であることを要せずアパートの階段通路及び屋上や住居等の屋根の上なども住居の一部です。家屋や建造物などの所有関係は問わず借家人が日常生活の用に供している借家は借家人の住居です。一時滞在の場所としてのホテルや旅館の部屋や船室もある程度継続的に利用されれば住居にあたります。
居住者が法律上正当な権限に基づいて居住しているか否かは住居侵入罪の成立を左右するものではありません。したがって居住者が賃貸借契約終了後も居住を続けるなど不適法に住居を占拠している場合でもその住居に侵入すれば住居侵入罪が成立します。当該住居の共同生活者は犯罪の主体にはなりませんが家出中の子供が親の家に強盗目的で無断で侵入した場合には人の住居にあたります。
人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船
人の看守するとは他人が事実上管理支配していることをいい他人が侵入することを防止する物的設備又は人的配置があることです。管理人や監視員がいること又は鍵をかけてあること等がこれにあたります。
邸宅とは住居用に作られたが現在起臥寝食に使用されていないものをいい空き家やオフシーズンの別荘がその例です。自衛隊宿舎の共用部分について判例は居住用建物である宿舎の各号棟の建物の一部であり宿舎管理者の管理にかかわるものであるから居住用建物の一部として人の看守する邸宅にあたるとしています。
建造物とは住居用以外の建物一般をいい官公署の庁舎、駅舎、学校等がその例です。庁舎建物とその敷地を他から明確に画するとともに外部からの干渉を排除する作用を果たしている塀は本件庁舎建物の利用のために供されている工作物であって建造物の一部を構成するものとして建造物侵入罪の客体にあたるとされています。
本罪の客体である住居や邸宅及び建造物にはこれらに付随する囲繞地も含まれます。囲繞地というにはその土地が建物に接してその周辺に存在しかつ管理者が外部との境界に門塀などの囲障を設置することにより建物の付属地として建物利用のために供されるものであることが明示されれば足りるとされています。
侵入の意義
住居侵入罪の実行行為は正当な理由がないのに人の住居等へ侵入することですが侵入の意義については保護法益についての見解の対立を反映して争いがあります。
平穏説に基づく平穏侵害説は侵入を住居等の事実上の平穏を侵害する態様での立入りと解します。この見解によると居住者等の意思に反しても平穏な立入りならば侵入にはあたりません。
新住居権説に基づく意思侵害説は侵入を住居権者の意思に反する立入りと解します。この見解によると住居権者の意思に反しない立入りは平穏を害する態様であっても侵入にはあたりません。
判例は130条前段にいう侵入とは他人の看守する建造物等に管理権者の意思に反して立ち入ることをいうと解すべきであるとし管理権者が予め立入り拒否の意思を積極的に明示していない場合であっても当該建造物の性質、使用目的、管理状況、管理権者の態度、立入りの目的などからみて現に行われた立入り行為を管理権者が容認していないと合理的に判断されるときは他に犯罪の成立を阻却すべき事情が認められない以上同条の罪の成立を免れないとしています。
管理権者の意思に反する立入り行為はたとえそれが平穏かつ公然に行われたとしても建造物利用の平穏を害するとされています。銀行のATMが設置された支店出張所にカードの暗証番号等を盗撮する目的で営業中に立ち入った行為についてはその立入りの外観が一般のATM利用客のそれと特に異なるものでなくてもそのような立入りが同所の管理権者の意思に反することは明らかであり建造物侵入罪が成立するとされています。
チラシ等の投かんが禁止されている分譲マンションの共有部分にビラ等の投かん目的で立ち入ることについても法益侵害の程度が極めて軽微なものであったということはできないとして住居侵入罪の成立が認められています。
住居権者の承諾
住居への立入り行為に対する住居権者の承諾は住居侵入罪の成否を決定するにあたって問題となります。
一部の居住者の承諾について平穏説は承諾を得て平穏な態様で立ち入ることは侵入にはあたらないとします。新住居権説のうち積極説は住居権は居住者全てが平等に享有するものであり一方の同意による住居権の行使が他方の住居権を侵害するときには同意は無効となり侵入にあたるとします。消極説はもう一方の居住者も独立の住居権を有している以上その者の推定的同意が得られるかどうかにかかわりなく有効な同意を与えうるので侵入にはあたらないとします。
錯誤に基づく承諾について平穏説は現実化していない違法目的が平穏侵害性の判断に影響しないとすれば未だ住居の平穏を侵害したとはいえず侵入にはあたらないとします。新住居権説は立入りについて居住者の同意があってもそれが錯誤に基づくものであって真意に基づく同意がないときは錯誤による同意は無効であり侵入にあたるとします。ただし法益関係的錯誤説に立つと住居侵入罪の保護法益は立入りの許諾権であるから誰の立入りを認めるかについての錯誤がない以上有効な許諾があったものとして住居侵入罪の成立は否定されることになります。
推定的又は包括的承諾について平穏説は未だ建造物の平穏を侵害したとはいえず侵入にはあたらないとします。新住居権説は客体の性質に応じて社会通念上一般に許される範囲の立入行為である限り看守者によって包括的同意が与えられているものと解しうることから侵入にはあたらないとします。
不退去罪
130条後段は要求を受けたにもかかわらず住居等の場所から退去しなかった者を処罰すると定めています。不退去罪は住居権者の承諾を得て適法に又は過失により住居等に侵入した者が退去要求を受けたにもかかわらず上記の場所から退去しないという不作為を処罰する犯罪であり真正不作為犯です。また本罪は継続犯です。
住居侵入罪を継続犯と捉えると住居侵入罪が成立した後に要求を受けても退去しなかった場合には住居侵入罪が成立する以上本罪は成立しません。
退去要求があった後退去に必要な時間が経過した時点で既遂となるので本罪の未遂が成立する余地はないと解されています。退去要求をすることができる者は居住者や建造物などの看守者及びそれらの者から授権された者です。退去要求の方法は言語や動作で相手が明確に覚知しうるものであることを要します。
未遂罪
132条は住居侵入等の罪の未遂は罰すると定めています。
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