遺言の執行の意義
遺言の執行とは遺言者の死亡後に遺言の内容を実現するため必要な行為を行うことをいいます。本来遺言の内容の実現は遺言者の権利義務の承継人たる相続人が行うべきですが遺言の内容によっては相続人間での利害対立といった理由から相続人自身による公正な執行が期待できない場合があります。そこで遺言執行者に遺言の執行を委ねることにより遺言の適正かつ迅速な執行の実現を可能とするのが遺言執行者制度です。
遺言書の検認
1004条1項は遺言書の保管者は相続の開始を知った後遅滞なくこれを家庭裁判所に提出してその検認を請求しなければならないと定めています。遺言書の保管者がない場合において相続人が遺言書を発見した後も同様です。同条2項はこの規定は公正証書による遺言については適用しないと定めています。同条3項は封印のある遺言書は家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければこれを開封することができないと定めています。
検認は遺言の有効性について判断するものではないから検認がされた場合でも相続人は遺言を無効とする事由があることを主張することができます。
1005条は遺言書を提出することを怠りその検認を経ないで遺言を執行し又は家庭裁判所外においてその開封をした者は5万円以下の過料に処すると定めています。
遺言執行者の指定
1006条1項は遺言者は遺言で1人又は数人の遺言執行者を指定し又はその指定を第三者に委託することができると定めています。指定の委託を受けた者は遅滞なくその指定をしてこれを相続人に通知しなければなりません。
遺言執行者の任務の開始
1007条1項は遺言執行者が就職を承諾したときは直ちにその任務を行わなければならないと定めています。同条2項は遺言執行者はその任務を開始したときは遅滞なく遺言の内容を相続人に通知しなければならないと定めています。
遺言執行者に対する就職の催告
1008条は相続人その他の利害関係人は遺言執行者に対し相当の期間を定めてその期間内に就職を承諾するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができると定めています。遺言執行者がその期間内に相続人に対して確答をしないときは就職を承諾したものとみなされます。
遺言執行者の欠格事由
1009条は未成年者及び破産者は遺言執行者となることができないと定めています。
遺言執行者の選任
1010条は遺言執行者がないとき又はなくなったときは家庭裁判所は利害関係人の請求によってこれを選任することができると定めています。
相続財産の目録の作成
1011条は遺言執行者は遅滞なく相続財産の目録を作成して相続人に交付しなければならないと定めています。相続人の請求があるときはその立会いをもって相続財産の目録を作成し又は公証人にこれを作成させなければなりません。
遺言執行者の権利義務
1012条1項は遺言執行者は遺言の内容を実現するため相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有すると定めています。遺言執行者は遺言の内容の実現を責務とする者であり必ずしも相続人の利益のために職務を行う者ではありません。
同条2項は遺言執行者がある場合には遺贈の履行は遺言執行者のみが行うことができると定めています。
遺言執行者は遺言執行に関する権利主張をすることや自己の名の下で遺言に関する訴訟の原告及び被告になることができます。遺言の実現が妨害される状態が出現したような場合には遺言執行の一環として妨害排除のため所有権移転登記抹消登記手続及び真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を求めることができるとされています。
遺言の執行の妨害行為の禁止
1013条1項は遺言執行者がある場合には相続人は相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができないと定めています。同条2項はこの規定に違反してした行為は無効としますがこれをもって善意の第三者に対抗することができません。善意とは遺言執行者がいることを知らないことを意味すると解されており第三者に対し遺言の内容に関する調査義務を負わせることは相当でないためです。善意の第三者は無効を対抗されることはありませんが受遺者に対し持分の取得を対抗するためには別途登記などの対抗要件を備える必要があります。
同条3項はこれらの規定は相続人の債権者が相続財産についてその権利を行使することを妨げないと定めています。相続人の債権者については善意・悪意を問わず受遺者との間で対抗関係に立ちます。
特定財産に関する遺言の執行
1014条2項は特定財産承継遺言があったときは遺言執行者は当該共同相続人が対抗要件を備えるために必要な行為をすることができると定めています。同条3項は当該財産が預貯金債権の場合には遺言執行者はその預金又は貯金の払戻しの請求及びその預金又は貯金に係る契約の解約の申入れをすることができると定めています。ただし解約の申入れについてはその預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の目的である場合に限ります。
遺言執行者の行為の効果
1015条は遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は相続人に対して直接にその効力を生ずると定めています。
遺言執行者の復任権
1016条1項は遺言執行者は自己の責任で第三者にその任務を行わせることができると定めています。ただし遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときはその意思に従います。遺言執行者の指定がなされる場合に必ずしも十分な法律知識を有していない者が指定されることも多いため遺言執行者に広く復任権が認められています。第三者に任務を行わせることについてやむを得ない事由があるときは遺言執行者は相続人に対してその選任及び監督についての責任のみを負います。
遺言執行者が数人ある場合
1017条は遺言執行者が数人ある場合にはその任務の執行は過半数で決すると定めています。ただし遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときはその意思に従います。各遺言執行者は保存行為をすることができます。
遺言執行者の報酬
1018条は家庭裁判所は相続財産の状況その他の事情によって遺言執行者の報酬を定めることができると定めています。ただし遺言者がその遺言に報酬を定めたときはこの限りではありません。
遺言執行者の解任及び辞任
1019条は遺言執行者がその任務を怠ったときその他正当な事由があるときは利害関係人はその解任を家庭裁判所に請求することができると定めています。遺言執行者は正当な事由があるときは家庭裁判所の許可を得てその任務を辞することができます。
遺言の執行に関する費用の負担
1021条は遺言の執行に関する費用は相続財産の負担とすると定めています。ただしこれによって遺留分を減ずることができません。
遺言の撤回
1022条は遺言者はいつでも遺言の方式に従ってその遺言の全部又は一部を撤回することができると定めています。この規定は方式に関する部分を除いて死因贈与にも準用されます。ただし負担の履行期が贈与者の生前と定められた負担付死因贈与契約に基づいて受贈者が約旨に従い負担の全部又はそれに類する程度の履行をした場合においては取消しをすることがやむを得ないと認められる特段の事情がない限り準用は相当でないとされています。
撤回は遺言の方式によらなければなりませんが同一方式による必要はなく前の公正証書遺言を後の自筆証書遺言で撤回することもできます。
前の遺言と後の遺言との抵触等
1023条1項は前の遺言が後の遺言と抵触するときはその抵触する部分については後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなすと定めています。同条2項は遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用しています。ここにいう抵触とは単に後の生前処分を実現しようとするときには前の遺言の執行が客観的に不能となるような場合のみにとどまらず諸般の事情より観察して後の生前処分が前の遺言と両立せしめない趣旨のもとにされたことが明らかの場合をも包含するとされています。
遺言書又は遺贈の目的物の破棄
1024条は遺言者が故意に遺言書を破棄したときはその破棄した部分については遺言を撤回したものとみなすと定めています。遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄したときも同様です。破棄かどうかは行為の有する一般的な意味に照らして遺言の効力を失わせる意思の現れとみることができるかどうかによって判断されます。赤色のボールペンで遺言書の文面全体に斜線を引く行為は破棄に当たるとされています。
撤回された遺言の効力
1025条は撤回された遺言はその撤回の行為が撤回され取り消され又は効力を生じなくなるに至ったときであってもその効力を回復しないと定めています。撤回の撤回がされた場合でも遺言者が第一の遺言を復活させる意思があるか否かは不明確であるため第一の遺言は復活しないのが原則です。
ただしその行為が錯誤、詐欺又は強迫による場合は例外的に第一の遺言の復活が認められます。また撤回の撤回であっても遺言書の記載に照らして遺言者の意思が原遺言の復活を希望するものであることが明らかなときは遺言者の意思を尊重して原遺言の効力の復活が認められるとされています。
遺言の撤回権の放棄の禁止
1026条は遺言者はその遺言を撤回する権利を放棄することができないと定めています。
負担付遺贈に係る遺言の取消し
1027条は負担付遺贈を受けた者がその負担した義務を履行しないときは相続人は相当の期間を定めてその履行の催告をすることができると定めています。その期間内に履行がないときはその負担付遺贈に係る遺言の取消しを家庭裁判所に請求することができます。
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