質権の意義

342条は質権者はその債権の担保として債務者又は第三者から受け取った物を占有しかつその物について他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有すると定めています。質権とは債権者がその債権の担保として債務者又は第三者すなわち物上保証人から提供を受けた物を占有しかつその物につき他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受けることのできる約定担保物権です。

質権は付従性、随伴性、不可分性及び物上代位性という担保物権の通有性をすべて有し優先弁済的効力及び留置的効力をともに有します。

質権の3類型

質権には動産質、不動産質及び権利質の3つの類型があります。

動産質の設定契約は合意と引渡しを要する要物契約であり引渡しに占有改定は含まれません。不動産質も同様に合意と引渡しを要する要物契約です。権利質については指図証券の場合は合意と裏書及び交付を要し記名式所持人払証券及び無記名証券の場合は合意と交付を要しそれ以外の場合は合意のみで足ります。

動産質の目的は譲渡可能な動産であり不動産質の目的は土地及び建物であり権利質の目的は所有権以外の権利で無体財産権、債権及び株式など譲渡可能な権利に限られます。

対抗要件について動産質は占有の継続であり不動産質は登記であり権利質は467条の規定に従った通知又は承諾です。法人の場合は債権譲渡登記ファイルへの登記でも対抗できます。

質権と抵当権の比較

質権と抵当権にはいくつかの重要な違いがあります。成立要件について質権は要物契約として占有移転を要しますが抵当権は諾成契約です。対抗要件について動産質は占有継続であり不動産質及び抵当権は登記です。

被担保債権の範囲について動産質は無制限ですが不動産質は限定されており抵当権も限定されています。効力の範囲について動産質は引き渡された動産とその果実に限定されますが不動産質及び抵当権は付加一体物に及びます。

果実収取権について動産質は充当権があり不動産質もありますが抵当権にはありません。使用収益権について動産質にはなく不動産質にはありますが抵当権にはありません。

流担保契約について質権は弁済期到来前は禁止されていますが抵当権には流担保の禁止はありません。簡易弁済について動産質は可能ですが不動産質及び抵当権は不可です。

侵害に対して動産質は占有回収の訴えのみが認められ不動産質は質権に基づく返還請求が認められ抵当権は抵当権に基づく妨害排除請求等が認められます。

存続期間について動産質にはありませんが不動産質にはあり抵当権にはありません。順位変更について動産質は不可ですが不動産質及び抵当権は可能です。

質権の目的

343条は質権は譲り渡すことができない物をその目的とすることができないと定めています。質権の留置的効力と優先弁済機能すなわち目的物を換価して代金を弁済に充てることを発揮させるために目的物を譲渡しうるものに限ったものです。

質権の設定

344条は質権の設定は債権者にその目的物を引き渡すことによってその効力を生ずると定めています。要物契約性を示す本条は物権変動につき意思主義を原則とする民法の例外をなします。これは質権の存在を公示して他の債権者に警告しようとすることと質権設定者から目的物を奪うことによって留置的効力を発揮させようとする目的によるものです。

効力の及ぶ範囲は設定契約によって目的とされたものすなわち引渡しがあったものに及びます。従物であっても主物とともに引渡しがあった場合にだけ質権の効力が及びます。

引き渡すの意味について占有改定は含まれません。占有改定では質物が質権設定者の手元に残るため質権の存在を十分に公示することができずまた質権設定者が使用できる状態にある限り留置的効力は確保されないためです。これに対して質権者や他人の手元に質物が存在する状態でなされる簡易の引渡しや指図による占有移転は引き渡すに含まれます。

質権設定者による代理占有の禁止

345条は質権者は質権設定者に自己に代わって質物の占有をさせることができないと定めています。質権設定における要物性を貫くために規定されたものです。

質物の設定者への任意返還について動産質の場合は質権は消滅せず第三者に対する対抗力を失うのみです。質権者による占有は質権成立の要件であって質権存続の要件ではないためです。不動産質の場合は質権の効力には何ら影響がありません。不動産質においては質物の占有は第三者への対抗要件ではないためです。

質権の被担保債権の範囲

346条は質権は元本、利息、違約金、質権の実行の費用、質物の保存の費用及び債務の不履行又は質物の隠れた瑕疵によって生じた損害の賠償を担保すると定めています。ただし設定行為に別段の定めがあるときはこの限りではありません。

質権者の下に占有があり第三者との利害衝突の危険性が減少するので抵当権の被担保債権の範囲よりも拡大されています。利息には重利も含まれます。不動産質の場合には特約がある場合のみ利息を請求できますが第三者に対抗するためにはその特約の登記が必要となります。違約金は違約罰の予定であるか否かを問いません。不動産質の場合は違約金を対抗するために登記が必要となります。

質物の隠れた瑕疵によって生じた損害とは質物の引渡しを受ける際に通常の注意をしても気付くことができなかった質物の不完全さから生じた損害という意味であり目的物が人又は他の物に与えた損害のことをいいます。不動産質の場合には375条の規定が準用されます。

質物の留置

347条は質権者は被担保債権の弁済を受けるまでは質物を留置することができると定めています。ただしこの権利は自己に対して優先権を有する債権者に対抗することができません。

質権が消滅する前に設定者から質物の返還を請求された場合には質権者はこれを拒絶することができ競売により抵当権のように消滅もしないため返還請求の訴えがなされても引換給付の判決ではなく原告敗訴の判決がなされます。

ただし書について自分に対して優先権をもつ者に対しては留置的効力を主張できません。優先弁済的効力において他の担保物権者に劣る場合には強力な保護を認める必要はないためです。先順位の質権者や質権に優先する先取特権をもつ者がこれに当たります。この点で留置権の留置的効力とは異なります。優先権をもつ者によって質物が競売されるときは質権者はその引渡しを拒むことができずただ順位に応じてその売得金から弁済を受けることができるにすぎません。

転質

348条は質権者はその権利の存続期間内において自己の責任で質物について転質をすることができると定めています。転質をしたことによって生じた損失については不可抗力によるものであってもその責任を負います。質権者が一度質物に固定させた資金を被担保債権の弁済期以前に再び流動させることを可能にしようとするものです。

転質には承諾転質と責任転質の2種類があります。承諾転質は質権設定者の承諾を得てなされるものであり責任転質は承諾を要さず質権者の責任においてなされるものです。348条の適用がある場合には298条2項は排除されます。

責任転質の要件としては転質権の被担保債権が原質権の被担保債権額を超過しないこと、原質権の存続期間の範囲内において転質をなすこと及び質物の引渡し等質権設定契約の一般的要件を備えることが挙げられます。ただしこれらのうち前2つの要件を不要と考え一般的要件のみが責任転質の成立要件であると考える見解も有力です。

責任転質の効果として原質権者は転質をしなければ生じなかったはずの損害については不可抗力による場合にも責任を負います。転質がなされた場合には原質権そのものが拘束を受けてその放棄等が制限されるのみでなく原質権の被担保債権もまた転質によって拘束を受け放棄や弁済等によってこれを消滅させることができなくなります。この拘束を債務者に対抗するためには債権譲渡の場合と同様に転質権の設定を原質権者から債務者に通知するか債務者がこれを承諾することが必要となります。原質権者がその被担保債権のうち転質権の被担保債権額を超える部分について弁済を受けたり質権を実行することはできません。

転質権者が転質権を実行するためには原質権の被担保債権についてもまた弁済期が到来しなければなりません。転質権を実行した場合の売得金はまず転質権者の優先弁済に充て残余のあるときに原質権者がこれから弁済を受けます。

承諾転質の成立要件については原質権の被担保債権の額や弁済期による拘束はありません。承諾転質の効力として転質権は原質権から全く独立しているので転質権はそれ自体について要件が整えば原質権実行の要件の成否にかかわらず実行できます。

流質契約の禁止

349条は質権設定者は設定行為又は債務の弁済期前の契約において質権者に弁済として質物の所有権を取得させその他法律に定める方法によらないで質物を処分させることを約することができないと定めています。経済的に優位な立場にある質権者が弁済期前の債務者の窮迫状態に乗じて暴利をむさぼるのを防ぐため質権者が質物から優先弁済を受けるためには法律の定める方法によるべきとし当事者の任意の協定によることを禁止した強行規定です。

弁済期到来後の流質契約は禁止されません。弁済期が到来すれば債務者が差し迫った事情から不利益な契約を強制されるおそれが少ないためです。また質権設定者が弁済に代えて任意に質物の所有権を質権者に移すことができるというような契約は所有権を移すか否かが質権設定者の意思に委ねられているのですから本条により禁止されません。

留置権及び先取特権の規定の準用

350条は296条から300条まで及び304条の規定を質権について準用すると定めています。担保物権一般に共通する不可分性及び物上代位性等について留置権及び先取特権の規定が質権にも準用されるべきことを定めたものです。

不可分性について金銭債権を質入した場合は被担保債権額の超過部分にも質権は及びますが優先弁済は超過部分につきなしえず取立てもできません。

果実からの優先弁済受領権について天然果実は抵当権と異なり質権者が収取して優先的に弁済充当することができます。法定果実は質権者が所有者の承諾を得て質物を使用したり賃貸したりする場合等に問題となりその結果生じた使用利益や賃貸料等は天然果実同様に取り扱ってもよいものとされています。

留置物保管義務について298条が準用され担保に供することはできませんが責任転質はなしえます。不動産質権の場合は承諾なく使用収益をなしえます。

費用償還請求権について299条が準用されます。

被担保債権の消滅時効について300条が準用されます。

物上代位について304条が準用されますが質物が売却されたとしても追及力を失うわけではないので売却代金に関して物上代位を行使する必要性は乏しいです。

物上保証人の求償権

351条は他人の債務を担保するため質権を設定した者はその債務を弁済し又は質権の実行によって質物の所有権を失ったときは保証債務に関する規定に従い債務者に対して求償権を有すると定めています。物上保証人が第三者として債務者の債務を進んで弁済し又は質権の実行によって質物の所有権を失った場合には自分の出損をもって他人の債務を消滅させたのであるから保証人が主たる債務者の債務を弁済したときと同様の関係を呈するためです。

債務者の委託を受けずに物上保証人となることも可能でありその場合でも物上保証人と質権者との間では有効な質権が成立します。ただし委託の有無によって求償権の範囲は異なります。

動産質の対抗要件

352条は動産質権者は継続して質物を占有しなければその質権をもって第三者に対抗することができないと定めています。占有を失うと質権を第三者に対抗できなくなりますが質権は消滅しません。代理占有も含まれますがただし質権設定者による代理占有を除きます。質権者が目的物を賃貸したり修繕等のため他人に保管させたりしても対抗力は消滅しません。

第三者には質権設定者や債務者は含まれません。質権設定者が質物を奪い取った場合に質権者がそれを取り戻そうとするときには質権それ自体に基づく返還請求をなしえます。

質物の占有の回復

353条は動産質権者は質物の占有を奪われたときは占有回収の訴えによってのみその質物を回復することができると定めています。占有を失えば対抗力がなくなるとしながら物権的請求権等を認めることは調和がとれず質権者を保護しすぎるため質権自体に基づく本権の訴えを禁じ質物回復の可能性を占有侵奪の場合に限ったものです。

占有を奪われたとは質権者がその意に反して占有を失ったことを意味します。質権者が質物を遺失したとか詐欺に掛かって物を引き渡してしまった等の場合にはもはやいかなる方法によってもこれを取り戻すことはできません。

動産質権の実行

354条は動産質権者はその債権の弁済を受けないときは正当な理由がある場合に限り鑑定人の評価に従い質物をもって直ちに弁済に充てることを裁判所に請求することができると定めています。この場合において動産質権者はあらかじめその請求をする旨を債務者に通知しなければなりません。

質権者は原則として競売により権利を実行しますが本条は動産質の実行について特別に簡便な方法を認めたものです。正当な理由とは競売が必要ない場合や質物の価格が低すぎて競売の費用がかさみすぎる場合等です。

動産質権の順位

355条は同一の動産について数個の質権が設定されたときはその質権の順位は設定の前後によると定めています。代理占有も占有に含まれることから同一動産上に複数の質権を設定しえます。

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