動物の占有による権利の取得
195条は家畜以外の動物で他人が飼育していたものを占有する者はその占有の開始の時に善意でありかつその動物が飼主の占有を離れた時から1か月以内に飼主から回復の請求を受けなかったときはその動物について行使する権利を取得すると定めています。善意の対象は無主物であることについての誤信であり所有者を特定できなくても他に飼養主がいる旨を誤信した場合は含まれません。
費用償還請求権
196条は占有者が占有物を返還する場合の費用償還請求権を規定しています。占有者が権原なく占有物に費用をかけ物の価値を維持又は増加させた場合の投下費用の回収について定めたものです。
必要費とは物の保存と管理に必要な費用をいい修繕費、飼養費及び公租公課がこれに当たります。占有者はその善意又は悪意を問わずまた所有の意思の有無を問わず必要費の全額の償還を請求することができます。ただし占有者が果実を取得した場合には必要費のうち通常の必要費は占有者の負担となります。果実により得た利益で支弁できるためです。占有者は臨時費ないし特別費の償還は常に請求することができます。
有益費とは物を改良し物の価値を増加させる費用をいいます。占有者は有益費についてその価格の増加が現存する場合に限り回復者の選択に従い占有者の費やした金額又は増加額を償還させることができます。占有者の善意又は悪意を問わず有益費の全額の返還請求は認められません。
悪意の占有者も善意の占有者と同様有益費償還請求権自体を認められる点は異なりません。しかし裁判所は回復者の請求によってその償還につき一定の期限の猶予を与えることができます。その場合は償還請求権は弁済期にないことになり占有者はその物の上に留置権を行使できなくなります。なお償還請求権は占有者の善意又は悪意及び必要費又は有益費を問わず留置権により保護されます。
占有訴権の意義
197条は占有者は占有の訴えを提起することができると定めています。他人のために占有をする者も同様です。自力救済を禁じる一方で物の事実的支配を一応保護することによる社会秩序を維持するための制度です。
占有訴権の主体は間接占有者、他主占有者及び悪意占有者も含むすべての占有者です。盗人、所有者、賃借人、留置権者、質権者及び受寄者がこれに含まれます。占有補助者は占有者ではないため占有訴権の主体とはなりません。
占有保持の訴え
198条は占有者がその占有を妨害されたときは占有保持の訴えにより妨害の停止及び損害の賠償を請求することができると定めています。
妨害は社会通念上認容すべき程度を超えている場合に限られ妨害者の故意又は過失は不要です。妨害の停止とは妨害を除去し原状を回復することをいいその費用は妨害者が負担します。ただし妨害者に故意又は過失がない場合には費用を負担させるべきではないとする反対説があります。妨害停止請求の相手方は現在の占有妨害者です。
損害賠償請求は不法行為に基づくものであり妨害者の故意又は過失が必要です。
占有保全の訴え
199条は占有者がその占有を妨害されるおそれがあるときは占有保全の訴えにより妨害の予防又は損害賠償の担保を請求することができると定めています。
妨害予防に要する費用は一般人の立場から妨害の客観的可能性がある場合に現に妨害の危険を生じさせている者が負担しその者の故意又は過失の有無を問いません。損害賠償の担保請求についても相手方の故意又は過失は必要ありません。
占有保全の訴えでは妨害予防請求と担保請求は他の2種類の占有訴権とは異なり選択的です。いずれかの請求で目的が達成されるためです。
占有回収の訴え
200条1項は占有者がその占有を奪われたときは占有回収の訴えにより物の返還及び損害の賠償を請求することができると定めています。
占有の侵奪とは占有者の意思に基づくことなく占有が奪われたことをいいます。詐取や遺失は含まれません。強制執行による場合は著しく違法性を帯びていない限り占有の侵害とはいえません。賃貸借終了後も賃借人が占有を継続する場合は占有の侵害はありませんが賃貸人が実力で目的物の占有を奪ったときはたとえ賃貸人が本権に基づく返還請求をなしうる場合であっても被侵奪者である賃借人は占有回収の訴えを提起できます。
返還とは侵奪された物の占有を取り戻させ侵奪前の占有を回復させることをいいます。損害は占有を侵奪されたことによる損害であるため占有の回復されるべき目的物の価格によって決定されるべきではなく占有侵奪により失われた目的物の利用利益によって決定されます。
200条2項は占有回収の訴えは占有を侵奪した者の特定承継人に対して提起することができないと定めています。ただしその承継人が侵奪の事実を知っていたときはこの限りではありません。相手方の故意又は過失は問いません。侵奪者が目的物を第三者に貸与している場合でも当該侵奪者に対して占有回収の訴えを提起できます。
承継人が侵奪の事実を知っていたときとは承継人が何らかの形で占有侵奪があったことについて認識していた場合をいい占有の侵害を単なる可能性のある事実として認識していただけでは足りません。特定承継人には侵奪者からの賃借人や受寄者も含まれます。侵奪者や悪意の特定承継人からの賃借人や受寄者などその占有代理人となる第三者に対しては当該第三者が悪意の場合のみ占有回収の訴えを提起できます。一度善意の特定承継人が現れた後はその後の悪意の特定承継人に対しても占有回収の訴えは提起できないとされています。
交互侵奪すなわち占有を侵奪されて占有回収の訴えを提起できる者が現実の占有者から物を侵奪した場合は現実の占有者は侵奪した者に返還を請求しえます。
占有の訴えの提起期間
占有保持の訴えは妨害の存する間又はその消滅した後1年以内に提起しなければなりません。ただし工事により占有物に損害を生じた場合においてその工事に着手した時から1年を経過し又はその工事が完成したときは提起することができません。
占有保全の訴えは妨害の危険の存する間は提起することができます。工事により占有物に損害を生じるおそれがあるときは占有保持の訴えのただし書の規定が準用されます。
占有回収の訴えは占有を奪われた時から1年以内に提起しなければなりません。侵害者から悪意の特定承継人に移転した場合その者に対する提訴期間も最初に侵害者が占有を侵害した時から起算し特定承継人の占有取得時からではありません。
本権の訴えとの関係
202条1項は占有の訴えは本権の訴えを妨げずまた本権の訴えは占有の訴えを妨げないと定めています。同条2項は占有の訴えについては本権に関する理由に基づいて裁判をすることができないと定めています。
本権とは占有を法律上正当なものとさせる実質的権利をいい所有権、地上権及び賃借権がこれに当たります。占有訴権と本権の訴えを同時に提起しても別々に提起してもよく一方で敗訴しても他方を提起することもできます。占有回収の訴えの相手方に所有権その他の本権があったとしてもそれを理由に占有回収の請求を否認することができません。占有の訴えに対し防御方法として本権の主張はなしえませんが本権に基づく反訴を提起することはできます。
占有権の消滅事由
203条は占有権は占有者が占有の意思を放棄し又は占有物の所持を失うことによって消滅すると定めています。ただし占有者が占有回収の訴えを提起したときはこの限りではありません。
所持を失うかどうかは社会通念に従って判断され占有者が自宅でその物を見失っても屋内にある限り占有は消滅しません。占有者が占有を侵奪されて所持を失った場合に占有回収の訴えを提起したときは占有は失われなかったものとして取り扱われます。ただし占有回収の訴えに勝訴して現実に占有を回収したことを要します。侵奪から1年以内に侵奪者から任意に目的物の返還を受けた場合も占有の中断はなかったものとみなされます。
なお占有権はその性質上混同や消滅時効の適用はありません。
代理占有権の消滅事由
204条1項は代理人によって占有をする場合の占有権の消滅事由として本人が代理人に占有をさせる意思を放棄したこと、代理人が本人に対して以後自己又は第三者のために占有物を所持する意思を表示したこと及び代理人が占有物の所持を失ったことを定めています。
204条2項は占有権は代理権の消滅のみによっては消滅しないと定めています。賃貸借契約の期間が満了したのみでは代理占有は消滅しません。貸主と借主という外形が存在している限りその消滅を認めるべきではないためです。
準占有
205条はこの章の規定は自己のためにする意思をもって財産権の行使をする場合について準用すると定めています。
準占有とは物の支配を伴わない財産的利益の事実的支配関係をいいます。成立要件は自己のためにする意思を有すること及び財産権の行使のあることです。財産権の行使とは一般取引観念上財産権がその者の事実的支配のうちに存すると認められる客観的事情があることをいいます。なお所有権や賃借権など占有を伴う財産権行使には準占有が成立しません。
準占有は物の所持を本質的内容としない財産権に限り成立します。準占有の成立するものとしては債権、電話加入権のような特定の債権関係、物の占有を目的としない担保物権すなわち先取特権や抵当権、地役権、鉱業権や漁業権のような準物権、著作権や特許権のような無体財産権及び取消権や解除権のような形成権があります。準占有の成立しないものとしては所有権、地上権、永小作権、質権及び賃借権等があります。
準占有の効果として占有に関する規定が準用されます。侵害排除や現状保全的効力として占有訴権が準用されます。本権取得的効力として取得時効、果実収取権及び費用償還請求権が準用されます。本権公示的効力として占有の公示力及び本権推定力が準用されます。ただし即時取得は準用されません。即時取得は動産の占有に公信力を認めた制度であるためです。
アプリの紹介
過去問を一文一問形式で解けるアプリを開発しました。
