37条の趣旨

憲法は裁判を受ける権利と裁判の公開原則について一般的に規定していますが、37条1項は特に刑事被告人の権利を明確にするため公平、迅速、公開の要件が満たされる必要があることを明らかにしています。37条2項は被告人に対して前段で証人審問権、後段で証人喚問権を保障しています。これらの権利は公正な裁判を確保するうえでの基礎的前提条件をなすものです。37条3項は前段で弁護人依頼権を、後段で国選弁護人に対する権利を保障しています。これは刑事事件において法律の素人である被告人が実質的かつ十分な防御活動を行うためには法律の専門家である弁護人が不可欠であるという思想に基づくものであり、実質的当事者主義の実現を目的としています。

公平な裁判所の裁判

公平な裁判所の裁判とは、構成その他において偏頗のおそれのない裁判所による裁判をいいます。これは公平な裁判を直接保障した規定ではなく、公平な裁判所の裁判である以上、個々の事件において法律の誤解又は事実の誤認等によりたまたま被告人に不利益な裁判がなされてもそれが本条1項に触れる違憲裁判になるというものではありません。

裁判員制度合憲判決

裁判員制度について、憲法には国民の司法参加を想定した規定はないところ裁判員制度に基づき裁判員が構成員となった裁判体は憲法上の裁判所に当たらないのではないか、また裁判員制度の下では裁判官は裁判員の判断に影響や拘束されることになるから裁判官の職権行使の独立を保障した憲法76条3項に違反しないかが問題となりました。

最高裁は、憲法に明文の規定が置かれていないことが直ちに国民の司法参加の禁止を意味するものではないとしました。大日本帝国憲法では法律に定めたる裁判官の裁判を受ける権利が保障されていたのに対し、現憲法32条が保障するのは裁判所において裁判を受ける権利であり表現が改められたこと、最高裁判所と異なり下級裁判所については裁判官のみで構成される旨を明示した規定を置いていないこと等からすると、国民の司法参加と適正な刑事裁判を実現するための諸原則とは十分調和させることが可能であり、憲法上国民の司法参加がおよそ禁じられていると解すべき理由はなく、憲法は一般的には国民の司法参加を許容しており上記の諸原則が確保されている限りその内容を立法政策に委ねていると解されるとしました。

また、80条1項が裁判所は裁判官のみによって構成されることを要求しているか否かは結局のところ憲法が国民の司法参加を許容しているか否かに帰着する問題であるとし、憲法は最高裁判所と異なり下級裁判所については国民の司法参加を禁じているとは解されないから裁判官と国民とで構成する裁判体がそれゆえ直ちに憲法上の裁判所に当たらないということはできないとしました。

さらに裁判員制度の仕組みを考慮すれば公平な裁判所における法と証拠に基づく適正な裁判が行われることは制度的に十分保障されているうえ、裁判官は刑事裁判の基本的な担い手とされているものと認められ、憲法が定める刑事裁判の諸原則を確保するうえでの支障はないとして、憲法31条、32条、37条1項、76条1項、80条1項に違反しないと判示しました。

76条3項違反の主張についても、憲法が一般的に国民の司法参加を許容しており裁判員法が憲法に適合するようにこれを法制化したものである以上、裁判官が時に自らの意見と異なる結論に従わざるを得ない場合があるとしてもそれは憲法に適合する法律に拘束される結果であるから同項違反との評価を受ける余地はないとしました。元来76条3項は裁判官の職権行使の独立性を保障することにより他からの干渉や圧力を受けることなく裁判が法に基づき公正中立に行われることを保障しようとするものですが、裁判員制度の下においても法令の解釈に係る判断や訴訟手続に関する判断を裁判官の権限にするなど裁判官を裁判の基本的な担い手として法に基づく公正中立な裁判の実現が図られており、裁判員制度は76条3項の趣旨に反するものではないとしました。

公平な裁判所の実現

公平な裁判所の実現方法としては、裁判所全体の在り方として組織構造と裁判過程や手続構造の在り方があり、また事件担当裁判所の構成に関する具体的制度があります。

組織構造の在り方としては、裁判所は機構上訴追機関とは別個独立の組織でなければならないこと、裁判所は外部の圧力から独立したものでなければならないことが挙げられます。裁判過程や手続構造の在り方としては、起訴状一本主義や当事者主義が公平な裁判所の要請する手続の基本構造か否かが問題となります。事件担当裁判所の構成については、裁判官等の除斥、忌避、回避の制度が設けられています。なお、実際に地方裁判所で関与した事件を高等裁判所で担当しなければ、ある裁判官が地方裁判所と高等裁判所の裁判官を兼務することも37条1項に反せず許されるとされています。

最高裁判所長官忌避申立て決定

裁判員裁判により有罪の判決を受けた被告人が裁判員制度の違憲性を主張している場合において最高裁長官が裁判員制度の実施に係る司法行政に関与したことを理由に忌避の申立てがなされた事案について、最高裁は、最高裁判所長官は事件を審理裁判する職責に加えて司法行政事務の職責をも併せ有しているのであってこうした司法行政事務に関与することも法律上当然に予定されているところであるからそのゆえに事件を審理裁判する職責に差し支えが生ずるものと解すべき根拠はないとしました。また司法行政事務への関与は具体的事件との関係で裁判員制度の憲法上の適否について法的見解を示したものではないことも明らかであるとして忌避の申立てを却下しました。

迅速な裁判

迅速な裁判とは、適正な裁判を確保するのに必要な期間を超えて不当に遅延した裁判でない裁判をいいます。迅速な裁判が要請される理由としては、国家側からは証拠が散逸するのを回避する必要があること、犯罪の一般予防の観点から速やかに処罰する方が効果も大きいこと、逃亡や再犯や証人威迫の可能性を小さくすることが挙げられます。被告人側からは自己に有利な証拠の散逸を防止すること、身体拘束の長期化を回避すること、訴追による心理的や物質的負担を最小限にすることが挙げられます。もっとも、37条1項が保障するのは被告人の権利としての迅速な裁判であるので国家側の利益はここでの問題とはなりません。

高田事件

起訴後15年以上にもわたって審理が中断されていた被告人について迅速な裁判を受ける権利の侵害を理由に手続を打ち切ることが可能であるかが問題となった事案において、最高裁は、憲法37条1項の保障する迅速な裁判を受ける権利は憲法の保障する基本的人権の1つであり、同条項は単に迅速な裁判を一般的に保障するために必要な立法上及び司法行政上の措置をとるべきことを要請するにとどまらず、さらに個々の刑事事件について現実に同保障に明らかに反し審理の著しい遅延の結果迅速な裁判を受ける被告人の権利が害されたと認められる異常な事態が生じた場合にはこれに対処すべき具体的規定がなくともはや当該被告人に対する手続の続行を許さずその審理を打ち切るという非常救済手段がとられるべきことをも認めている趣旨の規定であると解するとしました。

異常な事態に至っているか否かは遅延の期間のみによって一律に判断されるべきではなく、遅延の原因と理由などを勘案してその遅延がやむを得ないものと認められないかどうか、これにより同保障条項がまもろうとしている諸利益がどの程度実際に害せられているかなど諸般の状況を総合的に判断して決せられなければならないとしました。事件の複雑なために結果として審理に長年月を要した場合などはこれに該当しないのはもちろんであり、さらに被告人の逃亡、出廷拒否または審理引延しなど遅延の主たる原因が被告人側にあった場合には被告人が迅速な裁判を受ける権利を自ら放棄したものと認めるべきであって、たとえその審理に長年月を要したとしても迅速な裁判を受ける被告人の権利が侵害されたということはできないとしました。なお、被告人側が積極的に期日指定の申立をするなど審理を促す挙に出なかったとしてもその一事をもって被告人が迅速な裁判を受ける権利を放棄したと推定することは許されないとしました。

公開裁判を受ける権利

37条1項の公開裁判とはその対審及び判決が一般公開の法廷で行われる裁判をいいます。本条1項の公開裁判は82条の定める公開原則を刑事裁判に関して被告人の権利という側面から規定したものです。

証人審問権

37条2項前段の証人審問権は、被告人に審問の機会が十分に与えられない証人の証言には証拠能力は認められないという趣旨の直接審理の原則を保障しています。これに基づく制度が刑事訴訟法の定める伝聞証拠禁止の原則です。

もっとも、判例は直接審理を厳格に要求するものとは解していません。最高裁は、37条2項に刑事被告人はすべての証人に対し審問の機会を十分に与えられると規定しているのは裁判所の職権により又は訴訟当事者の請求により喚問した証人につき反対尋問の機会を十分に与えなければならないというのであって、被告人に反対尋問の機会を与えない証人その他の者の供述を録取した書類は絶対に証拠とすることは許されないという意味を含むものではないとしています。

また、証人尋問の際にビデオリンク方式によることとされた場合には被告人は映像と音声の送受信を通じてであれ証人の姿を見ながら供述を聞き自ら尋問することができるのであるから被告人の証人審問権を侵害しているとはいえないとされています。

証人喚問権

証人審問権が専ら被告人にとって不利益な証人に関する権利であったのに対し、37条2項後段の証人喚問権は被告人にとって有利な証人に関する権利です。被告人はこの証人喚問権を行使することにより公費で自己のために強制的手続により証人を求めることができます。

もっとも、判例は裁判所がその必要を認めて訊問を許可した証人だけ喚問できるとしています。すなわち裁判所は刑事被告人が自身の弁護のために必要だと主張している証人全員の尋問を採用しなければならないわけではありません。

また判例は、証人喚問権は被告人の防御権を十分に行使させるための権利であるから公費でといっても有罪判決を受けた被告人に対して訴訟費用の負担を命じてはならないという趣旨ではないと判示しています。

弁護人依頼権

37条3項前段は弁護人依頼権を保障しています。判例は弁護人依頼権は被告人自ら行使すべきものであり裁判所や検察官等は被告人がこの権利を行使する機会を与えその行使を妨げなければよいとし、憲法は弁護人依頼権を特に被告人に告げる義務を裁判所に負わせているものではないとしています。これに対し学説では弁護人依頼権を被告人に告げる義務があるとする立場が有力です。その理由として、弁護人依頼権が実質的に行使できるように依頼権の告知や依頼方法の教示なども憲法が要請していると解すべきであること、依頼権は弁護人の援助を得るために認められたものであるから援助が実質的に得られることまで保障内容に入ると考えなければならないことが挙げられています。

37条3項のいかなる場合にもの意味について判例は、氏名を記載することができない合理的な理由がないのに署名しないで弁護人選任届を提出した場合その届けによってした被告人の弁護人選任は無効であるとしました。これに対し学説からは被告人が明示的に権利を放棄したような場合でない限りこの権利の制限につながるような解釈は認めるべきではないとの批判がなされています。その理由として、本条項の表現の中に刑事手続においては弁護人の存在は不可欠であるという憲法の立場を読み取るべきであることが挙げられています。

国選弁護人依頼権

37条3項後段は前段の弁護人依頼権を実質化すべく国選弁護人依頼権を保障しています。国選弁護人依頼権は権利であるから自らそれを行使しようとする者にのみ保障すればよく、被告人からの請求をまって国選弁護人を付することにしている刑事訴訟法36条は合憲とされています。自ら請求しなければ権利の放棄とみなされます。

また国選弁護人依頼権の存在を被告人に告知することは憲法上の要請ではないとされています。もっとも刑事訴訟法は被告人に権利の存在を告知することにしています。なお国選弁護人の費用はすべて国が負担するとは限りません。

被告人の再度の国選弁護人請求に対し裁判所がこれに応ずる義務があるかについて、最高裁は訴訟法上の権利は誠実にこれを行使し濫用してはならないとしたうえで、被告人がその権利を濫用するときはそれが憲法に規定されている権利を行使する形をとるものであってもその効力を認めないことができるとし、このような場合には形式的な国選弁護人請求があっても裁判所としてはこれに応ずる義務を負わないと判示しました。

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