殺人の罪の保護法益

殺人の罪の保護法益は個人の生命です。

殺人罪

199条は人を殺した者は死刑又は無期若しくは5年以上の拘禁刑に処すると定めています。

人の始期と終期

自然人が殺人罪の客体となりうるのは出生後に死亡に至るまでの間です。

人の始期について判例は胎児の身体の一部が母体から露出したときとしています。これを一部露出説といいます。なお民法においては胎児の身体の全部が母体から露出したときが人の始期であるとする全部露出説が通説です。

人の終期は生命及び身体に対する罪と死体損壊罪との分水嶺となる問題でありその判断基準について争いがあります。呼吸、脈拍の不可逆的停止及び瞳孔拡散の三徴候を基礎として総合的に判断する見解すなわち三徴候説や脳機能の不可逆的喪失の時点とする見解すなわち脳死説等が対立しています。

殺す行為

殺人の故意をもって自然の終期に先立って他人の生命を断絶することを意味します。手段や方法のいかんを問いません。不作為や間接正犯の形態による殺人も可能です。

殺意の認定

殺人罪の故意すなわち殺意を証明する直接証拠が存在せず情況証拠のみによって認定しなければならない場合も多くあります。その判断においては客観的に死の危険性が高い行為をしたかその認識があったかという点を考慮します。その際には犯行の態様すなわち凶器の種類や形状及び用法、創傷の部位や程度が特に重要な要素となります。

殺人予備罪

201条は殺人罪を犯す目的でその予備をした者は2年以下の拘禁刑に処すると定めています。ただし情状によりその刑を免除することができます。

予備とは殺人罪の実行の着手に至る前の殺人の準備行為一般をいいます。目的とは具体的に自ら殺害行為を遂行する意図のことをいいます。他人に殺人を行わせる目的いわゆる他人予備は殺人罪の幇助にほかならないので殺人予備罪は自己予備についてのみ成立し他人予備については成立しないと解するのが一般的です。

自殺関与罪

202条前段は人を教唆し若しくは幇助して自殺させた者は6月以上7年以下の拘禁刑に処すると定めています。

ここでいう人とは死の意味を理解し自由な意思決定の能力すなわち同意能力を有する者をいいます。被害者が幼児である場合や精神障害者である場合にはこれらの者には同意能力がない以上そもそも自殺関与罪や同意殺人罪の構成要件該当性が否定され通常の殺人罪が成立します。

教唆とは自殺の決意を有しない者を唆して自殺の決意を与え自殺を行わせることです。教唆の手段には制限はなく明示的方法のみならず暗示的方法でもよいとされています。ただし意思決定の自由を奪う程度の手段や方法であるときは殺人罪の間接正犯となります。

幇助とはすでに自殺を決意している者に対してその自殺行為を援助し自殺を容易にさせることです。

殺人罪と自殺関与罪の区別

殺人罪と自殺関与罪又は同意殺人罪とは相手方の意思に反していたか否かにより区別されます。相手方の意思に反していないといえるためには自殺者又は被殺者に死の意味を理解し自由な意思決定をする能力すなわち同意能力があること及び自殺ないし殺人の嘱託や承諾が任意かつ真意に出たものであることが必要となります。

追死の意思がないのに被害者を欺き追死するものと誤信させて自殺に至らせた場合に判例は一貫して通常の殺人罪が成立するとしています。学説上は追死の事実は自殺の決意の本質的要素であり追死してくれるというのが嘘であると分かっていれば自殺しなかったはずであるのでその自殺の決意は無効であるとして判例を支持する見解すなわち承諾無効説があります。一方で追死に関する欺罔は自殺することの動機の錯誤にすぎず死ぬこと自体について錯誤があるわけではないのでその自殺の決意は有効であって自殺関与罪が成立すると解する見解すなわち法益関係的錯誤説も有力に主張されています。法益関係的錯誤説は法益に関係する錯誤についてのみ承諾が無効となりこれに関係しない動機の錯誤があっても承諾は有効であると解します。

また虚偽の事実に基づく欺罔威迫等の結果もはや自殺する以外途はないと誤信させて自殺の決意を生じさせたときは被害者を利用した殺人行為に該当するとした裁判例もあります。

自殺関与罪の着手時期

自殺の教唆ないし幇助を行ったが本人が意を翻して自殺行為に入らなかった場合に自殺関与罪の未遂となるかが問題となります。

教唆行為や幇助行為の時点で自殺関与罪の未遂犯が成立するとする見解すなわち教唆幇助行為基準説があります。しかしこれに対してはより違法性が高い通常の殺人教唆や幇助の場合とのバランスを考慮すると実行の着手時期が早すぎるとの批判がなされています。

そこで自殺関与罪は独立の犯罪であるとしても自殺者の生命を侵害した点に自殺関与罪の処罰根拠がある以上生命に対する現実的な危険性が発生した時点すなわち自殺行為への着手の時点で自殺関与罪の未遂犯が成立すると解するのが通説です。これを自殺行為基準説といいます。

自殺関与罪が既遂となるためには被教唆者や被幇助者が自殺を遂げたことを要し教唆や幇助によって本人が自殺しようとしたが死にきれなかったときは未遂にとどまります。

同意殺人罪

202条後段は人をその嘱託を受け若しくはその承諾を得て殺した者は6月以上7年以下の拘禁刑に処すると定めています。

嘱託とは被害者がその殺害を依頼することをいいます。承諾とは被害者がその殺害の申込みに同意することをいいます。本罪の故意としては殺意が必要です。客観的には被害者による殺人行為の嘱託が存在していたが行為者がこれを理解せず暴行又は傷害の故意で嘱託された行為に及んで被害者を死亡させた場合には殺意がない以上嘱託殺人罪は成立せず傷害致死罪が成立します。

被害者の嘱託や承諾に関する行為者の認識の要否

殺意に加えて被殺者が嘱託又は承諾していたことについて行為者が認識していたことが必要かが問題となります。

消極的錯誤すなわち被害者の承諾が存在していたが行為者がこれを知らなかった場合については被害者の嘱託や承諾についての行為者の認識がなくても客観的に被害者の真意に基づく嘱託や承諾が存在する以上被害者の意思に反する生命侵害の危険性はないので殺人罪の実行行為性が認められず同意殺人罪が成立すると解する見解が通説です。裁判例もこの立場に立っています。

積極的錯誤すなわち被害者の同意がないのにあるものと誤信して殺害した場合については抽象的事実の錯誤が問題となり38条2項の適用により構成要件が実質的に重なり合う限度で同意殺人罪が成立します。

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